OUTERS(アウターズ)

ますらお

第1話 仕事

ザグ…ザク…ザグ…ザク…


足音が、迷宮のような洞窟に木霊する。


ザグ…ザク…ザク…ザク…


所々には女性の骸が放置されている。中には、まだ新しい骸(もの)や、腐り落ちている骸もある。


「全く…」


紅いローブの男が、アチコチ見渡したながら歩いている。ふと、男が骸の前で止まる。

その骸を確認して、ため息を吐く。


「これは……っ」


その女性の骸は、腹、というより。子宮部の内側から、何か食い破られたように、拳より少し大きな穴が空いていた。


「………………………………………」


よくよく辺りの骸も確認する。場所はバラバラではあるが、どれも同じく。食い破られた形跡がある。


男は目を細め、暗闇の奥へ歩み出した。



相も変わらず。辺りには女性の骸だらけ。それと、壁や天井に張り付く白い糸のような物。 当然、灯りはない。唯一の光源は、男の胸元の懐中電灯の頼り無い光だけ。

男は変わらず、辺りを見渡しながら、奥へ奥へと進む。


グチャっ!


「………?」


突然、足元から不快な感触が伝わってくる。

男は、しぶしぶ足の裏を確認する。

そこには白い、プルプルとした肉塊が、赤い液体を垂らしながら、絶命していた。


「“幼体“か……」 


男は“幼体“と呼ばれる者を不機嫌そうに取り払う。彼は足早に、その場から離れようとするが


ピチャ…ピチャ…ピチャ…


何かが上から落ちてきたようだ。


「―――――!」


不愉快な声が、空間に反響する。

男はすぐさま後ろが振りかえる。

数は、十匹程だ。 


「幼体…まだ少ないな…」


幼体が、口を大きく広げ、不愉快な声を上げながら、小さな眼で男を凝視する。

しかし、男は全く動こうとしない。が――


「――――――――――――――――!」


ソレらが一斉に体を震わせる。それと、同時に、ソレらの後ろカチャ、と何かが落ちる音が小さく響く。

すると、男は、すぐさま後ろに身体を跳ばす。


ドゴン!


爆音と同時に、幼体らは、肉塊となり、辺りにビチャ、と散って逝った。


「少し…急ごう…」


男は更に足を速めた。



◇   ◇   ◇



「う…ゥウ、うあ、…あ、ァァ…」


肉塊の跡を急ぐと、すこし広い空間にでた。そしてそこには、痙攣を起こし、倒れている女を見つけた。


「あ、アア、…うえ、う う う―――」


男は目を細める。


「(こと、手遅れか)」


男はすぐさま銃を、


ズバババババババババ!!


女の腹部に連射する。


「――――――――――――…ピギィ」 


グチャっと不快音女の腹部から、肉塊が這い出て来るが、すぐに絶命する。


「(まだ間に合うな)」


ソッと、腕時計に目を移し、何かを確認する。そして、また男は、暗闇の奥へ消えて行った。




そこに、それはいた。肉塊達の親。男が暗闇の奥へ奥へと進む理由、そして


「とうとう見つけた。さて、仕事の開始だ」


この男の仕事だ。

それの容姿は、実に形容しがきもの、

頭は丸いグチャグチャの肉塊のようで。身体は馬に似ていて、背中には菌細胞の塊のようなものが乱立している。

普通、人間がそれを認識すると、ブッ倒れるだろう。しかし、男は、さも当然の用に立っている。


「――――――――?」


クリック音のような音と共に、肉塊のような頭が、男を見つめる。

すると、それのクリック音が激しくなり、背中の器官がほんのり紅く光をはっする。


「――――――――!」


バッ!、と男に飛びかかる。しかし、男はそれを簡単に受け流す。

一つ、二つ…そして、そのたび奴の身体にナイフを刺す。それが突進してくる度、鮮血が飛び散って行く。

何度も何度も、それを繰り返していると、

体力が減ってきたのだろう。奴の動きが鈍くなって来た。

男は息を吐き出し


「これで、終わりだ」


手に持った銃をそれに向け、


ズバババババババ!! 


弾を撃ち尽くす。弾がきれても、マガジンを換え、また撃ち尽くす。


「…………………」


全身からダラダラと、血を流ながら倒れてるそれに軽く蹴りを入れ、死んでいる事を確認する。

それを確認し終わると、腰のポーチから小さな箱と、プラスチックの容器を取り出す。

容器の口を開き、死体に、ドハドバと、黒い液体をふりかける。そして、小さな箱、マッチをこすり、火を付け、死体に放り投げる。

すると、


【――――――――――――――――!!】 

辺りから幼体の悲鳴とともに、洞窟がバチバチっと音立て、真紅に染まった。


「案外、派手に燃えるんだな…っ!」


小言を呟いた時点で男は走り出していた。

この迷宮のような洞窟も、アリアドネの糸でもあるのかと思われるように、スイスイと進んで行く。


出口ももう少し、と言うところで、後から馬が走ってくる音が響いてくる。


「―――――――――――――……!!」


息も絶え絶えっと言った所か、瀕死の状態で、アレが走ってきた。


「醜くなっても、それは変わらない…か」


ズハバン


いつの間にか取り出していた銃で、ソレの足を撃つと、ソレは倒れる。


コロン…


ソレの頭のそばに転がって、



「じゃあな……」


男は走り出した、




◇   ◇   ◇




「遅かったな。そこまで鬼畜、と言う訳ではなかったで、ろう」


黒い煙と共に、迷宮洞窟から男が白い空の下に出てくる。そこに、女性の声が投げ掛けられる。


「あ、し…ゼノビア。すまない、止めを刺したと思ったんだけどね」


ゼノビアと呼ばれた女は、上からとした態度で


「ふん、まだまだ未熟だな」


少し小悪魔的嬉しそうに笑った。

その時の男の肩には、力は乗っていなかった。マスクの下で笑みを浮かべ、


「予想外な事もありましたが、仕事は終わらしましたし、陣地もほら、燃やしましたしね」


「まあな。それにしても、派手にやったのぉシュウ…」


「やり過ぎ、ですかね」


「いやいや、これぐらいやってくれねばな。これからが辛かろう」


シュウと呼ばれる男は、小さく笑った。




◇   ◇   ◇




その後は、洞窟があった山を降り、小さな村に戻った。すると、彼等の周りに、よく言えば普通、悪く言えば見窄らしい格好の村人達が、わらわらと集まってくる。村人の一人、一番歳をとっているであろう、村長むらおさが口をひらく


「旅人さん、ア、は、どうですか…」


「ああ、死んだよ」


村長意外の村人達がどよめく。村長が、後ろめたそうにシュウを見つめ、


「む、娘は…娘は、どうなりました…」


「死んだよ」


「―――――――…っ!?」


シュウがキッパリ言うと、村長は力無く崩れて行く。村人が、村長! 村長! と、老人の周りに集まる。


「…大丈夫じゃ、それより、報酬をば」


村人は、渋々っと行った雰囲気で、小さな袋を渡す。シュウは袋を受け取り、中身を確認し、小さく頷く。


「確かに、受け取った」


そう言って、どこかに行こうとすると、


「旅人さんよ、もう行くのかい?」


袋を渡した男が、声を掛けた。


「? いや、失った弾薬の補給。それからあと一晩…」


「そうか。ふん、まあゆっくりしてけや。余所者」


男がそう言い残すと、村人は、それぞれに散っていった。



シュウは自分の部屋に着くと、早々にベッドに大の字を描いた。そのころ山の方に太陽が沈みかけている。

シュウは横になると、ふぅと溜め息を吐く。


「お疲れのようだなぁシュウよ」


いつの間にか現れていたゼノビアが、微笑んでいる。


「そらそうでしょう。こっちは依頼をこなしたって言うのに、皆睨んでくるんですもん」


「ははは。まぁ、災難であったな」


まったく、と言葉を残し、そのまま眠りについた。ゼノビアは、シュウが寝たのを確認すると、どこかに消えて行った。



次の日、シュウは誰に見送られることもなく、それどころか村人達に睨まれながら、その村を後にした。





――――――――――――――――





旅人は、後に呟く


「全く…恩知らずもいいところよな。奴ら本当に何もしらぬようだったのぅ」


「それほど、あの座についていたかったのでしょう。大事なものまで投げ打って、なにがしたいのだか……」


「まあ、今更なに言ったところで過ぎたことよ。儂で言っておいてなんなんだが、この話をするんだったら…」


「まぁそうですね」


「うむ。飯の話をしよう」




















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OUTERS(アウターズ) ますらお @masurao423

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