第3話 手帳に記した日

大量のケーキが残り僅かになった頃、瀧聲が口を開いた。


「アヤメはいつなの?」


「いつって、何が?」


「誕生日。アヤメの」


「俺? 十一月二十八日だが……」


「ちょうど二か月くらい先か。分かった、覚えておくね」


拳を握り締めて頷く瀧聲に 、アヤメが苦笑する。


「信用ならんなぁ。お前さんのことだ、明日になった ら忘れているんじゃないか?」


「そんなことないよ。大事なことくらい、忘れない」


「分かったよ。期待せずに待っているから」


手をヒラヒラ振るアヤメに 、瀧聲は「大丈夫だよ」と 手帳を取り出す。


「大切なことを忘れないための、手帳なんだから」



赤いペンで二十八日に丸をつける瀧聲。

それと、もう一つ忘れない。


「あの子の誕生日も記しておこう。お祝いはできないけど、会いに行くことはできるよね」


マリーゴールドの花に囲まれた、十数年前に消えた友人を思い浮かべる。

――プレゼントは何がいいかな。アヤメは文房具で、ユウタはぬいぐるみかな。


いつか来る友人の誕生日に思いを馳せる瀧聲。

誕生日は、誰かにとっての喜ばしい日で、めでたい日。

それは彼にとって、初めて手帳に記す忘れてはならない予定だった。


――Fin――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

誰が為のバースディ 有里 ソルト @saltyflower

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ