記録13

 光の早さで帰宅。ただいまもそこそこに早速自室にこもりPCを起動する。

 再度ケータイとPCのリンクを確認。よし問題ない。慣れた手付きでダイブからのスレッドへ直行する。そこには武装女学生がいた。ミアハだ。

「おーハル。久しぶりだね。どうしたのなんだか嬉しそうだけど」

ヘッドセットのややテキトーな表情検知機能で表現されたVRB上のアバターの表情ですら、その興奮した様子が見て取れるということは、実際のぼくは今どれほどわかりやすい顔をしているのだろう。急に恥じる気持ちが芽生えるも、ここは落ち着いて本題に入らなければ。

「あ、あぁ。実は、ちょっと画像を手に入れたんだ」

 今朝カレンから受け取った画像をこのルームにアップロードする。

「お、なんだい。ちょっち拝見。ふむふむ……」

 アップロードされた画像を正面に広げ、目の動きだけで素早く見回す。

「なるほど。これはちょっとした大発見だよ、ハル」

 どうやらミアハも、これは裏ネットの画像と判断したようだ。いままで調べてきた情報と酷使する部分が多く、この画像を見たときの感想が、過去の掲示板のそれと同じだったことからもやはり間違い無さそうだ。そのあと、そのほかの常連であり、ミアハのサークルメンバーであるゴトーとエリザも合流し、皆この画像が裏ネットのものであるという見解は一致した。

「しかし、どこからこんな画像探し出せたんだ?」

 ゴトーも、いままでに探して出てこなかったものが急に現れたことによる驚きから、普段よりも幾分前のめりに見える。そんなゴトーに発見に至る経緯を軽く説明する。うむむとどうも腑に落ちない反応だ。

「とりあえず、この発見を喜ぼうじゃないか!」

 ミアハが話を前に進めようと、切り出す。とはいえ……

「とはいったものの、どうしようか」

 僕は素直な気持ちを述べる。僕には、この画像が裏ネットのものであるという仮説程度のものしかたてる事ができない。なにか特別な技術があるわけではないのだ。

「そうだなー。とりあえず古いブラウザで見たVRBサイトの表示バグを解析して、その解析結果を元にこの画像をVRBに再構成してみようか」

ぼくは、呆然とミアハを見つめる。

「再構成のアルゴリズムできたらゴトーに送るから、そこからモデリングしてくれるかな?」

「わかった。まかせろ」

「お金儲けの話になったら呼んで~」

「それはまだまだ先かな」

どんどんと話が進んでいる。

驚きを隠せないでいる僕に気がついてミアハがニヤリとした。

「そういえば、言ってなかったね。デザイナである前に、私一応エンジニアなんだ。正確に言えばグラフィックエンジニア。このアバターのモーション制御とかこのルームアーキテクチャの構築とかその多諸々やってるのも私なの」

 驚いた。通りで妙にVRBへの造詣の深さがちらついていた訳だ。自分の無力さを再確認して、少しテンションが落ちる。

「じゃあ私、解析に集中するから一旦落ちるね」

 了解よろしくと皆が一旦ミアハに託す。

 まかせて!と胸に手を当てながら、僕の方に向きなおる。

「ハル、ありがとう。あなたのお陰で真実にグッと近づけたよ。ここからはハルの努力に私達が報いるから」

 なんだかむず痒い感覚。

「別に僕は何もしてないよ。偶然持ってる人間に遭遇しただけで、運が良かっただけだ」

 そう。これは僕の手柄ではない。

「そんなことないよ。それに運も実力の内っていうでしょ? 幸運が舞い込むのは、運を引き寄せる地盤づくりができてるってことだよ。それって十分大切な努力だし、実力だって思う」

 自分の顔が紅潮するのがわかる。これはVRB上では伝わっていないと信じたい。

「だから、ありがとう」

「……ひ、引き続き手がかり探すよ!」

「うん。助かるよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シトラス・フレーム 浅川多分 @aka0629

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ