第38話 私もあなたも恋してる
「2日ともお疲れ様でしたね。3年生は最後ってことで気合入ってて、優希先輩は忙しかったんじゃないですか?」
「ううん、そんなことないよ。クラスの皆といろいろできて楽しかった。翔君は?」
「俺はずっと見回って、後は孝之と幸助とお菓子同好会にずっといましたね。というか、2日間食べ物もらえて幸せでしたね」
「ふふ、翔君らしいね。誰か女の子と2人でダンスしたりしないの? せっかく翔君が成功させた企画なのに、翔君がいないなんて変じゃないかな?」
「別に、今の会長は真理亜です。まぁ真理亜の場合は、優希先輩しか目に入ってないのは知られてますから、何もしてなくても自然だと思いますけど」
「ううん、皆この文化祭が終わるまでは、翔君も会長だと思ってるよ。それは感じなかった?」
「まぁ、それは思いましたけど」
実際いろんな人に会長会長言われてたし。
「翔君なら、引く手あまたじゃないかな? 会長になって一気に知名度上がったんだから」
「確かにお誘いはありましたけど、全部断りました。優希先輩こそモテモテじゃないんですか?」
「う~ん。私もたくさんあったけど……、断っちゃった♪」
「それはどうしてですか?」
「私も同じことを聞くよ? どうして?」
「……優希先輩は先輩なんですから、先に言うべきじゃないですか?」
「え~、翔君は後輩で男の子なんだから、女の子よりも先に答えるべきだよ♪」
「……」
「……」
お互いに沈黙してしまう。俺は優希先輩に何かを期待しているし、優希先輩の眼差しも俺に何かを期待している瞳だ。
「……、優希先輩。そういえば、俺ダンスの練習全くできませんでしたね。だからですかね。ダンス踊れないのが恥ずかしいからだと思います」
「……、そうだね。思ったよりも忙しくなっちゃって、翔君にダンスは教えて上げられなかったね。だから、私も踊るのが申し訳なかったのかもしれないね」
お互いどこかずれた言い訳をする。おそらくお互い本心ではない。
「じゃあ、ちょっと遅いかもしれませんが、教えてもらってもいいですか? ちょうどBGMもありますし、会長最後の仕事として」
「うん、先輩さんが教えてあげる。はい、お手♪」
「犬じゃないんですから」
そう言いつつも、嬉しそうに手を出す優希先輩の手に俺は手を置く。
「はい、じゃあ私がリードするから、何とかついてきて。言葉よりも動きで覚えちゃったほうがいいから」
「体育会系な教え方ですね」
「言葉で教えても分からないでしょ?」
「まぁそうですね」
優希先輩の動きについていくのだが、足をピンと伸ばしたり、背中をそり返したり、クルクル回転したり、普段の日常生活でしない動きに、俺は翻弄される。
「それじゃ力が入りすぎだよ。もっと力を抜かなきゃ」
「は、はい」
「わわっ。それは脱力しすぎ……」
「す、すいません」
「それでここから逆回転に」
「え? 逆?」
既に動きがついていかない。俺は足がもつれる。
「きゃっ!?」
「あ、危ないです!」
俺が足を絡めたせいで、俺は踏みとどまったのに、優希先輩が後ろに転びそうになる。
とっさに優希先輩の腰を支えて、倒れる前に止めることに成功する。
「すいません、また優希先輩を転ばせるところでした」
またとは、あの階段落下事件のことを言う。
あれは優希先輩も悪いが、俺も大分悪かった。
「ううん、私が倒れそうになっても、支えてくれる人がいるでしょ? 物理的にも精神的にも」
「……優希先輩?」
腰を支えた状態では、優希先輩の顔はかなり目の前にある。
その状態で優希先輩は目を閉じて急に何かを言い始めた。
「翔君。私は翔君に頼られて嬉しいし、翔君のことを翔君が思ってるよりもずっと頼りにしてる。翔君は私に頼られても嬉しくない?」
「い、いいえ、そんなことはありませんけど」
「大事な後輩だからってだけじゃないよ。私は翔君だから、頼ってもらえてうれしいし、翔君だから、頼りたいと思ってる」
「そ、それは俺も同じです。先輩だからじゃなくて、優希先輩だから……、頼ってもらいたいです。構ってもらいたいです」
「…………」
「…………」
無言でのダンスが続く。俺はとても落ち着かない。
「優希先輩……、皆すごいと思いません?」
「どうしてかな?」
「異性の人が目の前にいたら、落ち着かなくてダンスになりませんよ。何でみんなあんなにできるんですかね?」
「……、///」
優希先輩が俺の発言に顔を赤らめる。距離がかなり近く、両手を握り合っているのだから、俺も恥ずかしい。
とても距離が近いのに、お互い離れようとしない。目を逸らそうともしない。
「翔君……、こういうのは男の子からリードするものじゃないかな?」
「いえいえ、いつも優希先輩は俺を先輩としてリードしてくれてるですから、そんなことはないでしょう」
「……、私は普通の女の子だよ。皆すごく私を尊敬してくるけど、皆と1つか2つしか代わらない普通の女の子だよ。だから、男の子にリードして欲しいって思うのはそんなに変なことじゃないんだよ」
「……、優希先輩はずっと魅力的な女の子でした。俺はずっと憧れで尊敬してますって言ってましたけど、頑張っているうちに距離が近くなって、決して届かない存在とまでは思ってませんでした。それからは、ずっと女の子として見てました」
「…………」
「好きです。優希先輩。暖かくて優しくて気高いですけど、ときどきお茶目なあなたのことが好きです」
「……!」
ついに告白した。吹っ切れた俺は止まらない。優希先輩の肩を抱いて顔を近づける。
「……」
優希先輩は何も言わない。拒否されたらどうしようかと思ったけど、肩をつかんだときに優希先輩の体からは力が抜けて、俺にもたれかかってくる。これならばいけるはず。
「ん……んぅ……、ぷはぁ……」
口を一瞬つけただけで、頭が真っ白になって、つい反射的に離してしまった。
「……、もう、私まだ何も言ってないでしょ……、いきなりは駄目じゃないかな?」
「でも拒否してませんでしたよね」
「いきなりするんだったら、もっとしっかりして欲しかったな?」
「俺、初めてですから分かりませんよ」
「私だって始めてだもん。だから、大切にして欲しいな。もっともっと強引にしてくれてもいいんだよ。そしらた、もっともっと翔君のことを好きになっちゃうから」
「え、今優希先輩俺のことを?」
「うん、私も好き。いつも頑張ってて私に力をくれるあなたが好き。いざというときは、私を助けてくれて、頼りがいのあるあなたが好き。だから、こういう感じでもっと強引にしてもいいんだよ」
すると今度は優希先輩のほうから、キスされる。
頭を両手でがっちりと後ろから押さえられているので、俺から口を離すことはできない。
「ん、ん……」
優希先輩は俺に全力で抱きついてキスを続ける。優希先輩の胸を含む柔らかい部分が全て俺の体でつぶれて、とんでもない感触となっていて全身が燃えるように暑い。
香りもいつも以上に近くて呼吸困難に陥りそうだが、優希先輩は俺を離してくれない。
「ん、んん!」
「!?」
それどころか、俺の唇を割って、舌まで入れてくる。いわゆる大人のキスである。
もう体が熱いを通り越して、寒気がする。体中が優希先輩を求めているようだ。
「はぁ……。はぁ……、こ、これくらいしてくれていいんだよ……」
優希先輩が真っ赤な顔でそう言うが、俺はもう頭の中が真っ白どころか、脳が溶けてなくなってしまったかのように感じて、本当に何も考えられなくなってしまった。
「もう照れちゃって。やっぱり私がまだまだリードしてあげなきゃね♪ 本当に好きだよ。一緒にずっといてね」
最後に優希先輩が俺の手を握ってきたので、意識を取り戻した。
「はい、俺もよろしくお願いします」
そして、俺も手を握り返した。憧れの人についに横に並ぶことができたことに、俺の心は喚起に踊っていた。
俺と先輩の生徒会活動記録 ポンポヤージュ66 @standwing
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