記録12
昨日、放課後からもしっかりと開始された美術部の活動から解放された後、早速例の画像について調べてみたが、画像はやはり見つからなかった。
残骸というか軌跡は幾つか見つけ出せたのだが、カレンの言っていた通り、すぐに消されてしまっているようだった。なにかしらの情報統制がしかれているのだろうか? それくらい、ぱっと探した程度では何処にも例の画像を確認できなかった。一時期流行っていたとされるPixeLのイラストすらも、ほとんど見つけることは出来なくなっていた。
僕が見つけたものは、そのテクスチャーの主張が激しく無いものだったようだ。念の為、その作者にDMを送ってその日の調査は終了した。
なんにしてもやはりここはカレンの画像が残っていることを祈るしかない。そんなことを考えながら、教室のドアを開く。
「おはよう!」
満面の笑顔のカレンが立っている。
「あぁ、おはよう」
慎ましい胸を一杯に張りながら、誇らしげにこちらを見ている。
「ふっふっふ…約束の物、見つけちゃったよん」
例の画像のことだ。探すのが難しそうな口振りだったが。
「本当!? 案外早かったね!」
「深町くんの気が変わらないうちに、さっさと正式に部活に入れちゃいたいからね! テラクラスの膨大な秘蔵データの中から、一晩かけて見つけだしてあげたんだから!」
テ、テラ?まじかよ、動画ならまだしも、画像でテラって。どんだけの量を所有しているのだろう。しかもその中から目的のものを探すのは、なかなかの根気が必要な作業だ。
「あ、ありがとう。恩に着るよ。早速だけど……」
「そ、それなんだけど。あの画像送りたいし、あと美術部の連絡とかもあるかも出し……。だからあの、メ…アドとか、教えてくれない……かな?」
正直校内ローカルネットでのメッセンジャーで事足りてしまうのだが、特に断る理由もない。しかし、あれだけ胸を張って偉そうだったカレンが急にしおらしくなったのはどういった訳か。
「お、おう。そうだね、交換しようか。デバイスリンクでいいか?」
カレンの表情がぱっと明るくなる。
「う、うん! 全然おっけい! よろしくお願いします!」
突き出されたカレンの端末に、自分の端末を近づける。モバイルリンクでの連絡先交換に成功した。モバイルリンクのタイミングである程度のデータ譲渡も可能なのだが、なんとなくそんな感じでもないので黙っておく。
「カレンって機械とか苦手?」
「そうだねー、得意ではないかな……あはは……」
「だろうねー」
「あ! なにその反応! ムカつくんですけど! とにかく送るから、画像!」
顔を真っ赤にして、怒りを表すように腕を振り回しながらも、画像は送ると言付ける辺り、アスカの性格の良さを象徴しているのだろう。
「ありがとう。助かるよ」
「い、いいよ。約束だし」
急におとなしくなって、うつむき加減で顔を背ける。始業を知らせるチャイムが鳴り、担任の西村が教室に入ってくる。
「はーい。みんな席に着いてねー」
ちょうどいいタイミングと、カレンと共に各々の席に向かう。斜め後ろの席なので、ほぼ同じタイミングで席に着く。ほかのクラスメイトもバラバラと席につき、落ち着きが見えた頃、西村が再び口を開く。
「はーい。抜き打ちテストでーす」
クラス中が不満をあらわにする。
うちのクラス抜き打ちテスト多くない?なんなの?西村は顔こそニコニコと愛想がいいが、背中に背負うオーラは、なにか禍々しい。なにがあったのだ西村。机に英単語テストが表示され、テスト開始までのカウントダウンが開始される。他人の心配をする前に、目の前に立ちはだかる言語の壁をなんとかしなくてはいけない。
カウントが0になった。
憂鬱だ。
一限目からの抜き打ちテストを乗り越え、否、完全に何もできず流されて、朦朧としながら時間が過ぎ、放課後だ。
今日の授業には全然身が入らなかった。ごめんなさい、いつもだわ。
ただ今日は、テストに打ちのめされたことだけが理由ではない。例の画像が原因だ。あのやりとりの後、すぐに僕のケータイが震えた。
テストの後に取り出してみると、カレンからのメールが届いており、それには五枚の画像が添付されていた。テスト中にメールとは、なかなか勇気がある。
無事(?)テストが終了し、お礼の為に振り向く。
「ありがとう。受け取ったよ。ただ別にテスト中に送らなくても……」
「なに? もらっといて文句でもあるの?」
「いや、文句というか、カレンの心配みたいなもんだよ。バレたら停学だし」
「だって早く……」
「え?なんだって?」
「いいから! とにかく! 約束守ったんだから、約束守ってよね!」
「もちろん。ちゃんと入部するよ」
カレンとやりとりをしていると、カレンの周りに数名の女子が集まってくる。テスト後ということもあり、友人が集まりテストの手応えを確かめ合いにきたのだ。なんとなく居づらかったので、そのまま正面に向き直ると、カレンからの画像を開く。
どれも一様に混沌とした画像だった。
なんとなく面影のあるような素材から、ドット単位でグチャグチャになってしまった様な原型をとどめていない素材、それらが不規則にぶちまけられた画像たちだった。僕は心ここにあらずな様子でその画像を眺めていたことだろう。
僕は今まで生殺しにされてきた冒険の手掛かりを手に入れ、期待に胸を膨らませていた。
さあこれをどうしよう。よし、やはりまずミアハ達に見せるのが先決だろう。そうと決まれば直ぐさま行動だ。帰り支度を済ませ、早々に席を立つ。
「ちょっと、待ってよ。部活なら一緒に行くし」
「ごめん、今日はちょっと急な用事ができたんだ。明日からはちゃんと参加するから。ごめん!」
一気に要件を伝えると、小走りで教室を後にする。
「ちょ、ちょっとー! なんなのよー! うらぎりものー!」
後にした教室から僕を罵る叫び声が聞こえるが、スルーして下駄箱に向かう。すまんが、一刻も早く、みんなにこの事を伝えたい。
放課後のまだ喧騒冷めやらぬなか、颯爽と学校から離脱した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます