年に一度の

陽月

年に一度の

 皆さん、こんにちは。

 本日、私が訪れている場所ですが、どこだと思いますか?

 ご覧ください。色づき始めた山、刈り取りの終わった田んぼ、点在する家。見るからに、のどかな田舎です。

 ですが、年に一度、今の風景からは思い描けないような活気づく日があるんです。

 それは、明日なのですが、一日早く、皆様にお伝えさせていただきます。


 鳥居が見えてきました。こちらが、活気の中心地となる、天神社です。

 それでは、神主さんにお話を伺ってみましょう。


 こんにちは。

「こんにちは」


 明日はこの神社が活気にあふれかえると、伺ったのですが。

「はい。明日はこの神社のお祭りの日ですので」


 お祭りなんですね。どのようなお祭りなんでしょう?

「秋祭りですので、例に漏れずと申しますか、収穫を感謝するお祭りです」


 お祭りと言えば、御神輿という印象があるのですが。

「残念ながら、神輿はありません。ご覧の通り、氏子も少ない状況でして、担ぎ手にも困る状況ですので」


 活気にあふれかえると言うことは、失礼ですが、他所からも人が来られるということですよね? 御神輿ではないけれども、何か目玉になる物があるということでしょうか?

「はい。明日のお祭りだけ、年に一日だけ、不磨の宝玉を開放いたします」


 不磨の宝玉、ですか?

「その名の通り、決してすり減ることのない宝玉でして、願いを込めて磨くと、その願いが叶うと言われています。また、願いが叶ったあかつきには、お礼に磨かなければ今度は不幸が訪れるとも言われています。ですので、多くの方が磨きにいらっしゃいます」


 そんなに磨かれても、すり減ってはいないのですか?

「記録では、奈良時代から行われていた行事なのですが、すり減ってはおりません」


 なるほど。ところで普段はその宝玉はどちらに?

「本殿に、とでも言えると良いのですが、倉庫に保管しています。昔は倉があったと記録には残っているのですが」


 なんとも、それは。少しありがたみが薄れたように思います。ちなみに、今日見せていただくことは。

「残念ですが、致しかねます。年に一度、祭りの日だけですので」


 ここまでお話を伺ったら、実物を見てみたいのですが。

「是非、明日もう一度いらしてください。今日お見せできるのは、昨年の写真だけです」


 こちらがその写真なんですね。この真ん中のちょうど布で磨かれているのが、そうでしょうか?

「はい。そちらが不磨の宝玉です」


 宝玉という言葉から、丸い物を想像していたのですが、不思議な形ですね。

「米の形をしております。収穫を感謝する祭りですので」


 本日はありがとうございました。

「こちらこそありがとうございました」


 かなえたい願いがある方は、明日、不磨の宝玉を磨きに訪れてみてはいかがでしょうか?

 以上、天神社よりお伝えいたしました。

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年に一度の 陽月 @luceri

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