落語で語る昔の話 五『坊主遊び』

泊瀬光延(はつせ こうえん)

落語 坊主遊び

落語で解説する昔の話(落ちなし)

*熊とご隠居の会話は段落ごとに交互に記されます。


『坊主遊び』



ご隠居ご隠居おっ!


なんでえ、熊かい。また討ち入りかい?


討ち入りだっ!・・・じゃねえっ!ご隠居!俺のちくしかの友に世の字ってのがいるんだが・・・


はあっ?!


はあってなんだい!俺のちくしかのなあ!


熊!それって竹馬の友って言いたいのかえ?


おっ!それそれっ!・・・流石あ、ご隠居!


バカ言ってんじゃあねえよ!・・・ちっとも前(めえ)に進まねえ!世の字ってのは誰だい?


・・・よ・・・世之介っていうんだが。


ほう、あの大阪の世之介かい?


お!ご隠居!知ってんのかい?女たらしで有名って!


うむ・・・なんでも数千人の女と寝たっていう話じゃねえか!男もちらほら・・・熊!すげえお人と一緒に育ったんだね!見直したぜ!


へっへっへ・・・それほどでもあるぜ!子供の頃、おとうの仕事であっちに少し住んでいたことがあるんでえ!


・・・それでその世之介がどうしたって?


いやあ・・・俺っちが飛脚で大阪に行った時に偶然会ったんだが、それが・・・


それが?


もう女も男も飽きたって!


はあっ!?・・・なんて羨ましい野郎だ!ほっとけ!


・・・いや、ご隠居・・・それが奴が必死に俺にすがってくるんだ・・・


ほう!衆道の相手にか?


ち・・・違わい!・・・やっこさん、なかなかべっぴんだが、ちくうまの友とつるむ気はねえ!


なんだ・・・(がっくり)。それで何が必死なんじゃ?


やっこさん、俺にすがって言うにや、『もうこのままじゃ死んだも同然!この世の「上がり」の遊びを教えてや!』だって。


へえー!お前にね!上がりってのはすごろくの上がりのことかい?最後で最高のってことか?


ご隠居!こう見えても俺っちだって吉原に入り浸っていたときがあるんでえ!今はかかあの目があるんで・・・それでっ!ご隠居!俺っちの顔を立てて欲しいんで!!どうかあの野郎を救っておくんなんしょ!・・・なんまーだーぶーなんまーだーぶ!・・・なんまーだーぶーなんまーだーぶ!


バカ野郎(やろ)!縁起でもねえ!勝手に人を仏にするない!


困った時の神頼み!


拝むのに神も仏も区別がねえのか!おめえは!・・・世の字みてえな恵まれすぎた野郎は勝手にくたばらせろ!


ま・・・まあ・・・まあ・・・ご隠居!いつものご隠居らしくねえ!そりゃ面白くねえだろうけど・・・ちょっと助けてやってはおくんなんせんか?


・・・ごほん・・・ちょっと興奮したか・・・女と男に飽いた野郎にこの世の最高で最後の遊びをな・・・


そうなんでえ!ご隠居!何かあるんですけえ!?


儂も聞いただけだが、遊び疲れた分限者が最後に行き着く遊びがあるとよ。


えっ!・・・そんな・・・なんですけえ?


『坊主遊び』よ。


ぼうず!・・・お稚児さんかい?


いや、本物の偉い坊さんよ。


ふ・・・老け専ってやつかい!?


聖談よ。


せ!・・・せいだん~!?坊さんとエロ話かい!?


違う。・・・なんでもお茶を啜りつつ坊さんと語り合うらしい。


な・・・何が面白いんでえ!?


知らん。儂も遊び疲れるほど遊んだことはないからな。本当かも分からんわい。世の字に言ってみたらどうじゃ?


・・・


儂をそんな目で睨んでも何にも出てこねえぜ!そんな最高の遊びがあったら儂がやっているわい!


・・・へえ。ご隠居、じゃ、今度の飛脚仕事で世の字に会ったらそう言ってくらあ。ご隠居!ありがとよ!・・・へへ、まあ嘘かも知れねえが・・・俺っちの顔が少しは立つかな・・・


ふう。昔、遊びの達人ってお方から聞いただけだがよ。儂ャ知らんぞ。そのまま世に飽いて暇死(ひまじに)にして、お墓にお陀仏ってことにもなりかねんからな・・・


(一ヶ月ほど経って)


ご隠居!ごいんきょお!


おっ!熊か。大阪から戻ったんだなあ!


へえっ!今帰りやした!


・・・それでどうだ?


(含み笑い)


・・・世の字はおっちんだのかい?


ご隠居。ご隠居の言った遊びを世の字に言ってみたら・・・


みたら・・・?


あいつ、その足でお東さんに行って・・・


東本願寺かい!京都の!?


そうなんで。そいで、女と男に飽きたんで救ってください!って紫衣の坊さんにすがりついたんで!


そしたらどうした?袋叩きにあったか?


いえいえ・・・そのまま檀那の部屋に連れて行かれて、そこにたくさんの坊さんやらお稚児さんやらが呼ばれて・・・


呼ばれて?


世の字の覚えている限りの情事を喋らされたそうで!丸三日!


へえっ!


そりゃ、すげえ奴がいると東本願寺の僧侶はおろか、御西さんからも人が来てもう笑い声やら、相掛ける声やら大賑わい。お堂の外には屋台が出る始末。女子どもも境内に来て花見のような騒ぎになったんで。


それで世の字はどうした?


あいつ、有頂天になって喋り続け、遂には失神して終わったそうで。

そいで気がついたらすっとんで家に帰って・・・


けえってどうした?


また女や男を口説き出したんで!


振り出しに戻った!?『坊主遊び』ってのはすごろくの上がりじゃねえんだ!!またひっくり返すってことか!すげえ遊びだ!


なんでも屋台や香具師の出入りで場所代がわんさか寺に入ったってことで・・・


『坊主丸儲け』かい!





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落語で語る昔の話 五『坊主遊び』 泊瀬光延(はつせ こうえん) @hatsusekouen

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