第2話 1日目
僕は、多少戸惑いつつも、いつも通り学校に行った。学校に着いた時には、小型化した先生と生徒が区別できなくなりかけて、一騒動起きていた。その後、職員会議の場で、先生たちに町内盆踊りのために毎年買っているバンダナが配られたらしく、授業をする先生たちはどこかに必ずバンダナをしていた。
その頃、超常現象や人の老いに関する専門家たちはこの事実の研究に追われ、少しでも新しいことがわかれば、国民すべての携帯電話の速報やテレビのニュースをはじめ、防災無線でも伝えられた。学校で聞いた最初の無線は、
『小型化した大人は、インターネットでアクセスし、指定された場所に書類管理ナンバーと自分の体の年齢を投稿してください。事態の収束に向け、ご協力お願いします。』
だった。一部出勤してこなかった先生の穴を埋めるため、いる先生だけで時間割が組まれたためフル稼働状態の中、臨時の休み時間になるほどの大騒動になった。それから約2時間が過ぎ、普段より少し遅い昼休みが始まった。僕が弁当を食べはじめた頃、また防災無線がなった。
『アンケートにご協力いただいた皆様、ありがとうございました。
アンケート集計の結果、実年齢と小型化後の見た目は関係がないようだとの報告を受けました。そこで、お時間の許す方は、もう一度アンケート調査にご協力ください。』
と、言っていた。お昼休み中だったため、さらに混乱が増えることはなかったけど、先生たちはバタバタと職員室に戻っていった。それから帰るまでは、僕たちは防音室にいたから、状況は分からないまま過ごすことになった。家に帰ると、母さんがかなり疲れた顔をしていた。
「あ、たっくん、おかえり。1日大変だったわね。学校どうだった?」
と聞いて来たから、
「うん。先生は大変そうだったけど、僕らはいつも通り授業受けてただけだから。」
と、答えて自分の部屋に帰ろうとしたら、
「そうなの。普段どおりで少し安心したわ。時間あったら夕ご飯の支度、手伝いに来てね。」
と、後ろから声をかけて来た。
「うん。」
なんとなく答えながら階段を上った。部屋に入ると、机の横にカバンを置き、すぐに制服を脱いだ。着替えが終わると、一刻も早く状況が知りたくて、カバンの中からケータイを探し出した。でも、学校の防音室は圏外になってしまうポイントらしく、全く通知が入っていなかった。その夜、珍しくニュースを見ながらごはんを食べた。ニュースキャスターが、
『ニュースをお伝えします。今朝早く、大人が小型化したと言う情報が全国各地から寄せられたことについて、昼過ぎの記者会見で、研究チームによる最終見解を発表しました。それによると、今朝の現象の原因は、昨日日中に観測された隕石の影響と見られるとのことです。』
そこまで言うと画面が切り替わり、
『昨日、日中に観測されました隕石は、大気圏に突入後、熱によって破壊されたものと見られておりました。しかし、今朝の事態を受け、調査を致しましたところ、昨日の隕石観測時に屋外にいた方の影響が比較的大きく、屋内にいた方の影響が少ないことを根拠に、隕石の破片がなんらかの形で我が国の国土に降り注ぎ、その影響が各地で見られていると断定いたしました。』
話していたおじさんの声がフェードアウトし、画面がスタジオに戻ると、アナウンサーが
『こう述べた坂下透チームリーダーは、今後について、影響が大人にのみ現れていること、記憶や動作に支障がないことから、今までの職業や活動は継続して行う事で、混乱の沈静化に向けて協力するよう呼びかけています。』
と、言った。父さんも、
「なかなか大変なことになったな。うちの職場にも、来ない人が何人かいたし、こう言う呼びかけをしないといけない世の中ってのもなんだかなぁ。」
と、言った。事態を飲み込めていないらしい妹は、
「りっちゃんの学校の先生も小さくなってたよ。」
と、呑気に言った。
「なのか先生、可愛かったね。ママもびっくりしちゃった。これからもずっとこのままがいい?」
と、母さんが言ったから、
「うん。りっちゃんもママたちの歳になったら、みんな一緒になれるもん。」
と、言った。
「そっか。みんな一緒か。」
と、父さんが答える。うちの家族は4人だけど、今見たらさながら兄弟なんだ。僕が高校生で一番上、母さんと父さんが中学生で、りっちゃんが小学生。実年齢とはかなり違う家族構成に見えるんだ。
「ねー、りっちゃんが言ったみたいに、私たち、みんな同じくらいに見えるんだよね。それなら、パパもママもなくて、名前で呼んだら、さらに仲良しになるんじゃない?」
母さんの発言に、僕と父さんがあからさまに驚いてしまった。
「え?りっちゃん以外を名前で?恥ずかしいよ。」
僕が言うと、
「名前で呼べばいいなら、呼び捨てでもいいよな。」
と、父さんが言った。
「でも、父さんと母さんを呼び捨てで呼んだら、怖いんだけど。」
僕が言ったら、
「いいのよ?。私たちも、兄弟の仲間に入ったと思えば。」
と、母さんがノリノリだ。そしたらりっちゃんが、
「え?ママは名前わかるけど、パパって、名前なんだっけ?」
と、爆弾発言をした。父さんが悲しそうな顔をしたから、隣にいた母さんが、
「私だって、入学式の名札を見てるから知ってるだけなのよ。私もパパってずっと呼んでたから、知らないだけよ。」
と、慰めて、
「マナトさんよ。りっちゃんならなんて呼ぶ?」
と聞いた。確かに呼びにくい名前だ。
「マナちゃん?」
と、りっちゃんが言ったから、
「女の子みたい」
と僕が言ったら、
「じゃあ、お兄ちゃんなら?」
と聞いてきたから、
「うーん。マーくんかな。」
と、言ったら、
「それでいいよ。」
と、父さんも言ってくれたから、
「じゃあ、みんなこれからそう呼ぶことにしよう」
と、母さんが言って、確定された。
「で、ママは?ナナちゃん?」
と、りっちゃんが乗ってきたから、
「いいね。」
と、なった。
それからは、どこか不器用ながらも、お互いを名前で呼びあいながらの暮らしがスタートした。でも、大概呼ばれるのは僕とりっちゃんで、あまり呼ぶ必要がない父さんと母さんの名前はなかなか登場しなかった。
「たっくん、お風呂入れてきてー。」
と、ナナちゃんに言われて、僕が向かうと、
「りっちゃん、マ…ナナちゃんのお手伝いに行く?」
と、マーくんが言って、二人で皿の片付けをしていた。ちょうど終わった頃、お風呂が沸いた時のメロディーが聞こえたから、
「マーくん、お風呂湧いたみたいだから、準備準備。」
と、キッチンから聞こえてきた。次の風呂の順番は僕だ。支度してから、明日の学校の準備をしようと思って、カレンダーを見てハッとした。明日は秋分の日。祝日なんだ。気づいた途端に、張り詰めていた気分がスーッと抜けたのがわかった。明日は休み、明日は休みだ。僕は風呂の支度だけ持って、階段を滑り降りた。
「りっちゃん、ナナちゃん、明日どっか行こう。」
急に大声で言った僕にびっくりしたのか、
「たっくん、急にどうしたの?明日、学校は?」
と、ナナちゃんが言うと、
「明日って休みじゃない?」
とりっちゃんが言った。
「休み?」
ナナちゃんはまだ不思議そうだ。
「明日は秋分の日だよ。」
と、僕が言うと、
「お萩の日だ?。」
と、りっちゃんが言ったから、
「マーくんが許してくれたら、明日買いに行こっか。」
と、ナナちゃんが言った。と、そこへ、マーくんが来た。
「賑やかだな。どうした?」
と、言うと、
「ちょうどいいところに!」
と、りっちゃんが言ったから、
「マーくん、明日、秋分の日って覚えてた?」
と、ナナちゃんが言うと、
「あ、そう言えばそうだな。」
と、言ったから、
「パ…、マーくん、どっか行こーよー。」
と、僕が言った。結果が気になったけど、僕はお風呂に行かないといけない。
「風呂入ってくる。僕が出て来る前に決まったら教えてね。」
と、伝えて、風呂場に向かう。戻って来たら、
「明日はショッピングモールに行くよ。9時に出発だからね。」
と、言われた。
「やったー。お外でごはん、お外でごはん。」
と、相変わらずりっちゃんは、お出かけとなると楽しそうだ。
「じゃあ、寝坊しないようにしなきゃな。」
と、マーくんが言った。すると、ナナちゃんは、
「そうね。じゃあ、りっちゃん、お風呂に行こう。」
と、声をかけた。
「うん。」
笑顔で答えて、
「準備してくる。」
と言ってすぐに、向こうへ行ってしまった。
「じゃあ、タクミも、寝る支度するか。」
と、言われたから、
「うん。」
と、答えて、自分の部屋に戻った。すぐにベッドに横になってケータイを操作していたけど、下からの音を子守歌に、いつの間にか寝てしまった。
こどもの国 つばきハル @Tsubaki-haru
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