第1章 6話 呪いと救い


とある田舎の村に現れた一人の死神、それはこの世の悪の具現化である。鬼、幽霊の様に子供のしつけに使われることもある。

その怖い怖い死神はその姿を見ただけで命を奪われてしまうと言う。不老不死で今もこの荒れた世界の何処かにいる死神。その存在は嘘か真か・・

「見たいな話は知ってるか?」

少年はエルピスに説明し始める。

「知らない」

「ギュウん・・」

「グリも知らないって」

当然ながら記憶の無いエルピスがそんな事など知るはずも無く少年は悪戦苦闘していた。

「だろうな、だが今知ったな」

「うん。死神がこの世界にいるんだね」

エルピスはそんな普通では信じない様なことでもすんなり受け入れる。

「そうだ。その死神の正体が俺なんだ」

「だから村人は死んだし、俺は一人だ」

「それはさっきのふざけた芝居で聞いた!私が聞きたいのはどう見ても人間の貴方が死神て呼ばれているかなのよ!!」

再び声を上げるエルピス、その声にはだんだんイラつきがこもってきている様に聞こえる。

「わかったわかった、ここからがメインだだから大人しくして聞け・・」

少年は高ぶるエルピスを抑えながら語る。

「俺につけられた呪いの名は・・不老不死の呪いだ」

少年は人の一生の時間を何度もこの呪いのせいで生きてきた。それだけで死神と呼ばれるには十分な要素だろう。しかし・・・・

「しかしただの不老不死ではなかった。タチの悪い不老不死でな、他の人の生命力を吸収しないとその真価を発揮しないんだ。そしてこの呪いは自分の意思とは裏腹に生命力が足りなくなると勝手に周りの人の生命力を無差別に吸い込む。そのせいで村人は全員死んだ。今はこの力は制御できる様になったが、一度広まってしまったことはかき消すことは難しい、それにかき消すもなにも事実だしな」

少し寂しそうな顔で語る少年はエルピスを動かすには十分過ぎる燃料だった。

「そうかい、だから貴方は死神と呼ばれその時の罪滅ぼしでこの600年間ここで罪の名を背負い続けたと」

「そうだ」

全てを知られた少年は先ほどまでの態度とは裏腹に素直に頷く。

「ふ〜ん」

フッとエルピスはくだらない物を見たときかの様に少年を鼻であしらう。それにつられてグリも羽をばたつかせる。

「いつまでそんなとこで引きこもってんのよ。ん・・引きこもっては無いから・・立ち止まり?」

「まぁなんだっていいわ!貴方、やっぱり私について来なさい!」

そのエルピスの態度はどこかずうずうしく少し憎たらしい態度だったが、自信と慈愛に満ち溢れており少年の目を惹くには十分な美しさだった。

「私について来たら、この世界の人間全員を救える。ほら、この上ない罪滅ぼしでしょ?」

「そして貴方の罪が晴れた暁には・・私が新しい名前をあげるわ!消えない物は上から塗りつぶしちゃえばいいのよ、死神としてこの世界に染み付いた名前ではなく、この世界を救った英雄としての名をね」

死神と呼ばれてから600年の間、誰からも救いの手を差し伸べられなかった、誰も自分をわかってくれなかった。しかし今、この時少年の前に初めて差し伸べられた救いの手がある。その手を前にして少年は涙を流しながら囁く。

「どうしてそこまでしてくれるのの?」

エルピスは初めて弱さを見せた少年に微笑みながら、

「往生際が悪くて、悲観的で、意地悪で、嘘つきだけど、とっても優しくて繊細な君を私が・・


愛してるからよ」



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