もし僕のセックスが小説のようなら
吉行イナ
もし僕のセックスが小説のようなら
もし僕のセックスが小説のようだったなら僕は大したオーガズムを感じることなく
君を愛する満足な気持ちに包まれて射精することだろう。
そこに身体的なべたつきはなく、事後のめんどくささもなく
囁く言葉もどこか詩的なのだ。
そして僕の粗末な息子も古代ギリシャの英雄を称えた彫像のように威厳のある
面構えで、女王たる君のヴァギナを魅了するのである。
僕の腕は7本か8本ほどに増殖したかのように君のあらゆる部位を愛撫する。
手のひらをなぞり、へそのあたりを指の腹で撫で、マシュマロのような感触の尻を掌で覆い揉みしだく。
その世界では僕と彼女はとても純潔でこの上なくおしゃれだった。
行為後はたぶん音楽とか本とか聞いたことのない芸術家や思想家のことでも語るのだろう。
でも僕はそんなではだめなのだ。
僕は小説みたいにおっぱいのことを胸とは言ったりしない。
「僕は乳首をべろべろなぶり舐めるのが好きだ」
僕は小説みたいに気の利いたお世辞は言わないし思いつかない。
「だって興奮するんだから直情的ないやらしい言葉がさらに興奮を誘うし それに それに それに」
それに 君は小説の世界の僕を好きになってくれなかっただろうし
僕は小説の世界の君を多少素敵だなと思っても好きにはならなかったろう。
そんなことを考えているうちに朝は夜に変わり夜は朝に飲み込まれた。
やがて網膜と心臓の表面、半径3メートル以内のぼんやりとした境界に
ありとあらゆる文字が羅列し張り巡らされ、そのほとんどがこの世の常温に耐え切れず蒸発していった。
想いを言葉にするのは難しいことだ。それも正確に選び取って伝えるのはなかなかできることではない。だから伝えるのだ。 小説のように練り考えられた言葉ではない 僕の真心を。
もし僕のセックスが小説のようなら 吉行イナ @koji7129
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