第70話 トラッカー トト

 「・・・」こっとん、きぃー。「わっ、…わたしはぁ、いいけど」

 「・・・」ぱしぱしぱし。「ひっ、独り占めぇ~、あほぉ」

 「・・・」きぃー「ドロシー、怒るかなぁ~」

 「・・・」「もっ、もぉ~ぅ、降ろして」

 「・・・」ぱっさ「ホテルなんかに連れて来てぇ~」



 「うっ、美しいぃ~、ドロシー、綺麗だ」

 そして又、ピカソの絵の様な素晴らしい造形美の顔になった。


 「ライオン、ドロシーを乗せれるかい」「がうっ」

 「じゃぁ、お願いするよ。ドロシー、ライオンに乗って」

 ドロシーがライオンにまたがる。「お願いねライオンさん」「がうぅぅぅ」


 「トト、匂いを追って」「わう~~~ぅ」「ちょっ、トトッ」

 途端とたんにトトが走りだした。早っ、でも大丈夫、足腰は鍛えてる。


 道に飛び出したトトはあやうい、車なんてまったく気にしていない。

 「トト、トトッ、止まるんだっ、トトッ」「わぁぅ」


 「そうだトト、良い子だ、良い子だぞぉ~。トト、そこでじっとしてるんだ」

 トトは電車の高架こうか下に向かって走りだし、一気に道路を渡った。

 このまま野放しにしたら、車にはねられる。


 「ゆたかどうするの」

 「ドロシーはライオンが車にはねられない様に、道路を渡って、僕はトトの首を、ロープで縛るよ。気ままに走らせたら車にはねられる」


 僕とライオン、ドロシーは注意深く道路を渡り、トトのそばに行った。

 トトはそれはもう盛大せいだいにしっぽを振って、僕に飛びつくすきうかがっている。


 「さあ、トト、おいでっ」「わあう~~~っ」「お~よしよしよし、良い子だ」

 僕は焦る気持ちを抑る。

ここで唯一の手掛かりのトトに万が一の事があれば、ルイーズを探す事が出来なくなる。


 それだけじゃない。

トトもライオンも案山子かかしもブリキも、ドロシーの一部だ。

傷つけばドロシーも傷付く。

 そんな事があってはならない、絶対に。


トトに言い聞かせる。

 「トト、お前は良い子だ。そうだろう」「わうぅ」

 「そうだ。だから道路に飛び出しちゃだめだぞ。わかるか」「わん」


 「そうか、お~よしよし、偉いぞ。じゃあ、これから首にロープを巻くけど、我慢がまんするんだぞ」

 「わんわん」


 「そうかそうか、トトは賢いなぁ~。今度、もっと素敵な首輪をプレゼントするから、今日は我慢がまんしてくれ、良いか」

 「わあう~」「う~んい~子だあ~、一生放さないぞう」


 下にトトを下ろし、犯人捕縛ほばく用に持っていたロープを手早く首に巻き縛る。

 あっ、あれ、ドロシーとライオンが何か言いだげだ。

 ライオンが口を尖らせているし、気のせいか耳がぴくぴくしてるし、眼光も鋭い、何だろう。

とにかく今は一刻を争う。「どっ、どうしたのドロシー」「別にィ~」



 「・・・」ばさー「きゃっ、やぁ~、せかしちゃやぁ~」

 「・・・」すんすん、くんくん、くんかくんか。「だめっ、いまだめ」

 「・・・」「嫌っ、乱暴に脱がしちゃ嫌っ」

 「・・・」「ゆたか、少しくちゃいから、シャワー行って来て」

 こくこく。「・・・」「その間に、お洋服を脱いどくから、ねっ」

 こくこく。「・・・」

ゆたかの後で、私もシャワーするから、ドロシーにはゆたかがちゃんと言ってね」

 こくこく。「・・・」


 「ラヴホテルって、こんななってるんだぁ、お部屋は私達の寝室より少し広いかな、うーん、ベットは私達の方がちょっとだけ広いかな、でもぉ~、天蓋てんがいが付いてる。…これはいらないかな、ゆたかにくっついて、プロジェクターで映画見てる方がいいかなぁ~」



 「トト、ルイーズの匂いを追って、道路に飛び出しちゃだめだぞ」「わ~ん」

 道は高架に沿って延びる道と、公園の横の道が交差している。

 しかし、十字路ではない。

高架の下にもう一本横道があり、少し分かりにくい交差点になっている。


 トトは、小型犬サイズ、でも結構ぐいぐいと僕を引っ張る。

 トトは高架下の、もう一本の横道にぐいぐいと僕を引っ張る。

 ライオンにまたがるドロシーを見て、通り過ぎる人は驚く、と言うより、うらやましそうに見て通る。

 どんな風に見えているんだろう。


 「トト、交差点だ、車が来てないか見るんだぞ」「くぅ~、わん」

 「トト、渡るのか」「わん」

 「急ごう、ライオン、ドロシー大丈夫」「ライオンさんも私も大丈夫」


 トトは真直ぐに進む。

不思議な事に地面ではなく、空気の匂いを嗅いでいる様だ。


 又、交差点に差し掛かる。「トト、偉いぞ、ちゃんと車が来てないか見るんだ」

 「わうぅーーーっ」「トトぉ、嬉しくても吠えちゃダメ」

 「うぅぅぅぅっ」「うならないで」「わん」「良い子ね」「わん」


 トトが道を渡り、先に進む。

 やはり空気の匂いを嗅いで追っている様だ。

 4車線の大きな交差点に差し掛かる。トトをかかえる。


 「トト」「はうはうはう」

 「分かった分かった後で遊んであげるから、もう少し頑張って」「わんわん」


 「トト、この道、渡るのか」「はうはうはう」「トト」「わんわん」

 「そうか渡るのか。信号が変わった。ドロシー、ライオン渡ろう」


 「トトばっかりぃ」「がうぅぅっ」

 「ドロシー、今はトトに頼るしか方法がないんだ」


 僕達は横断歩道を渡りトトを降ろした。「うぅぅぅぅぅぅっ」

 「トト、降りてくれないか、ルイーズの匂いを追って」「うぅぅぅぅぅっ」


 「分かった、ちゃんとルイーズを追いかけるんだぞ」「わう~ん」

 「トトぉ」ぷい。「あっ、トトっ」「がうぅぅ」

 「トト、右か」「わう」「左か」「わう」「真っ直ぐか」「わんわん」


 僕が指をさしてトトに尋ねると、吠えて答える、何となく分る様になった。

 「真っ直ぐなんだなドロシー、ライオン行こう」「もうぅぅ」「がううぅぅ」


 僕はトトをかかえたまま走る。

 腕を振れないの凄く走りにくい。

 ライオンが僕の横に来た。「ゆたか大丈夫」

 「大丈夫」「わんわん」


 今度は2車線の交差点、トトが飛び降り、左に走り出す。

 「トト、左か」「わんわん」


 またも2車線の交差点、トトが止まらない。

 「トト、トトッ、飛び出すなっ。トトが怪我けがをしたら僕は悲しいぞ」「くうぅ~」


 「良い子だトト、右か」「わう」「左か」「わう」「真っ直ぐか」「わんわん」

 「良し、車は来てない、行こう。ドロシー、ライオン、辛くない」

 「大丈夫、有難うゆたか」「がう」


 僕達はトトの行く方に進む。

 「わんわん、わんわん、わんわん、わんわん」

 「トト、・・・ここにルイーズがいるのか」

 「ゆたか、ここ、ホテル」「がうう」

 トトが突き止めた所は『HOTEL NEW 七色』、ルイーズがラヴホテルに。

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私、ドロシー? パパスリア @inOZ

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