第1章 7話 泣いてみたり笑ってみたりイキってみたり



ー愛している


そんな事をまじまじと正面向かって言われたことはこの時が初めてだと少年は語る。彼も男の子だったのだ。そんな事を言われたら落ちてしまうらしい。


また飛び降りたのかって?違う違う、この状況で落ちると言ったら1つだけだろう。


バキューン!・・恋だよ。


ふむ、尊敬している人の色恋沙汰を活字にして書き表すと言うことはこうも恥ずかしい事なのか、まさに初体験だった。


くだらないことは置いといて話を続けよう。


少年は恋に落ちる。愛の力とは絶大なものである。


「あ、私はこの世全てを愛しているだけで、別に貴方だけに抱いてる特別な感情とかじゃないから」


例えそれが空回りの熱でも。


久々に少年の脳から体に向かって動けという指示が出る。少年は立ち上がる。そして


「すまんがそこの尖った石を拾ってくれないか」


少年はエルピスの足元の石器の様な石を指差しながら言う。


突然立ち上がり、流暢に話し出した彼に少し驚きつつも石を拾い、手渡す。


「こ、これのこと?」


「あぁこれだ」


エルピスから石を受け取ると少年は


ズバリ


とその長く伸びきった髪の毛を邪魔にならない程度の長さで何の迷いも無く断ち切った。まるで今までの過去を捨てるかの様に。


その行為で少しけじめがついたのか、少年は人が変わったかの様に話し出す。


「よっしゃ!お前について行ってやるよ!あ、旅が終わるまではモロでいいからな。さっきから俺の呼び方困ってただろ」


その話す姿に先ほどまでの弱々しさはどこにも無く、その代わりに明るくたくましい少年の面影がそこにはあった。


先ほどエルピス本人も言っていたが、彼女は暗いよりも明るいの、楽しいことが好きだ。だからこそ彼女の口角は知らずうちに上がる。ワクワクする様な笑みが思わず溢れる。


「ははっ!やればできるじゃないか!そう!その調子だよ!グリ!!」


「ギャオ!!」


久々の楽しげな呼びかけにグリも答える。


その小さくマスコットの様な体は人を乗せるには十分な大きさになり、飾りの様な羽はみるみるうちに幻想的な巨大な羽に変化する。顔立ちも凛々しくなったその姿はまさに幻獣グリフォンそのものだった。


「お前ほんとにグリフォンだったんだな・・」


少年が驚きの声を漏らす中、エルピスはその背中に飛び乗りまたがる。


「ほら!早くしないと置いてっちゃうよ!」


エルピスの挑発に乗り、モロも続けて背に飛び乗る。


「よっしゃ!世界最大の罪滅ぼし、最後まで付き合ってもらうぞ!」


「あ、そういうのはダサいんでやめといた方がいいですよ」


「へっロマンの無いガキだなぁ」


「うわっこの引きこもり凄くウザくなった。やっぱ置いてこかっな。それに!私はガキじゃ無いし!」


「俺は600歳を超えてるんだぞ?この世に生きている人間なんて俺からしてみりゃ全員ガキだよ」


とりとめのない会話が続く。その光景はとても微笑ましく、この光景が人類の希望の光と言われても納得できてしまうような光景だった。


「さて無駄話はここまでにしてそろそろ出発しますか」


「そうだな」


「グリ!」


「グォゥ」


グリのその立派な翼が大きく開く。雲が晴れ、太陽が照りつける、心地よく吹く風が2人を祝福する。さわさわと周りの草木も行ってらっしゃいと2人に言う。


2人は右手を上げ人差し指で空を指し、希望に満ち溢れた声で叫ぶ。



「しゅっぱぁぁぁぁつ!!!」


2人を乗せたグリが大空へ羽ばたいていく。その楽しそうな姿は英雄でも死神でも無くただのお似合いカップルにしか見えなかったとか何とか。

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虹色の冒険譚 ぺん音 永夢 @aki-321

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