ブレインネットの3度におよぶ大不祥事

ちびまるフォイ

歴史から抹消された伝説の不祥事

「今回の不祥事についてどうお考えですか!!」


記者会見の会場は記者とやじ馬でごった返していた。


「えーー、この度発生いたしました

 ブレインネットの情報漏えいにつきましては

 こちらでも冷蔵庫の他人のプリンを勝手に食べたくらい深刻に受け止めております」


人間の記憶には限界があるし誤りもある。

だったら、クラウドサーバーにでも預けとけばいいじゃん。


そんな一言から誕生した「ブレインネット」はまたたく間に世界に受け入れられ、

一般の人はもちろん、企業の人から、ペットまで利用するほど広がった。


「確かな筋での情報によると、

 ブレインネットに収められていた機密情報も漏洩しているとか」


「はい、その点についても正直にお伝えします。

 ブレインネットに登録されていた私の秘蔵の熟女の記憶が

 ハッカーの手により一般の人に無差別に拡散してしまいました」


「そっちじゃなくて」


「他にも、時空間渡航に関する機密文書の記憶や

 未公開の映画のアイデア、最先端科学の記憶データなども

 ブレインネット登録者すべてに無条件公開されていました」


「今回の件についてどう思ってるんですか!」


「こちらとしても重く受け止めて、再発防止に努めたいと思います」


これ以上の追求から逃れるようにブレインネット関係者は席をたった。

その間も鳴り止まないフラッシュの音が続いた。


それから数日後、同じ会見場所に同じ人が頭を下げた。


「えーー、この度、2度めのブレインネットの情報漏えいにつきまして

 みなさまに多大な迷惑と話題を提供したこと、お詫び申し上げます」


バシャバシャとすさまじいフラッシュの明滅が起きた。

記者はここが勝負どころとばかりに質問を剛速球で投げつける。


「2度めの情報漏えいですよ!」

「再発防止はどうしたんですか!」


「みなさまのお気持ちもよくわかります。

 ただ、私どものセキュリティをやすやすと突破してしまうほど

 今回の情報漏えいに関わったハッカーは優秀でして……」


「そんなのいいわけだ!」

「そうだそうだ!」

「おかげで、好きなあの子に俺の気持ちを知られちゃったじゃないか!」


「こちらといたしましても、現在調査を続けておりまして……」


「そんなのは当たり前だ!」

「それよりお腹空いたよ!」


2度めともなると記者からの追及も強く、厳しくなっていく。


「今回はどういった情報が流出したんですか?」


「私の実家にあるいやらしい本の隠し場所の記憶が――」

「お前じゃねぇよ」


「今回、とくに大きいものは科学研究所の記憶データになります。

 どんな亜空間でもけして壊れない最先端素材の研究記憶が

 ブレインネット登録者すべてに拡散されてリツイートされてしまいました」


「利用者の気持ちは考えたことあるんですか!」

「内部の者の犯行なんじゃないんですか!」


「はい、こちらではなお一層セキュリティを強化して

 厳しい監視体制のもと再発防止に努めてまいりたいと思います」


「勝手にまとめないでください! まだ聞くことはあるんですよ!」

「ベイルアウト」


記者会見場の椅子が浮き上がり、天井を突き破って吹っ飛んだ。

ブレインネット関係者は空の彼方へ消えて、それ以上の追及を逃れた。


時空間やら最先端素材やら、第一級の機密情報が漏れてもなお利用者がい続けるのは

ブレインネットが広く人々の生活に根付いているのもあった。



それから数日後。



お茶の間にも見知った関係者の顔が、記者会見場に並んだ。


「いやーー……あのぉーー……」


3度目ともなるとあれだけ騒がしかった記者団も何も言わなかった。

ただ呆れてしまっていた。


「この度は、3度目の情報漏えいをやらかしてしまったこと

 大変に反省し、ここにお詫び申し上げます。申し訳ございませんでした」


「……今回は何を流出させたんですか?」


「あらゆる時空を突破するほどの推進力を持った新型エンジンの情報を

 ブレインネット利用者すべてに拡散してしまいました」


「お前のは?」

「あ、私の女装趣味の記憶は流出してませんでしたよ」

「お前のはセーフだったのかよ!!」


ブレインネットのがばがばセキュリティに記者たちは遅れて怒りがこみ上げてきた。


「今回を含めた一連の不祥事、どうお考えですか!」

「あれほどの機密情報を利用者に流出して反省してないんですか!」

「これらの件をいったいどうやって責任を取るつもりですか!!」


「みなさん、安心してください。もちろん、対策は考えています」


しどろもどろになる想定だったはずが、落ち着いた姿勢を見せたので記者たちは拍子抜けした。


「対策とは具体的にどうするんですか?」

「今回の不祥事をチャラにできるほどの対策でしょうね?」


「ええ、もちろんです。みなさん、これまで利用者に流出した情報を思い出してください」


「時空間渡航に関する機密情報?」

「あとは、絶対に壊れない新繊維の記憶だろ」

「今回のが、時空突破する新型エンジンだったな」


それを聞いて、ブレインネット関係者はうなづいた。




「はい、あとはブレインネット利用者の誰かがタイムマシンを作るだけです。

 それでこれまでの流出を見事防いでみせましょう!!」

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