楚漢戦争という、中国における、初の「二大勢力」を軸にした争乱。
これを舞台に、漢をどう勝利に導くのか――しかも敵は中国史上、燦然と輝く剛勇無双の「西楚の覇王」項羽。
対するや――不良中年としか言いようのない漢の高祖・劉邦。
これどう見ても無理でしょ……という漢に、天下を取らせた伝説の軍師・張良が少女だったなんて……!
しかも劉邦をことあるごとに蹴る。蹴っても駄目駄目なので、蹴る。
こんなんで、果たして漢は楚に勝てるのか?
このあたりの歴史の展開を、切り取って見せてくれる作品でもあります。
少女の心情の描き方も濃やかで美しいです。そして面白い。ぜひご一読を!
漢の劉邦の建国期に関する歴史小説。主人公の張良についてはフィクション的なキャラ設定をしているから、時代小説ですね。
でも、本作品は別作「少女軍師」の外伝と言うか、後日譚と言うか、スピンアウト的な位置付けみたいで、ファンタジー的な展開は皆無です。私自身が別作を未読なので、両者の関係を正確に伝えられませんが、これから別作を読もうと思います。
劉邦の馬鹿っぷりが良く理解できるような、張良のキャラ設定です。
歴史小説ファンも楽しく読め、読了感も良い感じです。張良の行末が史実と違いますが、それも含めて良い感じです。
今、確認したら、作者は項羽の愛人、虞姫に関する作品も書いてますね。漢朝前夜がお好きなようです。私も好きです。やっぱり項羽の報われない末路が良い。哀愁とは斯くや。
そう言えば、韓信について骨太の作品を読みたい方には、野沢直樹氏の「韓信」を薦めます。歴史ジャンル累計で、本日時点404位。投稿時期が少し古いから順位は下ですが、何かの入賞作品とかで、面白いです。
2千年前の中国で、司馬遷によって竹簡に書かれた『史記』が、真実のみを記した歴史書なのか、それともそうではないのか。その追及は学者先生に任せよう。私たち<カクヨム>の読者は、作者が『史記』からインスピレーションを得て作り上げた物語りを、笑い、時に涙して楽しめばいいのだ。
だから、あの劉邦のもとで活躍した軍師・張良が女性であっても、虞姫が垓下の戦いで項羽とともに死ななくても、それはそれでよい。大切なのは、彼女たちそして彼らたちが、小説の中でいかに活き活きと描かれているかに尽きる。
作者・杉浦ヒナタさんの短く端的な文章は、登場人物たちそれぞれの性格をくっきりと浮かび上がらせる。練りに練った構成は、2千年前に実際にそういうことがあったに違いないと、読者を納得させる。また、主人公の女性たちが『史記』の中でも高潔な志を持った男たちと結ばれ、最後には幸せになるという結末も、作者の繊細な心配りで、読後の余韻も心地いい。
このレビューは、『兵書に淫する姫~張良異伝~』『兵書に淫する姫~少女軍師 張良~』『楚歌の静寂 ~虞姫 別伝~ 』の3作をまとめたものです。ぜひ、3作を続けて読まれることをお勧めします。