本日のお天気をお知らせします
吉行イナ
本日も晴天です
午前6時40分 目覚まし時計のお役所仕事のような
事務的なアラーム音は単調な朝の象徴だ。
私は7時3分程までは頭上から水滴がしたたり落ちる
幅3メートルにも満たない暗がりの住人でいたいのである。
霧に満ちていて視界は明瞭ではない。
手が届く範囲空間での人生計画には 6時52分にテレビのスイッチを入れ
好きなニュース番組のお天気お姉さんの首から下、
衣服の上からでもわかるふくよかで形のいい胸にバレーボールで言う
下からトスする形を想像することが必ず通る道なのである。
彼女は昨日切り取って今にペーストした同じ笑顔で全国の天気を伝え始めた。
胸トスを思うのは日が昇る度に繰り返される陰鬱でただただ生きるために必要な
金銭を稼ぐために自分の人生ではおおよそ関りがないものような
毎日動きたくもないのにただただ与えられた役割だから仕方なく動いている
心臓にも劣る自分への慰めなのかもしれない。
太陽が昇る度に私自身の矮小さとそれに対する自己嫌悪、卑屈、諦め。
鼓動という独り言でぶつぶつと語りかけてくる。
何の権利があって心臓はこんな仕打ちをできるのであろうか。それを頭の隅にでも
存在させるのも心臓の役目なのか。憎さは余らない。可愛さは微塵もない。
できることなら心筋細胞の一つ一つをピンセットでちぎりはがしてやりたい。
そして細切れになった肉片とも呼べない塵を
「どうだ?お前などなんの意志も持たない有機物なのだから」と親指の爪の腹で一つ一つ執拗につぶしてやるのだ。ねっちり ぷつん。
胃のむかつきで思考の輪郭が幾分か明るくなると再びお天気お姉さんがバストアップで映し出された。
そのお天気お姉さんの年の頃は24、5歳に見えるけれど正直言って
わたしの女性の年齢を推し量る眼にはまったくと言っていいほど正確性がない。
この女はきっと売れるとか有名になるだろうとかはかなりの正確性をもった高確率で言い当てることはできるのだが、人には向き不向きがあるのだな。
この女の子はきっと何の脚光を浴びることなく 世の男の想像上の慰み者になって消えていくのは私には分かっているのでいつかこの娘の代わりを務められるような
朝の性の女神が現れることはあるのかと、不安になる。
半勃起した私の股間に生きている体長17.3センチ
完勃起すると最高到達点23.8センチを記録したこともある大ミミズは先端から
逆流した胃液を吐き出していた。
昨日酒を飲みすぎたせいでお前にも苦しい思いをさせたなと申し訳なく思う。
本日のお天気をお知らせします 吉行イナ @koji7129
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