14.
「古今東西、子どもが読みます物語と言うのはどれもこれも美しいものばかりでございますわね。」女がしなだれかかるようにして僕に言った。
「確かに確かに。しかし仄暗い物語なんぞ純真無垢な子供らには毒だろう。」少し離れたところから銀髪の老紳士が話しかけてくる。僕は黙って耳を傾ける。
「私美しいものこそ毒だと思いますの。」それは何故かと僕は尋ねる。女が指先で髪を弄びながら答える。
「何故って、まともな人間なら純真無垢な世界など何処にもないと知っているでしょう?美しいだけでは生きていけませんもの。けれど美しい世界を疑わず、創り上げようとする者もいる。そういう方はきっと狂ってらっしゃるのだわ。そうして創り上げられたのは美しく穏やかな狂人の楽園なのではないかしら。楽園を求める人間は狂っているのだわ。」私も同じですけれど、と付け加えて女は笑う。
「確かに確かに。美しい幻想は人を狂わせる。丁度貴方のように。」銀髪の老紳士が恭しくお辞儀をして笑った。答えるように僕も笑う。皆、皆、狂っているのだ。狂人の楽園は確かに此処であり、永遠に終わらないのだ。
僕は思考する。
意味もなく、理由もなく、終わりもなく、
楽園 寧依 @neone
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