かたくなかれ

地元の女友達から聞いた話です。


「凄い美人ですね」


暇つぶしでやってるマッチングアプリでメッセージを貰う。そのアカウントに見覚えがあった彼女は「以前にやり取りさせて頂きましたよね」と素直に訊いた。すると、彼は「こんな美人さんは忘れませんよ」とキザなセリフを返してきた。間違いかなと思い返してみるがやはりちゃんとそのアイコンに見覚えがあった。

鍛えた身体を包む黒いTシャツとデニム、顔は見切れて隠してある。

もう一度、確認するが彼も戸惑ってるようで「僕は昨日始めたんですよ。どういう意味?」と警戒心を露わにしてる。

「このアプリでアカウント作るのは初めて?」

と彼女は訊く。プロフを確認すると確かに彼は昨日から始めている。しかし、このマッチングアプリはアカウントの消去、復帰が容易なのだ。


「初めてです」


頑なに彼は否定した。

彼女は首を傾げ、受信メッセージ履歴を確認する。彼とメッセージをやり取りしたのは2ヶ月前くらいだった、履歴に残ってるか怪しいけど念のため。

あった。

しかし、それは一週間前の履歴だった。

「凄い可愛いですね」

最初の1文こそ違いはあるがアイコンの写真からプロフ文まで全て同じだった。

「だとすると、これは偽物ですか?」

彼女はスクショし、彼に提示した。

「悪用されてる」

彼はすぐさま返信してきた。

「悪用ですか、でもこのメッセージは一週間前に頂いたものです。偽物が一週間前に現れたという事ですか?あ、2週間前にも同じプロフアカウントからメッセージ貰ってますが、こちらは2週間前に開設したみたいです。あなたがアカウントを開設する前に2人の偽物が存在してるという事なんですが……」

彼からの返信が途絶える。胸の内のもやもやは消えない。

「最後に答えてください。あなたは当アプリにおいて当アカウントを初めて開設したんですね。素直に答えて、アカのやり直しなんて誰でもやってますし、悪い事じゃないんで」

彼女がそう書き込むとしばらくして返信がついた。


「初めてです」


彼は最後まで頑なに否定した。

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稲庭順二郎の超恐怖怪談 東京廃墟 @thaikyo

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