金明楼eyez
だこう
第1話 ―プロローグ1―
降りやまない雨はない―—と最初に言ったのは、誰だったのだろうか。とても詩的で、情熱的で、優しい。その真意はわからずとも、いずれ来る終わりを指しているように感じるのは、むしろ生きている者故の性なのだろうか。
細い、糸のように細い雨が廊下のガラスを静かに濡らしていく。予報では、この雨は深夜にかけて激しさを増していくそうだ。そして明日のお昼までにはあけるという。予定通り。好都合だ。
ふと傍らのソレに目をやる。ヒューヒューと細い息遣いをしているソレは、震える体を床に這わせながら、尚もゆっくりと後退を続けているようだ。生物としての絶命への危機的衝動なのか。はたまた、私への畏怖の表れなのか。
もう、どうでもいいことなのだけれど―—
そう。本当はどうでも良いのだ。なにもかも。
絶望でもない。諦めでもない。そもそも私は、このような思考をする必要なんてなかったのだ。
私は変わった。変化したのだ。それが良いことなのか悪いことなのかは別として、私は以前までの私ではない。
その私の変化を彼女は喜んでくれた。その私の変化に彼女は泣いてくれた。
ふいに目を閉じる。その内側に浮かぶのは、いつも彼女の笑顔だった。あの屈託のない笑顔を私は忘れない。この笑顔を守れるのなら、私はなんだってする。なんだって・・・
そう思っていたのに。
遠くの方で微かな物音がした。どうやらもう来てしまったようだ。
ふっ―—と、苦笑が漏れる。
「降りやまない雨はないわ」
いつかの言葉を口にした。同時に音のした方へとクルリと体を反転させる。そして、彼女と同じ笑顔を顔に浮かべる。まるで待っていましたよ、と言わんばかりに。
そう。
終わりがいつか訪れるというのなら、それは間違いなく今夜だと思うのだ―—。
金明楼eyez だこう @dakou0204
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