第37話 文化祭
さて、今日はいきなりだが、文化祭である。
この間にも、実力テスト、生徒会役員選挙などいろいろあったが、俺は優希先輩に言ったとおり、生徒会役員選挙には参加しなかった。
ちなみに、実力テストは、真理亜に勝利し、これで、実力テスト2回と、中間、期末を通じて4連勝。
俺が参加しなかったことで、真理亜が無事悲願の生徒会長となり、他の3人も、前回俺達と会長を争った2年生が副会長として当選して初の生徒会役員。他の2人は1年生。非常にフレッシュなメンバー構成となった。
俺の提案のせいで、非常に引き継ぎが大変になっている生徒会に、1年生が立候補してくれたことは実に喜ばしいことであった。
その後は、俺含め、孝之、幸助も出来る範囲でフォローをして、うまく引き継ぎ、無事文化祭の開催となったわけだ。
他3人が未経験者ながら、既に2回生徒会役員として働いている真理亜の働きはすばらしかった。
なんだかんだで、真理亜は優秀で、他の3人を完璧に指導して、優希先輩と同じ、カリスマ生徒会長と呼ばれる日も遠くないだろう。
「さて、特に問題はなさそうかな?」
「誰に言ってるのかしら? 私が会長なのよ」
真理亜の胸元には、金色に輝くペンダント。俺が優希先輩からもらったものを、真理亜に渡したのである。
もちろんあの儀式もやったが、真理亜はたいそう不機嫌だった。
俺と正々堂々対決できなかったことをとても腹立たしく思っていたのだが、俺の事情を話したところ、一応納得してくれた。ヒステリックだが、話が通じないというわけではない。
ちなみに、俺、孝之、幸助、そして優希先輩は、左腕に「文化祭実行委員」の腕章をつけている。
実際の文化祭実行委員はいるのだが、外部から来る人も多いので、誰に質問すればいいか分かりやすいように、事情を知っている俺達も協力するために、つけている。誰が関係者かわかりやすくするためのアイディアで、これは真理亜の案である。
「受付から連絡が上がってきていますが、参加者の人数も想定の範囲内、本当に完璧な仕上がりです。前期の皆の頑張りがよく分かります。去年と比べても遜色ないですし、新しいことをしたことを考えれば去年以上かもしれません」
真理亜の側には、今回の生徒会メンバーもおり、非常に俺に尊敬の眼差しを向けてくる。
「まぁ、結局は俺だけの力じゃないしな。副会長がいて、書記がいて、会計がいて、それに頼れる相談役もいたからここまでできたんだ。むしろ、後期の生徒会は、4人しかいないんだから、俺よりも大変かもしれないぞ。ちゃんと会長をフォローしてやってくれ」
「はい、もちろんです。学校の生徒達をがっかりさせるわけにはいきませんからね。まずは、文化祭を大成功させて、いい門出にしますよ! それでは、失礼します」
そう言って、真理亜引き居る生徒会メンバーは、見回りに戻っていった。
「つーても、俺も別にすることはないか」
孝之も幸助も見回りをしているが、それぞれ、運動部、文化部に呼ばれているのでそこで直接指導をしているらしい。
俺は特定のどこかに呼ばれているわけではないので、自主的な見回りだ。
「あ、会長さん! よければこれどうぞ!」
俺は焼きそばをもらう。
「会長さん、見回りお疲れ様です! こちら試食していってください!」
俺はフランクフルトをもらう。
「桂川くん、これ食べてって!」
俺はチュロスをもらう。
「あら、会長さん、こちらどうぞ」
俺は焼き鳥をもらう。
「おお、翔ちゃん、今回は呼んでくれてありがとね。これはサービスだよ」
俺は中華まんをもらう。
「翔君、おかげさまでうちは好調だよ。またあの美人な先輩をつれてきてくれ」
俺はケーキをもらう。
……、ここは天国だったのか。俺の両手には抱えきれないほどの食べ物。まさに会長特権。俺もう会長じゃないんだけどな。
しかし予想以上に何も問題が起こっていない。
開催できていないクラスも出し物もないし、トラブルの報告も特に入ってこない。
ゴミはこれでもかというほどきれいにしたことと、そんなにいらんだろってくらいゴミ箱を設置したことで、ポイ捨ても見られない。
ボランティアで、警備員をやってらっしゃる人の協力まで得られたので、監視がかなりきちんとしている。
大人の参加で、模擬店でやれることも多くなり、本来できるはずもない、焼き鳥やら中華まんやらが成立するということで、他校の生徒もちらほら見られる。
人数が多ければ、盛り上がる分トラブルの種も多くなる。
だが、それを可能にしたのは、みんなの頑張りの一言に尽きる。
本当に大変だった。今日を持って、本当に俺の生徒会活動は終わる。
これでいろいろと考えなくてもよくなる。開放されるということで、安心感があるはずなのに、どこかで虚無感も感じた。
大変だったけど、とても楽しかった。それは1人ではなかったからだろう。
同じ苦労を分かち合い、楽しんだり苦しんだりする。それはとても充実したことなのは間違いない。
だから、それが寂しくて仕方ないのだろう。
特に寂しいのは、優希先輩のことだ。
後数ヶ月、優希先輩ち時間が共有できるのはそれだけ。
大学に行きたいと宣言はしたものの、必ず叶う保障はないし、やはり一学年の差は大きい。
同じ学部になることはないから、そこまで一緒にはいられないだろうし、やはり事実上同じ時間を過ごせるのは、この高校生活で最後だろう。
もっともっと、優希先輩と思い出を作って、一緒に過ごしたい。
楽しく過ごす文化祭の中で、俺の心は少しだけ寂しさも感じていた。
おなかは珍しく満たされていたけどね。
「はい、では最後に、社交ダンスを行います!」
2日間、全く何の問題も起こらなかったが、優希先輩も3年生の持ち回りで忙しかったのか、一緒に過ごすことはできず、2日目の夜を迎えた。
今回の文化祭の最大のイベント。3年生から多くの要望があった社交ダンス。
実はこのダンス。結構大きな意味がある。
実は青春真っ盛りの学生のために、告白大会の意味も兼ねている。
だから、今踊っている生徒は、付き合っている、あるいは付き合うことになったカップルしかいない。
文化祭前日までに、男子でも女子でもどちらかが、相手を誘い、OKをもらえることで、2人でダンスをすることができる。
もちろん、全員が成功するわけではないが、失恋も青春のいい思い出の1つではあるだろう。
高校を出てしまえば、告白をするチャンスすらなくなるのだ。特に、3年生の告白がダントツで多かった。
ダンスを見ているだけで、初々しいカップルと、熟年カップルの違いも分かる。そして、このダンスには、商店街の夫婦の方も参加して、盛り上がり、失恋した生徒は、彼ら彼女同士で、慰めあって友情を深めていた。
この企画は、3年生から希望が多かったから、なんとかして企画したものだ。正直言えば、不順異性交遊ということで、教師から、失敗したら、馬鹿にされるんじゃないかという一部生徒の声もあり、これが1番賛否両論だったと思う。
結局は、不順異性交遊が進めば校則での制限をかけることを条件に、教師を納得させ、告白を馬鹿にするような発言、行動をとれば、文化祭への参加を認めない。誠実な対応をすることを徹底させて、生徒を納得させた。
もちろん実際にそんなことをした生徒は居なかったが、処分を受けた生徒がいたという嘘の噂を流して、生徒に注意を促した。これは幸助の意見だった。相変わらず毒が聞いている。
そして、今日までずっと心配していたこのダンスも無事成功。
俺は誰も居ない屋上からそれを満足に眺めていた。生徒会室のあるさらに1個上の屋上だ。
もう俺は生徒会役員ではないから、勝手に生徒会室に入ることは出来ない。だが、文化祭の間は、屋上が開放されるため、学校全体が見渡せるここから、文化祭を眺めていた。
「会長さん、こんなところで何をしてるのかな?」
「俺は元会長ですよ。元々会長先輩」
「それだと私が元々生徒会長だったみたいだね」
振り向かなくとも分かる。優希先輩だ。
「ここに何しにきたんですか? 皆ダンスで盛り上がってるのに」
「翔君を探しに来たんだよ、ここに居るって聞いたから」
優希先輩は笑顔で俺にそう言ってきた。
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