第6話 エルバサ防衛作戦

 ――噴水広場。


 そこはエルバサの町の中心部であり、最も華やかな場所。


 モチーフである大きな噴水を中心にきれいに舗装された道路が広がっていき、それらは町の重要な商店街にもつながっている。街灯や木々に植え込み、買い物疲れの町民が休めるようなベンチまで整備されており、町の象徴としては町長のやる気が十分に感じられる広場であった。


 昼間に俺が見たときは多くの人が行き交い、奥様たちの井戸端会議から子供同士の鬼ごっこ、商人が取引相手と談笑を交わす姿まで様々な人たちがいた。



 しかし、それが今ではどうだろうか。


 美しかった噴水は破壊され、広場は水浸しである。舗装された道路は粉々に砕かれ、木々は倒されている。ベンチに至っては真っ二つに割られてどこかへ飛ばされていた。


 だが、それでも人々の心はまだ折られていなかった。


 噴水広場に人垣ができているのが見えた。

 その中には一段高い場所に立ち、決して豪華ではないが質の良い服を着た男が見える。おそらくだが、彼が町長なのだろう。

 彼の周りには農夫から商人まで大勢が武器を手にとり集まっている。


 聞こえてくるのは町長が鼓舞する声とそれに答える男たちの雄叫びである。


「私の呼びかけに答えてくれた勇敢なる男たちよ。今、そなたたちは紛れもなくこの町を守るための戦士たちである! それは普段の職務や生活とは関係なく全員で一丸になる必要があるからだ。そして、何よりもそなたたちのこの町を守りたいという強い意志に私は深く感謝をしよう」


 町長が深いお辞儀をする。


「そなたたちの勇気を私は決して無駄にしない! 現在、町に暮らしていた住民たちの避難誘導を行なっていが、全員が逃げ切るためには時間が足りない。そこでそなたたちの力を貸してほしい。騎士団は壊滅してしまったが、本日は非番であった者や町の警備にあたってくれていた者などわずかだが生き残っている騎士団員がいる。作戦指揮については全て彼らの指示に従ってほしい。当然だが、私も武器をとって前線に出るつもりだ」


 これには集まっていた男たちにもざわめきが起こる。町民の全員が口を揃えて「それはなりません!」という旨を伝えているが町長の決心は固いようだ。静かに首を横に振っている。


「私だけが後ろに下がっていては示しがつきませんからね。では、具体的な作戦内容に関しては彼から伝えさせてもらう」


 そういうと町長は壇から降りてそばに控えていた鎧姿の男が上がってきた。


「この中には顔見知りのものが多いと思うが、改めて自己紹介をさせてもらう。俺の名前はアルギーニだ。ここエルバサの騎士団では第二部隊の隊長をしている」


 まだ二十歳ほどのような若い印象を受けるが、アルギーニは堂々とした様子で話をしていた。聞いている人々にも目をむけ心配はいらないという安心感をくれる。伊達にこの若さで隊長を務めている訳ではなさそうだ。

 アルギーニが皆と目を合わせる訳だから、もちろん端っこにいる俺ともばっちり目があった。彼は優しく微笑みそのまま話を続けた。


「我々、騎士団は甚大な被害を被ったが、今は町のあちこちに散らばってもらい逃げ遅れた住民たちの避難を行なっている。その一方で魔物たちが流れ込んでくる南側では足止めのために狭い路地への防護柵の設置や魔物たちとの戦闘中だ。そこで集まってくれた男衆は大きく三つの隊に分ける」


 アルギーニが合図を出すと数人の騎士団員たちが颯爽と現れた。


「まず一つは避難誘導をしてもらう隊。この隊にはエルバサの町に詳しいもの。そして、瓦礫に挟まっている人を助けられるほどの力自慢たち。二つ目は防護柵設置の隊。ここは手先の器用なもの。素早く設置を行う必要があるため足のはやいもの。そして最後に魔物と戦闘を行う隊。この隊は少人数でも構わない。魔物との戦闘を一度は経験をしたことがあるものや腕っ節に自信のあるやつだけが来い。以上だ。それぞれ今出てきた騎士団員のところに隊毎に集まってくれ」


 アルギーニの話が終わり次第に人垣は崩れていく。皆がそれぞれ自分の能力を最大限に発揮できる隊のところに集まり始めている。その中でも俺は最も人数の少ない隊である魔物との戦闘を行う隊に合流した。


 リスクは高い。だが、この隊以上に俺の実力を発揮できる場所はない。

 とはいえ、装備は全て初期装備のままでいくつか購入してある回復アイテムもこの数では心許ない。こうなると重要になってくるのは知識とプレイヤースキルだ。先ほど遭遇したオアルという魔物はクリティカルを出したが故にあっさりと倒すことができた。このように魔物たちにはわかりやすい強みと弱点がある。


 オアルで言えばそれは槍を使えるというリーチと背後からの不意打ち。あの不意打ちも知っていなければ俺は間違いなく死んでいた。何ならゲームでオアルと初めて遭遇した際は何度も何度もあの技を喰らって死んでいたからだ。


 ならば、せっかくダイブモードのおかげでNPCと会話ができるのなら作戦を立てるのも良いかもしれない。


 そうこうしているうちに全員の隊分けが完了した。


「では、これよりエルバサ防衛作戦を開始する! 総員心してかかるように! それでは配置につけ、散!」


 アルギーニの号令で今この場に集まっていた全員が作戦行動を開始する。中でも俺たちの隊はいの一番に出発し、目的地であり、防衛の要所でもあるエルバサ南門へと急いだ。


 ここからが正念場だ。


 ……ただ、俺は未だにオアルの返り血で汚れたままの自分の姿を見て、一瞬ゲンナリとする。なぜ、こういうところにもリアルさを求めているのか。魔物の死体が消滅するなら一緒に返り血も消してほしい。そう思うのは俺だけではないはずだ。


 運営には色々と改善点の要求をしておこう。


 だが、そんなことを考えていられるのも今のうちだ。

 俺は周りにいる町民たちの顔を見て気を引き締める。なんせ俺の努力次第でエルバサの町の命運が決まると言っても過言ではないのだから……

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デスティニー・オア・レリーフ 歩兵 @Yu-n0

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