受け継がれるもの

勝利だギューちゃん

第1話

どんなに親しい間からでも、別れは訪れる。

そして、疎遠になる。


そうなれば、恋人から友達になり、知り合いとなる。

そして最後には、赤の他人へと戻る。


「去るものは日々に疎し」ではないが、新しい出会いのためには、

別れも必要なので、忘れた方がいいかもしれない。


でも、いい事は忘れても、悪いことは、なかなか消えてくれない。

そういうものだ、皮肉な事に・・・


しかし、神様というのは、実に気まぐれだ。

ほんのたまにではあるが、昔の人と突然再会させてくる。


そうなれば、その人と付き合っていた時代にタイムスリップする。


同窓会はいい例かもしれない。

同窓会では、立場が平等で、現在の環境など関係がない。


皆が、対等なのだ。


大会社の会長であろうが、専業主婦であろうが、

みんなが、当時のままだ。


なので、自然とタメ口になる。


「今どうしてる?」

「ハハハ、しがないサラリーマンだよ、お前は?」

「こう見えても、実業家だよ」

「すごいな、!出世したな」

「何が実業家だよ、実家の八百屋を継いだだけじゃないか?」

そのような、会話が飛び交うのも、同窓会の醍醐味だろう。


でも、僕は同窓会には参加しない。

参加しても距離をおき、周りを観察している。


それだけで十分だった。


でも、中には気にかけてくれる人もいる。

「ねえ、元気でやってる?」

クラスメイトだった、女性が声をかけてきた。


「まあまあかな」

無愛想に答える。

「今、どうしてるの?」

その人は続けた。


僕は返答に困った。

皆に知られたくない。

なので、隠してきた。


どうする?嘘をつくか?

いや、ばれる・・・


そして、無言で鞄の中から、本を取りだした。

自分が出した本だ。


高校の頃、「本を出すのが夢」と答えた。

その夢は叶った。


でも、それを知られたくなかった。

態度がかわるのが、怖かった。


「すごい。夢が叶ったんだね」

その人は、とても驚愕した。


そして、周りに報告しに言った。

あっという間に、人だかりができ、サイン会場と化した。


「お前なら、やれるよ」

そう声を掛けられた。

(よく言うよ)

心の中で、悪態をついた。


時代は変わっても、心は受け継がれていく。

それで、いいかもしれない。


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受け継がれるもの 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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