2話「俺の過去」
外はやけに静かだった。まわりの家もあまり電気がついていない。もう夜なのに何かおかしい。そう思いダッシュで走り始めた。走り始めてしばらくしないうちに、工場の方から悲鳴が聞こえた。
急いでそっちに向かうと、一般人がモンスターに捕まっていた。モンスターは全長3メートルを超える大型モンスターだった。正直、逃げようか迷った。さっきはいかにもモンスター倒しまくってる、みたいなこと言ってたけど、モンスターと言ってもゴブリンなどの小型モンスター討伐がメインでこんな大型モンスターは初めて戦う。
俺のイグニッションは「送風」という少しの風邪を操ることが出来る能力で、俺は「クラス1」だ。
こんな大型モンスターに勝てるわけがない。慌てて逃げ出そうとして足を動かした時、偶然にも月波の姿が見えた。それを見た瞬間、俺は何も考えれなくなって、大型モンスターに突撃していった。
俺の攻撃では、このモンスターにはほとんど攻撃は効かない。そこで、ここが工場なのを活かし、近くにあった鉄パイプを少しずつモンスターにぶつけていった。たいしたダメージではないと思うが時間稼ぎにはなるだろう。そのうちに少しずつ拘束されていた人達を開放していった。
全員逃がし終わったタイミングで鉄パイプもなくなってしまった。もうダメだ、と諦めていたら、
「何諦めてるの!ここからじゃん」
月波が叫んだ。
「たしか月波も逃がしたはずじゃ...」
「置いていけるわけないじゃん」
月波は続けて、
「私がモンスターの注意を引き付けてるからそのうちに攻撃を...」
「プロを呼んで!」
俺はこのとき、頼りないな、と思った。俺がもっと強ければ、プロを呼んで!なんて言われなかった。 月波の能力は「ブルーム」日本語だと「咲く」という意味である。とても強いイグニッションで「クラス2」だ。クラス2で強いのか、と思うかもしれないが、世界人口の内能力者の数が3分の1、その中でもレベル1は7分の5を占めていて、能力者の中でも7分の2の人間しか強力な能力なんて持ってない。なら、月波に助けてもらえば、と考えてはみたが、月波は大型モンスターに捕まった時に受けた傷が大きく、とても戦える状態ではなかった。
自分でやるしかない状況だった。
その時、今までにないほどの力が体中からこみ上げてくるのを感じた。それは強敵相手に
「強いやつと戦えるなんて楽しみだ!」
みたいな王道漫画の主人公みたいなものではなかった。
今までに感じたことのない不思議な何かが全身を襲った。それは、敵の攻撃ではなく、体の中からくるものだった。
そこからの記憶は、ほとんどない。
「...じょうぶ?」
「大丈夫?」
「ここは...」
「病院だよ」
どうやら、僕はあの戦闘で意識を失ったらしい。
「何があったか教えてもらえないか?」
「わかった」
「あの時、蓮翔がモンスターに食べられそうになる直前にモンスターにあの日の気象ではありえないような強風がモンスターを襲ってモンスターが倒れちゃったんだよ。蓮翔もそれの巻き添いをくらって意識不明に...」
前にもこんなことがあったような気がするーーーー
2030年8月30日
この日、俺の住んでいた町で大型火災が起きた。「大型」と言っているが本当はそんな言葉では表せないぐらい大きかった。規模は、「町全焼」
死んだ人の数は7000人を越え、怪我を負った人は20000人、町の人口の10分の9の人々はものすごく大きな損害を受けた。残りの10分の1のほとんどは未だ行方不明。
そんな大火災の時に、唯一無傷だった場所がある。そこは、
「聖龍村」
当時住んでいた人の人数は100にも及ばない過疎地域だったが、世界三大宗教の神以外の神を信じなかった当時からすると珍しく、三大宗教以外の神様を祀っていた村だった。不思議なことに村の周りの林は全焼しているのに、村には火の粉も一切入っていなかった。
ここからは小さい頃の話のため、俺はほとんどその事について覚えていないため、村民から聞いた話だ。 話によると、その時たまたま村の外にいた村民の子どもが炎の魔の手に襲われかけた時、ものすごい強風が村全体を覆うように守り、村に炎の魔の手が来ることはなかったらしい。
「そんなようなこと、前にもあった」
ぼそっと静かに、弱々しい声で俺はそう言った。その言葉を嗅ぎつけたかのように病室に我らの主『エレボス』様が現れた。
「この際だし、その事について話したいことがある。」
いつもの明るい神様からは想像出来ないような暗い顔だった。
いや、もしかしたら、この顔が本来の神様の顔なのかもしれない。なんて言ったって、我が主『エレボス』様は
カオス(混沌)から生まれた「原初の幽冥を神格化させたもの。名前は地下世界を意味する。」
地下の暗黒の神とも呼ばれていて、「幽冥」とは「あの世」という意味である。それらのことから、ギリシャ神話ではこの人は「闇」の神と呼ばれていたのだから。
理想郷-ユートピア- allo @allo6
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