endless summer

@vespalovar

第1話

 セルシウス温度で47.2度。東北のある県のある市でついに47度台の大台にのった。

「第二次観測史上三回目の47度台です。防暑服を着用して各自作業してください。なお、この温度での防暑服の安全性は保障されていません。当初の契約により、弊社は作業中のあらゆる事故事態の責任を負いかねまs・・・」

 音声はそこで途切れた。まあいつも聞いているのだ、いまさらあえて聞くまでもないが、本来ならばここから掟の暗唱が始まる。やったところでといったところ。

 俺は地下シェルター(通称アヒード)居住権を借りるため、地上での労働に従事している。人類は地上を捨てた、いやむしろ捨てられたのか。とにかくこの暑さのせいでもはや地上はハビタブルゾーンではなくなった。逃げた先は地下だった。直射日光を避けながら暮らせるので合理的なのだが、問題もある。ちなみに俺は金が関わること以外気にしない主義なのだが、だからこその悩みの種。キャパに限度があるため、地下で暮らすためには高額な金を払うか、人権を政府に譲渡して公認隷属従事者と言われる現代の奴隷になるしかない。俺はもちろん後者。生存権以外は譲渡することになっているが、奴隷としての日々は、もはや俺に生存権があることを忘れさせる。

 この暑さをしてようやく人々に今が紛れもなく夏だと分からしめる。もはや、季節など基本意識しないのだ。どうせ、春夏秋冬もれなく平均気温が35度を超える。ただ、夏は違う。市販の防暑服では気温が45度を超えると、冷却器を動かすために発生した熱が蓄積することで、防暑服の”機内”のなかですら、長時間使えば38度を超える。これでは本末転倒。それゆえ、45度以上での外出は推奨されない。今日のような死暑日は地下シュルターにこもって映画でも見るのが得策だ。ここには第一次観測史の日本国の中小企業のように朝の朝礼などないが、集会所でだべる同僚は少なくない。そんな彼らの前を通りながら、俺は今晩の配給の自由選択食事切符を何に捧げるかシンキングタイム。

 「ども。」

 「ん。」

同僚たちとは必要以上に慣れ親しまないようにしている。かるい挨拶と業務連絡以外はしない。コミュ障だからではなく、単にする必要がないのだ。

 「こちらokr-4565a21、聞こえているだろmew-2-03w。今日は先日制限が解除されたエリア167を担当してもらうが、なにやることはいつもと同じだ。」

 「こちらmew-2-03w、構わない。」

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