外来種ってやつ

 外来種問題っていうけど、あれはどういう問題なんだろう。なんか色々本が出てるけど、あんまり読んでないや。


 日本の文献に残っているうちで一番古い外来種の侵入、ってなんだと思う?

 僕が思うに、天孫降臨だよ。

 ……こういうことは冗談にするとしても、正しいことみたいにして使ってる言葉って、案外定義がしっかり分かっていなかったりするよね。お守り言葉とかっていうらしい。こんなに曖昧なことを、よくちゃんと考える人がいたもんだ。

 言葉を書く/読む人なら、願わくは、ひとつひとつ考えて使っていたいよ。できないことのほうが多いけど。


 外来種ってなんだろうね。

 だいたいは、明治以降に日本に入ってきた生物のことを指すみたい。でも、実際使われる「外来種」って言葉は、その説明よりもずっと刺々しく感じる。どうしてだろう。特撮怪獣みたいにガギグゲゴで始まるからだろうか。ゴジラ、ギドラ、ガイライシュ。悪い並びじゃないね。電気攻撃とかしてきそう。

 外来種だと言われる生物は、有名どころだとブラックバスやブルーギルあたりかな。人によってはヒアリとかが思い浮かぶかもしれない。あとカミツキガメとか?

 毒があったり、牙があったりして恐いね。まわりの動物をバリバリ食べちゃうんだって。日本の生き物なんて弱っちいから、すぐに全部殺されちゃうよね。守護まもらなきゃ、守護まもらなきゃ。


 谷あいの溜め池にブラックバスが放されていると聞いて行ってみたことがある。スマホどころか携帯すら誰も持っていなかったから、友人のうろ覚えな案内に従って、着いた池には確かにバスがいた。一匹だけ、僕らはそれを釣り上げて、全部納得した顔で帰ったと思う。

 今にして思えば、僕らはあの池について何にも知らない。なんという名前の池なのか。何のための溜め池なのか。もともといた生き物は何なのか。あの時、ブラックバス以外の生き物はどれだけ池にいたのか。

 僕らは科学的な調査なんて全くできていないけど、納得した顔で帰ったのだと思う。黒いカラスを見つけたみたいにして。



 テレビに映し出されるテロップ。

「外来種は殺しましょう。でも、ほんとうに悪いのは外来種の彼らではありません。彼らを持ち込んだ人間なのです」

 このテロップに納得して、テレビを消して歯を磨いてベッドで寝て、次の日学校でこう言われるとする。

「転校生は乱暴なものなので殺しましょう。でもほんとうに悪いのは、子どもを連れてきた転勤族のお父さんですよ」

 おかしいだろうか。

 それとこれとのハナシが違うと、言いきってしまえるだろうか。


 その場所で害をなしているものがいるなら、応じて排除する、ということも考えていた方がいい、と思う。僕は庭のセイタカアワダチソウを抜くし、柱をかじるネズミがいたら駆除を頼むだろう。

 いや、理由があれば転校生を殺していいのか、っていうわけじゃない。あくまで、状況に応じた倫理観を働かせるべきだ、ということだ。極端なたとえ話をそのまま論にしちゃいけないよ。

 外来種だということは、理由になるか。それはほんとうに、倫理に沿っているか。



 願わくは、ひとつひとつ考えていたいよ。

 それができないことを、ことさらに責めることはできないけれど。

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