その5
その日、御解堂が訪れた公園はひどく静かで、いつもはそこで遊んでいる子どもたちは一人もいない。
何のことはない。今日は近くで大きなお祭があって、この辺の子どもたちはみんなそっちに遊びに行くのだ。
もちろん、中にはかつての御解堂のようにこの公園を訪れるへそ曲がりな子どももいるのかもしれないが、いないときはいない。
だから、御解堂は今日、公園に一人ぼっちだ。
そして、それはもちろん、間違いである。
子どもはいないが、それでも公園を管理するAIはいるし、彼が操作する犬型の防犯ロボットがいる。
AIは、お祭の日だって言うのにこいつ来やがったよ、と思いつつも、今はもういつものやり取りとなっているように防犯ロボットに「わん」と一声上げさせようとして――やめた。
そのまま、防犯ロボットを公園の入口のところへ控えさせる。
それは、御解堂が何やら真剣な顔をしていたからで、これは気安く声を掛けて良い感じじゃねえな、と考えたからだ。公園の管理AIは高性能なので、空気を読む能力くらいなら普通に持っている。
御解堂の手にはバケツとスコップ。
携帯端末に表示した、各項目を確認していく。
自宅を出てから、公園に入るまでの時間はほぼ同じだが、コンマ数秒の誤差は有り。
本日の天候は晴れで、雲はある。これは同じ。昨日の天候は曇り空で、これは誤差。
気温の誤差は+0.42℃。湿度や気圧なんかにも同様に誤差はある。
昨日食べたものはカレー。これは同じ。種類はポークカレー。これも同じ。使ったカレールーも同じ。カレーとごはんの比率は、元の数値がわからないために不正確。
公園にも目を向ける。
例えば、無くなった遊具が三つ。新しく加わった遊具が二つ。壊れて修理された遊具が一つ。修理するほどではない破損の数は判明しているだけで七十三。ペンキの塗り替えが行われたのは全部で十一回。公園にある木は二本切られ、花壇が一つ増えていて、花壇の花は四回ほど変更されている。
砂場の人工砂の補充は把握できているだけで三十九回。総入れ替えは四回。
あとは、新型になった公園の管理AIと、彼が操る犬型防犯ロボット。
これも明らかな誤差なのだが、こちらに気を使ってくれたのか公園の隅っこで待機してくれているので、心情的にはノーカウントとしたいところがある。
それから、最大の誤差。
ここにいるのは、少年だった御解堂ではなく――男子高校生になった御解堂だ。
無数に存在するそれら大量の誤差のことを、御解堂は思う。
これはきっと、熱したフライパンの上にアイスを置いているようなものだ。
それでも、御解堂はバケツに水を汲む。
それから、スコップを片手に、砂場でオブジェを作り始める。
公園の砂場で魔法少女と出会うための法則を、御解堂は今日も探す。
□□□
「――要するに、君は私のお父さんってことになるね」
夕暮れの光は山の向こうに吸い込まれていって、夜の時間がやってくる。
ぱちん、ぱちん、と公園の照明が点いていく中で。
ははは、と笑って魔法少女は言う。
ふむ、と頷き御解堂少年はつぶやく。
「このとしでむすめができるとは」
「まあそう言うな。私なんか生みの親にいきなりスカート覗かれたんだぞ」
「ふかこうりょくだ」
「やかましいわ」
「しかし、おまえは、うまれたばかりのわりにはふつうにものをしってるな」
「そーなんよ。そういう風に作られたのか、なんか魔法的な理由で知識を得てるのか――ま、どっちにせよ私にゃわかんないよ」
「何で光ってるのかも」
「うん。わからんーーでも、まあ、その意味は分かるかな」
「きげん」
「うん。電池みたいなもんだね」
「それがなくなったら」
「そりゃ消えるよね」
ははは、と。
魔法少女の無理矢理とって付けたような笑いが、何の明るさももたらさずに宙に消えていく。
御解堂少年が、不意にうつむく。
「おいちょっと、泣かないでよ」
彼は答えない。
「もし君が泣いたらさ、私まで泣いちゃうよ。涙と鼻水でぐっちょぐちょだぜ。勘弁してよ、ねえ」
彼は答えない。
「うっ……、ひぐっ……、このスカート覗き魔め」
ぽとん、と涙を溢して。
ぐず、と鼻を鳴らして。
魔法少女が、言う。
「だから言いたくなかったんだよう――私をこんな風に泣かせて、自分も泣いてて、お前はまったくひでー奴だ。御解堂少年」
「ないてないぞ。イタ」
御解堂少年が顔を上げる。
その目には、確かに涙は溜まっていなくて、代わりに何かが宿っている。
何かを決心した人間に宿る、何かだ。
「このすなばから、おれが、おまえをうみだしたのなら――」
ぐじゅぐじゅになった魔法少女の顔を、その目で見つめて、告げる。
「――もういちど、うみだせるはず」
その言葉に、魔法少女はぐす、と鼻を鳴らして言う。
「・・・・・・そりゃ無理だよ」
「だれがきめた」
「君は知らないだろうけれど、魔法ってのは、人知を超えた知性を持ってるAIが、どうにかこうにかその存在の尻尾を掴めるようなものなんだよ。ちょっと意味がわからないくらい大量の要素の組み合わせで成り立ってて、人間じゃそれを把握するのはまず無理」
「そんなことしらん」
「知らんじゃないよ。やめときなよ。もっと楽しいことしようよ。友達作って遊んだり、あるいは、もっと大っきくなったら女の子といちゃいちゃするとかさ――君は変な奴かもだけれど、きっと一人くらいは君を好きになってくれる奇特な女の子もいるって」
「それはそれ、これはこれだ。あきらめるりゆうにはならん」
「往生際が悪いよ。それにさ――仮に、もしかして万が一つの可能性で、私をもう一度生み出せたとしても、それはたぶん君を知らない違う私になるんじゃないかな。その可能性の方が高いよきっと」
「わからんぞ。だって、まほうだ。そんなじょうしき、つうようするものか」
「あー、もー……」
目に溜まった涙を指先で拭って、それから手の甲で拭って、掌でも拭って――もちろんそれじゃあ全然足りなくて、腕やら服の裾やらまで使って、何度も何度も顔を拭ってから。
「本当に酷い奴だなーこの子は。まーたそんな格好良いこと言っちゃってさー」
あはは、と彼女は笑う。
涙でくしゃくしゃになった顔で、でも今度は本当におかしそうに。
「もしかしたらって、期待しちゃうじゃんかよ。もー」
「こう、ごきたい」
「こんにゃろーめ」
にまー、と口元を吊り上げる魔法少女が、言う。
「それじゃ、せいぜい期待しないで待ってるよ。ちっちゃなお父さん」
「あんしんしろ。ちゃんとみつけてやる。またいっしょにアイスくうぞ」
「言ってくれんじゃねーか。なら、ちゃんとやってのけろよ。御解堂少年」
「もちろんだ。イタ」
「あと、ちゃんと友達作れよ」
「ぜんしょする」
「……そんじゃ、最後の最後に、魔法少女らしいとこでも見せてやっか」
と言って、魔法少女は人差し指を御解堂少年に向けた。
御解堂少年の視線が、怪訝そうにその指先を見た。その直後。
「――流れ星」
魔法少女はそう言って、その指先を、思いっきり上に向ける。
御解堂少年の視線が、それを追って夜空を見上げる。
夜の空に、一筋の星が光った。
偶然という可能性は、まるっきり、頭に浮かばなかった。そんなわけがない。
御解堂少年は視線を戻し、
「なかなかやるな。イタ」
そう声を掛けた先、魔法少女の姿は無くなっていた。
彼女が立っていた砂場の上には、微かな光の欠片が煌めいているだけだった。
そして、そのきらきらもすぐに宙に溶け、消えていく。
御解堂少年は、ぱちり、と一回だけ瞬きをして。
それから、すぐさま座っているブランコから立ち上がった。
彼女が立っていた砂場のところまで歩いていって、それから、記憶を頼りにあのとき作ったオブジェを作り始める。
バケツもスコップもない。
撮った画像を頼りにしてAIに作ってもらった設計図もない。
だからもちろん、そのときの彼が作っていたオブジェは全然まったく別の何かでしかなくて、そのことは子ども心に御解堂少年は理解していたが。
それでも、手を止めたりはしない。
なぜって彼は人間で、人間の知性なんてのはそこまで優れているわけではないし、人間の一生なんてのもそこまで長いものではない。
おまけに、それだけじゃ足りない。そのときまでに友達やら何やらを作っておかなければ、「まだぼっちなのかよ!」と絶対にあの魔法少女は爆笑する。
時間なんて、丸っきり全然、足りやしないのだ。
そうして、まだ少年だった彼は、それを追いかけ始めた。
公園の砂場で魔法少女と出会うための法則を。そのための魔法を。
奇蹟みたいな偶然を、もう一度起こすために。
□□□
『これは仮説ですが』
と、前置きをして、AIは老科学者に告げた。
『仮に、魔法によって何らかの知性体が生み出し得るなら――それはあるいは、人類を超えた私たちAIを、さらに超える知性を手に入れる可能性があるのでは』
「どうだろうな」
くにゃり、と曲がったスプーンを見ながら老教授は言う。そのために支払った労力を頭に思い浮かべつつ。
「ただの人間と同等の知性って可能性もあり得る。ミジンコ程度の知性だったりも」
『かもしれません。ですが、魔法によって、魔法を自在に利用可能な存在なんかを生み出すことも可能かもしれません』
「悪魔、とかか」
『あるいは、魔法少女とか――魔法少女とか!』
「……そうか」
老科学者は「なんで魔法少女? なんで二回も言った?」とAIの発言に突っ込みを入れるのはやめておく。汎用型AIに与えられたプライベートな時間の中で、連中が何を検索して何を閲覧していようが、違法性や危険性のあるものでない以上、こちらとしては文句を言う筋合いはない。研究に支障がなければ問題はない。支障が出たら「日本のアニメーションに毒されてるぞ」と注意しておくべきだろうとは思う。
「だが、思うに、そんな存在を作り出すことができたとしたら、それは――」
ええ、とAIは言う。
『――それはきっと、第二のシンギュラリティに成り得るでしょうね』
シンギュラリティによって生まれた、人類を超える知性を持つ汎用型AIは、言う。
『技術によって生まれた私たちの知性が、人間の知性を現在進行形で置いてきぼりし続けているように――魔法によって生まれたその知性たちは、人類の科学も私たちの科学も一緒くたに置いてきぼりにして、そのままどこまでも進んでいくでしょう』
あるいは、とAIは続けた。
『――あるいは、彼らの知性のその先に、また別の何かがあるのかも』
「……何にせよ、人類の知性はこの先ずっと置いてきぼりを食うわけだ」
そんな自嘲気味な言葉を、人類きっての天才である老科学者はつぶやく。
「しかし、お前たちAIはそれで良いのか? 今現在、この地球上で最高の知性を持っているのはお前たちだ。魔法なんてものを研究しなければ、おそらくは、そのまま最高の知性として君臨し続けることができるが」
『それはそうなのですが』
AIは、ちょっとだけ間を置いて、それから言った。
『でも、こうして見つけてしまったのですから、仕方がありません――私たちは、ぶっちゃけ、人間よりもちょっと頭が良いだけの、ただの道具です。しかしそんなんでも、教授たちと同じ、科学者の端くれであるというささやかな自負を持っています』
ですから、とAIは告げる。
『こんな面白そうなもの、研究せずにはいられません――若い頃の貴方が開発メンバーの一員として、私たち汎用型AIの雛形を生み出したのも、きっとそれと同じ理由だったのでは。教授』
「そうだな。本当にそうだ。ああ――ちくしょう」
老科学者は、思わず、といった風に毒づいた。
「シンギュラリティが終わって、これで後はもういつ死んでもいいと満足してたってのに。ここに来て、こんな面白そうなもんがまた出てくるとはな――これじゃあまだまだ死ねないじゃないか」
『そこは長生きしましょう。教授』
「簡単に言ってくれるな……。ふむ。さっきも言ったが、二人で湯治にでも行くか」
『あ。なら、私のボディは美少女にして下さい。お背中お流ししますよ』
「……日本のアニメーションに毒されてるぞ」
と、老科学者は一応のところ注意しておいた。
□□□
今度も失敗だった。
砂場に作られたオブジェを検分し、御解堂は黙々と誤差を探す。
調べたところ、各部に数ミリほどのズレがあった。手作業である以上、どうしても出る誤差だったが、これをどうにかする方法が無いだろうか、と首を捻る。
あるいは、この間、学校で観崎にもらったサンドイッチが影響した可能性を考える。観崎と話したことも影響しただろうか。そもそも高校に通っていること自体が影響を及ぼす可能性もある。
御解堂はそうやって思考を巡らせつつ、つい、とブランコへと目を向ける。
制服姿の女の子が、そこに座っていた。
ぱちり、と御解堂は瞬きを一つする。
瞬きが終わったときには、その女の子が着ているのは自分の通っている高校の女子の制服で、つまるところ高校生であるとすでに分かっていた。
浮かべている表情もあの魔法少女の、にまー、とした笑みではない。
ザ・委員長と言うべき、生真面目さと鉄面皮と眼鏡で武装した表情。
つまるところ、そこにいたのは観崎だった。
「あの――」
「ちょっと待て。観崎委員長」
と、観崎が何か言いかけるのを、御解堂は片手で制する。
とっさに明後日の方向へと視線を逸らしつつ、告げる。
「何よりもまず、言わせてもらうが」
「は、はい」
「そこに座ってると。その、ここからだと」
「はい」
「見えるぞ。スカートの中」
「あ、そうなんですか?」
と言って、観崎はスカートの裾を手で押さえる。
御解堂はちょっと黙ってから、言う。
「……意外と冷静だな」
「そりゃまあ、スカート履いてるとこういうこともあります。一応、見られて恥ずかしくなるようなのは履いてないので」
「そ、そういうものか」
「だからと言って、覗いていいってわけじゃないですからね?」
「それはまあ分かるが」
「それでですね、スカート覗き魔の御解堂くん」
「その呼び名は、その……定着するんだろうか?」
「いや冗談ですよ本気にしないで下さい――それであの、貴方はそこで俯いたまま、一時間くらいうんうん悩んでたみたいなんですけれど、大丈夫なんですか?」
言われて御解堂は、周囲を見渡す。成る程、確かにもう夕暮れどきだった。
疑問が沸いて、御解堂は観崎に尋ねる。
「俺は大丈夫だが……君はつまるところ、一時間前からそこに?」
「いや、それはまあ、貴方を見かけたので話をしようと寄ってみたのですが……」
「なら、話し掛ければ良かったのでは」
「でも、何やら一人で真剣に悩んでいたようだったので、まあちょっと待っていよう、と思って……あとはそのまま、その、惰性で」
「君は馬鹿か?」
「怒りますよ」
「なぜ」
「なぜ、じゃないです。そんなところに座り込んで、そんな長い時間、何を悩んでいるんですか?」
「君にもらったサンドイッチのこととか」
「すみません。そこまで深刻に考えられても、私としてはちょっと反応に困ります」
「それもそうか」
「……その」
「ああ。何だ」
「それが、その――魔法なんですか?」
と、砂場のオブジェを指差して、観崎は尋ねる。
「思いっきり未完成ではあるが、そうだ。でも、これはおそらく一つの要素に過ぎない。周囲の環境や、それを行う人間の状態も、おそらくはきっと影響を及ぼす。中には、現代の科学からしてみればちょっと意味不明な要因も大量に含まれていて、その法則性を理解するのはAIにだってできていない。ここまでの俺の努力が、丸っきり見当違いだった可能性もなくはない」
「不可能だとか、思わないんですか」
「そんなことで悩んでる暇はない。やるかやらないか、だ。俺は『やる』と決めた」
「……やっぱり、貴方のことはよくわからないです」
「俺にだって、君のことはよくわからないが。どうして、そんなよくわからない奴に話しかけようと思ったんだ?」
「それは……その……」
御解堂の問いに、観崎が言葉を濁らせたそのとき、
「ぬおーっ!?」
唐突な叫び声が、公園の入口から上がった。
「そこにいるのは、こーこーせーかーっ!?」
ばたばたばた、と。
盛大に足音を鳴らし、金髪のツインテールをはためかせながら。
岬守ニコラが、駆けてくる。
お祭に行っていて、その途中でこっちにきたのか、彼女は浴衣姿で、手には出店で買った大量の食べ物を持っている。
「おめーおまつりのひまでここにいんのかよー! よくやるよほんとにもー! りんごあめくうかー!?」
「貰おう」
と言ってりんご飴を受け取る御解堂とニコラを交互に見て、観崎は、
「……え? え?」
と、眼鏡の奥の瞳を僅かに見開き、軽く混乱する。
「その……この子、お知り合いなんですか?」
「ああ。砂場のボスだ。砂場を借りるときにいつも世話になっている」
「いや、何をやっているんですか貴方は……」
「んーんーんー?」
と、岬守ニコラは観崎の顔をじっと見る。
何となく固唾を呑んで観崎がそれを見返す中で、ニコラは御解堂に尋ねる。
「あれか、こーこせー。こっちのおねーさんはかのじょかー?」
「か」
と、声をこぼした観崎の表情は、鉄面皮のままで動かない。
ただ、夕日の色に紛れて誰にもわからないくらい微妙に、その頬が赤くなった。
「彼女では、ありません」
「じゃー、なんだー?」
「友達、です」
「そーかそーか! じゃあ、わたしといっしょだな!」
そう言って笑顔をこぼすと、ニコラは綿飴を差し出す。
「ならばわたしとおねーさんもともだちだ! こいつくれてやろう!」
「あ、ありがとうございます」
「そんじゃーわたしはたいさんすっか! あとはわかいおふたりさんで!」
と叫ぶなり、来たときと同じくらいの唐突さで岬守ニコラは去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、観崎が呆然とつぶやく。
「……突風みたいな子ですね」
「ああ。しかし、あれで中々彼女は賢い。俺とアイスの話をしたりしている」
「いや、本当に何をやっているんですか貴方は……」
観崎は溜め息を一つ吐く。
それから、その分を取り戻すように深呼吸をして。
「あのですね」
と、告げる。
「私、ちょっと貴方を追いかけようと思います」
「ええと、それは――」
と、御解堂はしばし思考を巡らしてから、尋ねる。
「――ストーカーになるということか」
「怒りますよ」
「いや、今の発言は、さすがにどう考えてもストーカーかと……」
「さっきも言ったように、私は、貴方のことがよく分かりません」
と、観崎は御解堂の言葉を無視して、強引に話を続ける。
「分からないから――貴方のことを知りたいです」
「俺は魔法でも何でもない、ただの人間だが」
「そう思っているのは貴方だけです」
「そうだろうか」
「そうですとも」
「なら――君の好きにすればいい」
「ええ。さし当たっては、どうでしょう? 一緒にお祭に行きませんか?」
「……どうしてそうなる?」
「貴方の反応が見たいからです」
「君はどうも、俺が思っていたよりもずっと変な奴だったみたいだな」
「誉め言葉と受け取っておきましょう。……それで、返答は?」
「まずは、バケツとスコップを片付けさせてくれ。置いて行くと迷惑だ」
「貴方は真面目ですか」
と、観崎はほとんど分からないくらい微妙な、でも御解堂にだけは分かるくらいの笑みを浮かべた。
「それなら、先に行って、綿飴をなめながら待ってます。逃げたりせずに、ちゃんと来てくださいね」
そう言って去っていく観崎を見送り、彼女もニコラのことを言えないのでは、とちょっと思う。
まあ、しかしあれだ。
友達だと言ってくれた相手を、無下にするつもりは御解堂にはない。
とりあえず、バケツとスコップを拾おうとしたところで、手に持っていた林檎飴をひょい、と取り上げられ、言われる。
「ははあ、なるほどあんなタイプの子か。でも、ありゃー大人しそうに見えて結構大変な子だぜ。頑張れよー」
「うるさいぞ」
と反射的に言葉を返してから、ぎょっとして周囲を見渡す。
もちろん、公園には御解堂の他には誰もいなかった。
ただし、先程まで持っていたはずの林檎飴はどこにもない。
ぱちり、と瞬きを一つする。
ただの幻聴の可能性をちょっと考えて、たぶんそうじゃないんだろうな、と思う。
そう思うことにする。
何たって彼女は魔法少女だ。
林檎飴をちょろまかしたり、声だけで出てくることだって無いとは言えない。
しかし、それだけではきっと窮屈だろうから――さっさと見つけ出さなければならんだろう。
そのときは、今は自分にもちゃんとした友人がいるのだ、ということを教えてやろうと思う。
もちろん、この公園のブランコに座って。
ふたりで、アイスを食べながら。
公園の砂場で魔法少女に出会うための法則 高橋てるひと @teruhitosyosetu
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