第4話 グレラス・ドラガン16世

むかぁーしむかし、


さらに大むかしのお話。


暗いくらぁーい宇宙に星が誕生しました。


その星には大いなる未来が待っています。


そうです、この星には多くの生物が宿る可能性を持っていたのです。


この星に一匹の龍が生まれました。


赤い体に赤い眼。


この龍は、グレラス・ドラガンと自分自身に名前をつけました。



龍は全身を少し長細い扇形の鱗で包み込んでいます。


首は長く、頭は少し大きい。


頭や首に生えている鱗は体に生えている鱗よりも丈夫です。


その鱗の先は、どんなものよりも硬くて、


まるでたくさんの角が生えているようです。


翼は大きくて、その中央部分よりも少し内側に小さな前足があります。


その指は6本あります。


翼に比べて胴はすごく細いのですが、胸は大きく雄雄しいのです。


後ろ足は強靭で、大きな岩など簡単に押し潰してしまいます。


尻尾の鱗もとっても丈夫でトゲだらけです。


尻尾の長さは、頭から足先までの長さと同じほどあり、


巨大なものです。


火龍グレラスの全長と翼を広げた大きさは、


どちらも300マルリほどあります。


小さな丘などは、その翼で隠れてしまうほど大きいのです。



こんなに立派な体を持っているのに、グレラスは気に入りません。


そう。


それは、グレラス以外誰もいないからなのです。



ある日グレラスは召使としてひとりの少女を生みました。


その少女はセンタルアと名付けられて、毎日グレラスと語り、


グレラスを崇めました。



しばらくすると、グレラスとセンタルアは子供を授かりました。


グレラスはこの子供たちに仕事を与えます。


『我を敬い、我に忠誠を尽くせ!

 さらには、沸いて出た動物を人間に進化させよ!

 人間に住む村を造ってやり、お前たちが管理しろ!』


この時グレラスとセンタルアの子供たちは神となったのです。



その日から数え切れないほど幾日も経ったある日、


グレラスが遠くを見ていて、ふと視線を替えた時、


センタルアがいなくなっていることに気づきました。


グレラスはセンタルアを探しました。


ですがどこにもいません。


『これが別れ…

 センタルアの死…』


グレラスは深く悲しみ、センタルアを思う気持ちで、


金色の鱗が一枚生えていました。


その鱗が体からはがれ落ちた時、グレラスも死んでしまいました。



その大きなグレラスのなきがらの下に、大きな卵がありました。


神々たちは卵を大切に守りました。


ある日卵は割れ、小さな龍が誕生しました。


『我こそはグレラス・ドラガン二世!

 さあ、みなの者よ。

 我のために大いに働けっ!!』


このようにして、赤い龍は代替わりをしていくのです。


そして、今までの記憶は一切ないのです。


ですがひとつだけ変わらないことがあります。


金色の鱗だけは、一生のうちに一度だけ生えてくるのです。



さらに多くの日々が流れ、


グレラス・ドラガンは16代目となっていました。


グレラスはふと思いつきます。


『なぜ我と同じ者がいないのだ?』


グレラスは暇を持て余しています。


すると彼は、彼と同じような龍を生み始めたのです。


しばらくして、この星は飛龍で埋め尽くされました。


グレラスは大いに喜びます。


しかし多くの飛龍は人間たちを食べるようになったのです。



困り果てた神々がグレラスに意見するのですが、


グレラスはその神たちを、『うるさい、だまれ』と一笑に付して、


業火で焼いてしまいました。



そんな中、この星の強いチカラが神の下に集まってきたのです。


そのひとりであるゼンドラドがリーダーとして、


戦の女神フェイラレスの守護を受け、


神々の想いにより創り出された、常に変化し続ける武器、


ドラゴンスレイヤーを片手に持ち、


飛龍たちと決闘を始めたのです。


ゼンドラド以外の強き者達は、


飛龍を倒す術はありません。


よって、村などの守護を担当しました。



ゼンドラドは傷つきながらも、ついに全ての飛龍を倒し、


グレラスの前に立ちはだかります。


両手でしっかりと握り締められたドラゴンスレイヤーは大きく成長していて、


グレラスの背丈を遥かに越えていました。


ドラゴンスレイヤーに全ての飛龍の魂が宿ったのです。


グレラスは、『勝てるはずもなし…』と言って、


小さな大陸の大きな山で細々と暮らすようになったのです。


~ ~ ~ ~ ~


「グレラスッ!!

 大悪党だわっ!!」


私はエラルレラから聞いたお話を認め終えて、


猛烈に腹が立ったのっ!!


「人間から見ればその通りだ。

 神から見てもまたしかり。

 しかし、この星の神は誰だ?」


ゼン師匠は私とは逆で穏やかに仰ったの。


「…グレラスです…

 ですけどっ!!」


「セイラ・ランダの気持ちはわかる。

 だが、神の名においては絶対無二のことわりでもある。

 しかし、おめおめと食われたくもないよな?

 よって、神の名においての決闘システムが誕生した。

 そしてさらには、仏セイント様によりグレドラは改心した。

 神自らがこの星で働き、人間たちに食物と働く場所を与える。

 ハッピーエンドになったではないか」


ゼン師匠は笑みを浮かべられたけど、私は納得できなかったの。


「でも、それは…

 …セイント様が…

 ああんっ!

 いやんっ!!

 もう、はずかしいぃ―――っ!!!!」


私、すごく女の子だわって、始めて思ったかもしれない…


ゼン師匠は少し困った顔をして私を見ていらっしゃったの。


「ちなみにオレよりも仏セイント様の方がいいようだな?」


ゼン師匠はごく普通に笑みを浮かべていらっしゃったの。


「それはありません。

 私の大いに尊敬するお方。

 そして、セイント様の妻の座は確実に訪れません。

 …でも…」


「レイコ様とエツコ様のあの雄雄しき姿と同じようになれたのなら、

 その可能性は十分にある。

 しかも、レイコ様はエツコ様よりも小さく、

 仏セイント様のように白い光を放たれてはいない。

 とりあえずのセイラ・ランダの目標はできたと思っていいよな?

 それでも半端なく雄雄しき方だけどなっ!!」


私、レイコ様の雄雄しき姿を思い出してすっごく恥ずかしくなっちゃったの…


顔から火が吹き出そうっ!


とんでもない世間知らずで身の程知らずだわっ!!


「…でも…

 なんとかして勇者になって…

 永遠の時の中で大きくなってみたいと思いますぅー…」


私は全然自信はないの…


でも、私が仏ルオウの大昔の娘の魂であれば…


「セイラ、そろそろ…」


「何よっ!!

 大悪党っ!!」


私が言うとグレラスはひどく落ち込んだわ…


私はグレラスに必死になって謝ったわ…


もう反省しているのにひどいこと言っちゃった…


グレラスは、「いや、いいんだ」と言ってくれたんだけど、


すごくさびしそうな目をしていたの。


私、どうしてかしら…


胸が、『キュンッ!!』って…


…び…


病気かもしれないっ!!



私は気を取り直してエラルレラ、グレラス、デッダを伴って、


南にある古戦場のその果ての草原に向かって村を出たの。



ここはセイント様が戦闘をされた場所、古戦場。


そして私たちは目の前に広がっている光景に驚いたのっ!


「どーして草の壁っ?!」


新たに戦場になってしまった広大な空き地は、


私の背丈よりも高い草が覆い茂っていたの…


これにはすっごく驚いちゃった…



早速、エラルレラ師匠が探り始めたの。


そして、すごく考え始めたの。


「あ、先に仕事に行こうよ!

 ここはその後だ!

 空飛んでこの広場を出るよ!

 迷子になっちゃいそうだから!」


私はエラルレラ師匠の指示に従って、デッダを抱いて宙に浮いたの。


誰もいないと思っていたけど、実のなる草もあるようなので、


私の住む村とは別の人たちが競い合いながらも


楽しそうにして実を摘んでいたの。


―― 仲のいい人たちなんだぁー… ―― 


と少しうらやましく思いながら、


その遙か向こうにある草原に出たの。



ここはごく普通に短い草が生えているだけだった。


早速、猛獣たちが現れたんだけど、


私の姿を見て、すぐにその身を隠したの。


怖いっていうレベルじゃなくなった様で、


私としてはかなり困っちゃったの…


このままだと私、


狩人ではなくて瞑送人めいそうにんにならないと


私自身を保てなくなっちゃうって思っちゃったの…



この星にはもうひとつの世界がある。


それは、『ジ・ゴ・ク』という場所。


そこには信じられないほどの恐ろしい怪物が大勢いるの。


八勇巌のような強い人たちはその場所で鍛えるの。


この魔物たちは、神々から出た廃棄物である悪い心だって、


ゼン師匠に教わっていたわ。


この話しをメリスンにしちゃうと、


絶対反対されるだろうって思いながら、


気持ちを切り替えて、デッダの倍ほどある首長龍の前に踊り出たの。


「…まさかアンタも…

 エラルレラ師匠ぉー…」


首長龍は、その首を巻いて、地面に寝転んじゃったの…


これは降参のポーズなの…


「任務完了、だね。

 唾液をとって帰ろう。

 あ、その前にあの広場の調査だよ。

 …メリスンにはボクから話すから…」


エラルレラ師匠は優しい笑みを向けてくださったの。


「…はぁーい…

 ………

 いえ、私が話しますっ!!

 そうしないと私、きっとずっとこのままですっ!!」


私が声を張って言うと、


エラルレラ師匠は笑顔でうなづいてくださったの。


「でもね、時にはセイル・ランダにも出てきてもらって欲しいんだ。

 その理由、わかるよね?」


「はいっ!

 きっとセイルも、私の中で修行を、ずっと…」


私、かなりのトーンダウンをしちゃったわ。


それは、不安…


「そう。

 ボクたちはセイル・ランダと接触しないと、

 セイラ・ランダとの差がわからないんだ。

 セイラ・ランダよりもセイル・ランダが大きく先に行っちゃったら、

 セイラ・ランダは男の子になっちゃう…」


私、本気で怖くなっちゃっって身震いしたの…


「…あはは…

 それほど大きくなっていませんよ!

 じゃ、今からはボクの修行でっ!!」


やっぱり、ボクが主導権を握るとすごくうれしくなってしまうんだ。


こういうボクを、セイラが越えなくちゃいけない。


きっと大変だけど、やり遂げてもらいたいってボクは思っているんだ。


「あ、そうそう!

 仙人の技で、一人を二人にするってありましたよね?

 昔話で…」


ボクが言うとエラルレラ師匠がすごくいい笑顔を見せてくれたんだけど、


急に小さな腕をからめて腕組みをして深く考えはじめたんだ。


「…うーん…

 仏セイント様に聞いた方がいいと思う…

 …確かにそれはできるんだ。

 でもね、何かの弊害があるかもしれない。

 そういった杞憂きゆう、不安がないようにしたいから、

 大きな変換技は使わないようにしたいんだよ。

 …でもね、ボクとしては、

 セイル・ランダとセイラ・ランダの二人を弟子にしたい

 ってすごく思っちゃったんだよねっ!」


ボクはエラルレラ師匠にお礼を言った。


またセイント様にお聞きすることができたと思って、


ボクはよろこんだんだ!



みんなで、高い草のある広場に向かった。


もう他の村に住む人たちは草の実を集めるのは終わったようで、


この場所には誰もいなかった。


「さっ!

 術を使って壊れた武器をここに持ってくるからっ!

 そこからが精神的修行だよっ!!」


壊れた武器を見ることが修行…


セイント様が使った術の解析だとボクは思って、


すごくうれしくなったんだ!



草が波を打っている様に見える。


高い草が壊れた武器を次々と運んでくる。


壊れているもの、


壊れていないように見える武器などが、


目の前に山のように積まれた。


「これ、持って帰って、包丁やナイフを作るから。

 鍛冶屋に持って行けばきっと高く売れちゃうよ!

 軍隊はいい金属を使っているからね!」


―― 武器拾いがアルバイト… ――


ボクはそう思って少し笑ってしまった。


でも、それが平和的に使われるのならいい事だって思ったんだ。


「…うーん…

 全部、穴が開いてるね…

 どんな攻撃で、こんなに小さな穴が開くんだろ…」


ボクは銃を手に取った。


壊れているようには見えなかったけど、


引き金がなかった。


その引き金は、普通に折れているように見えたけど、


引き金の側面の小さな穴が折れた原因だと感じた。


「固い金属を貫通させる技…

 しかも、一瞬で何千も…」


ボクが言うとエラルレラ師匠はうなづいてくれた。


「ボクはね、見たんだ。

 仏セイントはね、ひとりじゃなかったんだよ」


ボクはエラルレラ師匠の言葉に驚いた。


「光りが放たれたあとすぐに、

 仏セイントの周りに小さな影がたくさん見えたんだ。

 それはね、子供のようだった。

 仏セイントの武器、もしくは守る者達…」


ボクは見えていなかったので、


エラルレラ師匠の言葉を信じるしかなかった。


「仏セイントに会ったら聞こう。

 …かなり怖いんだけど…」


エラルレラ師匠が自分自身の肩を抱いて少し身震いをした。


「いえ、ボクがちゃんと聞きます!

 叱られてもいいって思っていますからっ!!

 今は、知ることこそ修行。

 セイント様が答えて下さらないのなら、

 その答えを探し出すことが修行っ!!」


ボクが大声で言うとエラルレラ師匠は少し困った顔をした。


「セイル・ランダ…

 君、大きくなり過ぎちゃったよ…

 きっと、セイラ・ランダは今頃は困っていると思う。

 でも、今日はこのままで修行を続けるよっ!」


「はいっ!

 お師匠様っ!!」


ボクたちは武器が壊れた原因などをさらに詳しく調べた。


エラルレラ師匠が出してくれた大きな動物の毛皮に武器を全て包み終わると、


エラルレラ師匠がボクをのぞきこんだ。


「さらにはこの高い草。

 子供達の影が消えたあとすぐに、

 仏セイントの左隣に女の人が現れたんだよ。

 涼やかな顔で、

 レイコ様やエツコ様とは違う種族の方のように思えた。

 その時にね、

 ボクが使う術と同じ様な術を放ってすぐに消えたんだ。

 でも、この術って、異常だよ…

 ボクだったらこの半分…

 ううん、三分の一ほどしか成長させられないもん…」


エラルレラ師匠はまた落ち込んでしまった。


さらに女の人がセイント様のそばにいる。


―― ひょっとして愛人? ――


「違う違うわっ!!

 セイント様はただおひとりだけしか愛していらっしゃらないわっ!!

 …あ、ごめんなさい…」


こういう時はセイラが出てくるんだって思って、


ボクもエラルレラ師匠も少し笑ったんだ。



巨大な丸い毛皮の包みを担いで、まずは村の鍛冶屋に行った。


ここで思わぬ情報収集ができた。


鍛冶屋を営む店主たちは、


武器などの最新情報を知っている人が多い。


この星の真裏での戦争は、銃よりも攻撃力が高い、


『レイザ』という武器も使って戦っているそうだ。


でも、それほどの数はまだ作られていない。


作る事がすごく難しいらしくて、莫大な費用もかかるそうなんだ。


この武器は単発式だけど、貫通力が非常に高い。


敵軍が多ければ多いほど、その威力を発揮するそうなんだ。


「だが、これはすげえな…

 いくらレイザでも、金属にこんなに簡単に穴はあかねえ…

 これやったのって、超最新兵器だと思うぜぇ…

 …まっ!

 まさか、まさがだか例のっ?!!!」


威勢の良かった鍛冶屋の店主は、一気に顔を青ざめさせた。


「うん!

 仏セイントの仕業っ!!」


エラルレラ師匠が明るく言うと、鍛冶屋は震え出して、


「…カ、カネはやるから、それ、もってけえってくれっ!」


とまで言われたけど、おカネは受け取らなかった。



やっぱり…


―― セイント様って恐れられてるんだね… ――


って思って、ちょっとだけ悲しくなった。


ボクは、包んだ壊れた武器をまた担いで、


師匠たちと一緒にメリスンの店に戻った。


「仕方ないね。

 神に売りつけようっ!!」


エラルレラ師匠が明るく言った。


ボクもそれがいいと思って、店のドアを開けた。


「あ、神様がいた」


ボクはメリスンに、壊れた武器を売りつけることにしたんだ。


エラルレラも、カウンターに座って食事をしていたゼン師匠も笑っていた。


「ねえ、神様ぁー…

 高く買ってよぉー…」


ボクがメリスンに言うと、


少しだけ淋しそうな顔をしたけどすぐに大声で笑ってくれた。


「うっ!

 まさかこれって…

 仏セイント様が…」


メリスンはぼう然としていた。


でも思い直したみたいで、急いでコンソールを叩き始めた。


すると神の鉄槌が飛んできた。


つい先日現れた、戦の女神たちの後ろの方にいた、


鍛治の匠で炭の神のゴルドン様だった。


その体は誰よりも大きく、まるで山のようだ。


「まあまあっ!

 うれしいわぁーっ!!」


―― オカマちゃん? ―― ってボクは思っちゃったんだけど、


ゴルドン様は女神だって始めて知った。


「おカネは神通貨で。

 10万ゴルトねっ!!」


『ドスンッ!』と音をたてて、


一万ゴルト硬貨が十枚カウンターの上に置かれた。


カウンターが反り返ったんじゃないかって思って、


首を横に向けて見た。


―― すごい大金… ――


一万ゴルトで、10年間は裕福に豪勢に暮らせるんだ。


それに、戦の女神のゴルトなので、神営通貨商に持って行くと、


その数倍のこの国のゴルトに換金してくれるんだ。


メリスンが一番、ぼう然としていた。



女神ゴルドン様は満面の笑みで、


軽々と毛皮の包みを担いですぐに消えた。


「…情報提供料込み、といったところだろうな…

 メリスン、すぐに神通しんつうに行って両替した方がいいぞ。

 神ゴルトの変動は早いからな。

 両替すると一気に値が下がる」


ゼン師匠がいうと、メリスンは我に返ったようだ。


「…う、うん…

 そうするわ…」


かなり重そうな一万ゴルト硬貨を


十枚持とうとメリスンはがんばったけど無理だったので、


ボクが持っていくことにした。



神営通貨商の両替カウンターに神ゴルト硬貨を持って行くと、


支店長が飛んで来て、ぺこぺこと頭を下げながら、


50万ゴルトを持ってきた。


きっと、もっと高いんじゃないのかなあぁーなどと思ったけど、


これが相場のようだ。


その情報が店内の電光掲示板に流れていたので間違いない。



メリスンが全額貯金したことを確認して、


ボクたちは店に戻った。


「お店、今日からしばらくは安い入場料で食べ放題にした方がいいね。

 神は見ているんだよ、メリスン…

 あ、メリスンも神だったっ!!」


エラルレラが笑いながら言った。


メリスンは苦笑いを浮かべていた。


「仏セイント様に叱られそうなのでそうするわ…

 先払いでもらった方が楽だしっ!

 働かなくてもいいけど、雑貨店は閉められないからね」


メリスンは早速今から始める様で、席に座っているお客さんたちに、


飲み物一杯分の入場料を徴収していた。


飲み放題食べ放題になったのでかなり忙しくなった。


メリスンは近くに住んでいるおばさんたちに声をかけて来てくれとボクに言った。


特に忙しい時はメリスンはいつも声をかけていた。


だからみんなはすぐに快く引き受けてくれる。



メリスンも休憩することになったので、


ボクは肝心要の話しをすることにした。


「メリスン、あのさ…

 狩人から瞑送人にランクアップして欲しいんだけど…」


ボクが言うとメリスンは飲んでいた牛乳を盛大に吹き出して、


拭おうともせずにボクをにらみつけたんだ。


店内のお客さんたちも静まり返っていた。


確かに、ボクの言った事はこれほどの威力はあるって、


わかっていたんだけどね…



「…ゆ、許すはずないじゃない…

 仏セイント様が許可したとしても、

 私は絶対に許さないわっ!!」


―― ああ、やっぱり… ―― って思って、


ボク、すごく落ち込んじゃったんだ…


「あんな恐ろしい場所…

 私…

 必死になって…

 愛の女神様を裏切って…」


メリスンはボクの心が痛むことを次々に言った。


それに、その通りだよって思っちゃったんだ…


「だが言っておくぞ。

 このままだとセイラは男として生きていくことになる。

 メリスンはそれでいいのかもしれないが、

 セイラはどう思うんだろうな?」


ゼン師匠が静かに仰った。


メリスンは今度は自分自身を責め始めた。


エラルレラが、メリスンの頭の上に飛んで手をかざした。


「…エラルレラ様、申し訳ありません…

 あ、いえ、ありがとうございます。

 …修行にはならないかもしれませんが…

 できればお師匠様方がセイルに付き添っていただけると…」


「もちろんそれはそうするよ。

 これは今まで通りだし。

 それに今度は、ボクたちも手を出すからね。

 『ジ・ゴ・ク』は、ボクたちの修行場でもあるんだよ」


メリスンは少し微笑んで、コンソールを操作した。


「免許皆伝証…」


メリスンが涙声で言った。


ボクは二枚ともすぐに外して、メリスンに渡した。


スキャナを通すと、免許皆伝証が赤色に変わった。


「…簡単に…

 すごいのね、セイル…

 一発で承認もらったのって始めて見たわ…

 …でもね、かすり傷も許さないんだからっ!!

 いいわねっ?!!!」


今のメリスンはすごく怖かった。


これがお母さんの…


「うん。

 怪我はしない。

 ように、気をつけるよ…」


「それじゃダメっ!

 許可しませんっ!!」


ボクはすごく困ってしまったんだ…


「絶対に怪我はしないわっ!!

 もし怪我した時は10日間『ジ・ゴ・ク』には行かないっ!

 さらに修行を積んでから再挑戦、それでいいでしょっ?!」


メリスンは私の迫力に驚いたみたい。


お師匠様たちも驚かれていたの。


「…う、うん…

 も、もう、セイラが越えちゃってるんじゃなの?」


「それはないわ。

 私は勢いがあるだけ。

 精神的鍛錬はセイルの方が数段に格上よ。

 それに今はセイルが優しいから返答ができなかっただけよ。

 私とは大違いだわっ!」


私は堂々と言ったわ。


お師匠様たちは笑顔でうなづいてくださったの。


「…いいわ…

 かすり傷程度なら怪我も許すわ…

 ただし顔はダメ。

 これはありえないもの…

 そうでしょ?」


メリスンは穏やかに言って、ふたりのお師匠様を見たの。


「まあな。

 不意打ちを喰らったら、20日間の修行を課す。

 その修行中に、セイラ・ランダがセイル・ランダを越えることを祈ろうか」


ゼン師匠が笑顔で言ってくださったの。


『今は込み入っているようだな』


「いいえっ、大丈夫ですっ!!

 二人に分かれてもいいですかっ??!!」


私はまず聞きたい事を、


念話を下さったセイント様に言っちゃったっ!!


わかっていただけたかしらって、


すごく心配になっちゃったけど…


『結果から言うと、やめておいた方がいい、

 としか、今は言えない。

 今はっきりと答えられない理由があるんだ。

 それはひと言では説明できない。

 少々講義を聞いてもらってセイラに理解してもらう必要がある。

 そうしないとセイラは納得できないはずだからな』


「…はい…

 エラルレラ師匠も大技は慎重に使った方がいいって仰ってくれていたんです。

 やっぱり、二人には分かれない方がいいんですね…」


『基本的にはその通り。

 ひとつのものをふたつに分けて、

 どちらも大きくなるはずがない。

 これは基本的なこの宇宙の概念だ。

 しかしエツコはこの概念を破った。

 だが、そういった優れた者は、

 それほど多くは現れない。

 特にオレたちの立場はシビアだからな。

 これに近い件は全て保留にして欲しい。

 いいな、セイラ』


セイント様の仰る通りだって思ったの…


そして、セイント様の講義を聞くこと…


「…あ、あの…

 講義って…」


『三日後だったら、オレが時間を取れる。

 だが講師がオレ以外ならいつだって構わないぞ。

 今すぐにでもな。

 オレはただのセイラの運び役となるだけだ』


「では、三日後で!」


―― あーんっ!! セイント様にまた会えるのぉ―――っ!! ――


『不合格っ!!

 またな、セイラ』


私、ぼう然としちゃったわ…


セイント様は優しいけどすごく厳しいって、


始めて思い知ったのかも…



お師匠様たちに、今あった念話のお話をすると、


深くうなづいていらしゃったわ…


「講義を受けるだけなら誰がして下さっても同じだということだ。

 今すぐにでも、セイラ・ランダの疑問が解決できたはずだ。

 セイラ・ランダは仏セイント様にこだわり過ぎて、

 とんだ遠回りをすることになった。

 …次って、

 いつ話しかけていただけるのだろうかなぁー…

 きっと、オレたちのような立場の星は五万とあるはずだ。

 数年先…

 かもしれないよなぁー…」


私、思わず大声で泣き出しちゃったのっ!!!!


「ゼンッ!!

 脅かしちゃダメだっ!!

 その通りなんだからっ!!」


―― エラルレラッ! フォローになってないっ!! ――


って、叫びそうになっちゃったけど、その通りだわぁー…


「仏は厳しい…

 このようなことがたくさんあるんだろうな。

 それほどに、オレ達を鍛え上げてくださるはずなんだ。

 精神的、そして肉体的にもな…

 …はいっ!!

 本当に申し訳ございませんでしたっ!!」


…うっ…


ゼン師匠に、念話…


セイント様から…


私、ゼン師匠にすごく申し訳なく思ったの…


すると、セイント様が一瞬現れて、ゼン師匠と一緒に消えたの…


…ああ、私、嫌われちゃったかもぉ―――っ??!!


私、また大声で泣いちゃったのっ!!


今までにないほどにっ!!


~ ~ ~ ~ ~


ボクはゼンをうらやましく思っちゃった…


でも今は、かわいい弟子のために、元気付けようって、


小さな体はやめてゼンと同じような人間の体に変わった。


「セイラ・ランダ。

 今の虚しさ、悲しさ、やるせなさ、悔しさを忘れるな」


セイラ・ランダは、『誰?』っていう顔でボクを見た。


「…あ、あのぉー…」


「オレだよ、エラルレラだよ…

 こういった普通の人間の変身もできるんだよっ!」


「じゃっ!!

 じゃあっ!!

 セイント…」


セイラは満面の笑みをボクに向けた。


どうしようもないなと思って、怒る言葉も出なかった。


「不合格だっ!!

 …全く、まだ懲りてないんだね…

 セイラ・ランダは自分で思っている通り、

 まだまだだよ…」


セイラは、『不合格』症候群に陥った様で、


頭を抱えてかなり落ち込んでいる。


これもいい薬だと思っていると、ゼンと仏セイントが現れた。


「さ、次はエラルレラ様…」


ボクは、仏セイントに拉致されたんだ…


~ ~ ~ ~ ~


「…ああ…

 これって、やっぱり…

 罰…」


私が言うと、ゼン師匠は深くうなづかれたの。


「そして、セイント様への罰でもあるんだ。

 どういう意味なのか、わかるか?」


私は首を横に振ったの…


「セイル・ランダ、答えを」


「はい。

 お師匠様おふたりに同じ講義を。

 さらにはグレドラ君にも講義をしていただけるかと思っています。

 これが、セイント様自らへの罰。

 それだけ、セイント様の時間の束縛を、

 ボクたちがしてしまったということだと思います」


「…セイル・ランダは優秀この上ないな…

 もう、男の子でいいんじゃないのか、セイラ・ランダ…」


「…打ちひしがれていますので、お答えできません…

 本当に劣等生でごめんなさい…」


本当に立ち直れないほど落ち込んじゃったわ…


でも、ここで立ち直らないとっ!!


セイント様にっ!!


…あ、これを治さなきゃイケないんじゃないかって、


すぐに思い直したわ…



すると、エラルレラとセイント様が現れて、


今度はゼン師匠がおっしゃった通り、グレラスが消えたの…


「…はあぁー…

 なんだか、移住したい…」


エラルレラが、すごくうらやましいことを言ったのっ!!


私、猛烈に腹が立ったわっ!!


「グレラスが終わったら、さてどうなるんだろうか…

 セイント様、セイラ・ランダを連れて行ってくださるんだろうかなぁー…

 きっと、意地悪されるんじゃないんだろうかなぁー…」


―― ゼン師匠が一番意地悪だわっ! ――


って思っちゃったわっ! もうっ!!!!



グラレスが帰って来たんだけど、フラフラで床にはいつくばったの…


ひどいことされたんじゃないかって思っちゃったんだけど、


傷はなくて、少し土がついていたの。


「…ドズ星に連れて行かれちゃったんだね…」


エラルレラが何か言ったわっ!!


それ、どこなのっ?!


「さあ、最後だ。

 セイル君、行こうか」


え―――――っ?!!!


「はいっ!

 よろしくお願いしますっ!!」


ボクはセイント様の前に真っ直ぐに立った。


セイント様がボクの肩に触れた瞬間に、


真っ白な空間にいたんだ。


でもそれは一瞬で、目の前に緑が見えた。


見えた途端に、短い草の上に立っていたんだ。


「セイル君、いらっしゃい。

 ここがオレの住む世界で、地球という星だ。

 だがここは地下訓練場。

 あとで地上も案内したいが、

 少々興味が沸き過ぎるのでやめておこう。

 それでいいよね?」


「はいっ!

 ボクは連れて来ていただいただけで十分です!」


ボクは本当にそう思った。


セイント様は笑みをボクに向けてくれたんだ。


「早速だが講義を行おう。

 その前に、食事でもしないか?

 お腹がすいていたらでいいんだけど…」


「はいっ!!

 頂きますっ!!」


「やっぱりね、躊躇ちゅうちょなく答える。

 いい傾向だ。

 これがセイルのいい面だね。

 セイラは少々オレに傾倒し過ぎている。

 平常心を鍛える必要が大いにある。

 そうしないと、大怪我の原因にもつながるだろう。

 最悪の場合は、セイルが助ける必要もあるだろうね」


セイント様は優しい笑みを向けてボクに言ってくれている。


「…はい…

 きっとこの先、あると思います…

 ボクはステップアップすることに決めましたから…」


ボクは決意の目をセイント様に向けた。


「その件はゼン師匠と話したが、オレの意見と一致していた。

 帰ったら師匠たちの話しを聞いて欲しい。

 …さあ、食事にしようかっ!!」


なんだか、すごいご馳走が目の前に並んでいたんだ。


全部見たことのない料理だった。


メリスンに食べさせた上げたいと思っちゃったんだ。


「ああ、メルスンさんにも後できてもらうから。

 心配しなくてもいいぞ」


ボクはセイント様にお礼を言って、おいしい料理に舌鼓を打ったんだ。



そこからはもう目の回るような忙しさで、


うらやましいとか遊びたいとかそんなことは考えられなかったんだ…


「さて、ひと通りの説明は終わった。

 ひとりがふたりになってはいけない。

 ハイリスクが待ち構えていることは理解できたと思う。

 どうかな?」


「はい、それは十分に。

 しかも、記憶まで戻らなくなるって…

 そして潜在能力の低下…

 ふたりになっても、いい事はほとんどありません…」


「その通り。

 そして、元に戻る方法があっても、人道的な理由で元に戻せない。

 強引にしてしまうと、みんなの信頼が薄れてしまうし、

 何よりも悲しませてしまうからね」


ボクはこの件は十分に理解できたと思った。


やっぱり、ふたりになることは諦めるべきだと思ったんだ。


「だが、オレは提案する。

 セイラとセイル、

 ふたりでひとりとして生きて行ってもらおうと思っているんだよ」


ボクは声がでそうだったけど出せなかったんだ。


きっと、セイント様には素晴らしい考えがあるんだって信じていたんだ。


「この映像はまだ見せていなかったとっておきだ。

 オレの娘カノンの前世の映像だ。

 オレはカノンと戦って、親になる権利を得たんだよっ!!」


セイント様は大声で笑った。


カノンちゃんの能力的なものだろうと察しは付いたんだ。


映像を見るとやっぱりその通りで、


天使と悪魔、二人に別れてセイント様に攻撃を始めたんだ。


でもセイント様は弱点をすぐに見つけて、カノンちゃんは逃げた。


でもセイント様が、「オレの負けだな」と言ったんだ。


カノンちゃんは逃げたから勝負では負け。


でも、セイント様はカノンちゃんを逃がしてしまったので、


別の意味での勝負では負け。


すごい戦いだったんだなーって、ボクは感心してしまったんだ。


そして、勝てない相手ならどんな手を使っても逃げる。


逃げるために全ての体力全ての精神力を使い切る事が、


ボクたち戦う者たちの使命だと感じたんだ。


「どうやら予想はしていたようだね。

 だが、カノンと同じ方法ではなく、魂もふたつに分けてもらう。

 そして、修行と実戦以外で二人に分かれることは禁ずる。

 こういうルールでなら、ふたりが共存できると思ったんだよ」


ボクはぼう然とした。


ボクも、この先の人生を…


「だが、常に言っているが、君の肉体は女の子だ。

 よって、セイルは表世界に出てはいけない。

 さらにはセイルは女性を好きになってはいけない。

 もちろん、男性もだぞ。

 それが悲劇を生むことになる。

 セイルはセイラと身体の取り合いをすることになるだろうからな。

 そして回りも放ってはおかない。

 …そうならない覚悟ができたのなら、エラルレラ様に申し出ろ。

 辛いのはセイルだけではない。

 セイルが辛いとセイラも辛くなる。

 よーく、考えてみて、結論を出せ」


ボクは体が硬直した。


精神的プレッシャーがボクを襲ってきたんだ。


「今はそれでいい。

 だが明後日からは、いつものセイル、セイラに戻った方がいいぞ。

 …もうひとつ修行をしてもらう。

 セイルはノーリスクで空を飛べる。

 これは、気孔術という術で、

 マスタークラスの者だけができる奥義のようなものなんだよ」


ボクはきっと、ぽかーんと口をあけていたことだろう。


「信じられないのも無理はない。

 だがこれは仕組まれたものだ。

 ルオウがセイラを生む際、

 気孔術マスターになれるように願いを込めていたんだよ。

 神だからこそできる子の生み方だな」


ボクが空を飛べる理由を始めて知った。


仏ルオウ様が、決めて下さったこと…


「よって、それ以外は何の能力もない。

 普通の人間とほとんど変わらない。

 神の願いが全て叶うとは限らないからな」


「あははは…

 もしそうだったらきっと、

 独裁者になってしまいそうで怖いです…」


ボクが言うと、セイント様は笑顔でボクを見てくれた。


「では確認だ。

 目を閉じてくれ」


ボクは椅子に座り直して眼を閉じた。


「ではオレの魂、

 生きている証拠のようなものを感知してくれ」


ボクは今右隣にいるセイント様を意識した。


すると、ボヤーッと何かが浮きでてきたんだ。


そして、色々な場所で同じ様に丸いものが浮かんできた。


「たくさん、白い丸いものが…」


「その中に、オレのものだとわかるものがあるか?」


ボクはひとつずつ探ろうと思ったんだけど、


ひとつだけ色が違うものがある。


薄い緑色がかった丸い球だ。


でもこれがセイント様なのだろうかと思ったら、さらに濃い緑色に変わった。


「あー、はい。

 きっとこれだと。

 緑が濃くなりました」


「その丸いものに飛び込んでみろ。

 意識を集中させ、水に飛び込む感じでいい。

 さらに言えば、セイルがここに来た時の感覚…」


ボクは思い出した。


そして、緑の球に飛び込んだ。


「やあ、おめでとう。

 これで、セイルはひとりでここに飛んでこられるな」


「…ああ、これが…

 精神間転送…

 ボクにもできたんだ…」


ボクに言いようのない喜びが沸いた。


セイント様は、さっきいた場所とは違う場所に移動していて、


この地下訓練場の宿舎の前に立っておられたんだ。


「では今度は、ゼン師匠を思い浮かべてくれ。

 今は目をつぶった方がわかりやすいと思うぞ」


ボクは目をつぶって、ゼン師匠を思い浮かべた。


またたくさんの球が現れた。


かなり遠くの方に緑の丸いものが見えたので、それに飛び込んだ。



目を開けると、驚いた顔のグレラスがいた。


振り返ると、ゼン師匠もグレラスと同じ顔をしていた。


「…あはは、帰って来られました!

 あ、セイント様にお別れのあいさつ、してきますっ!!」


ボクはセイント様の魂に飛び込んで、


お礼を言ってからまたゼン師匠の魂に飛び込んだ。



みんなはまだ同じ顔をしていた。


「これって、精神間転送っていうらしいんです。

 仏ルオウ様がボクを生む時に授けてくれた様で、

 空を飛べるのも、この能力を使っているそうなんです」


ボクが言うと、ゼン師匠は驚きの顔から笑顔になった。


「そうか、それは何よりだな。

 ほかにもまだできるはずだ。

 体を大きくしたり、動きを早くしたり。

 それが気孔術というヤツらしい。

 …術のキャンセルもできるそうだが、気をつけてやってみろ。

 あまり大きくなり過ぎると、服が破れるからな」


ボクは少し笑って、30マルリ背が高くなるように考えた。


すると、みるみるうちに背が伸びた。


ボクよりも背の高いグレラスの頭のつむじが見えていた。


「あー、驚きました…

 これ、すごいですっ!!」


ボクは元の身長に戻した。


「この気孔術は日々修練の賜物で維持できるそうだ。

 よって、空を飛ぶことを認める。

 この気孔術もさらに磨きをかけ、

 もっともっと大きくなって欲しいものだな」


「はいっ!!

 ゼン師匠っ!!」


ボクはうれしくて、天井に届くほど大きくなれと念じた。


すると、服が破れてしまって、裸同然になっちゃったっ!


「うおぁ―――っ!!

 いーてててててっ!!

 フェイラァ―――ッ!!

 やめろぉ―――っ!!」


ゼン師匠が股を押さえて叫んだんだ。


一体どうしたんだろうと思って、ボクは体を元の大きさに戻した。


「セイルッ!!

 服を着替えてこぉーいっ!!」


ゼン師匠が叫んだ。


ボクは急いで二階に上がって、服を着替えたんだ。


店に下りてきたボクをみんなが見て呆然としていたんだ。


「セイルって、本当に女の子だったんだね…

 証拠を見せてもらって納得したよ…」


エラルレラがかなり感慨深く言った。


グレラスはボクに背中を向けたままだった。


「グレラス、変なもの見せてゴメンね」


グレラスは少し怒った顔をして振り返った。


「変なものではないっ!!

 み、みみ、魅力的だった…

 い、今まで全くわからなかったが、

 お…

 おまえ、大人に近い体だったんだな…」


グレラスは真っ赤になってボクに言った。


胸…


と考えたら、ボクの拳が、グレラスを殴っていた。


「この、ドスケベッ!!

 龍硬貨で10万っ!!」


私、ついつい言っちゃったわ。


私のせいなのに…


「…あ、ああ、払うよ…」


「ウソっ!

 ウソよっ!

 …でもね、ありがと…」


あー…


なんだろ…


私、グレラスを意識しちゃてる?


―― 気のせい気のせいっ! ―― と思って、


騒がせちゃったことをみんなに謝ったの。


「今のような自由時間はずっとセイラでいること。

 二人に分けようが分けまいが、これは変わらないことだ。

 日常生活の中でも修行になることは多いからな」


ゼン師匠はまだ股を押さえていたの…


一体…


あっ!!!!


ああっ!!!!


「…ゼン師匠…

 まさか…」


ゼン師匠はそっぽを向いて、


「…ここはまだ、取り返していないんだよ…」と、小さな声で言ったの…


私、きっと、真っ赤になっていると思うわっ!!


「…龍硬貨で、取り返せるかしら…」


私が言うと、「ああ、たぶんな」と、グレラスが言ってくれたの。


「きっと、一万一枚で簡単に返してもらえると思うぞ。

 転送してみようか?」


―― グレラス、太っ腹だわっ!! ―― って思っちゃったの。


神通貨もそうだけど、


龍硬貨を創っちゃうとその分身体が小さくなるって聞いていたの。


だから威厳が落ちちゃう事もあるって、ゼン師匠に聞いていたの。


「あ、もういい…

 戻って来た…

 ふう…

 やれやれだ…」


私、師匠の股の間を想像しちゃってさらに赤面しちゃったかもっ??!!


グレラスはおもむろに一万龍硬貨を私に渡してくれたの。


「持っておいてくれ。

 女神のヤツがくれと言うかもしれんからな」


「うんっ!

 ありがとっ!!」


私はグレラスから遠慮なく龍硬貨をもらったの。


受け取ったけど、すごく重かったわ…


神の硬貨よりもきっと値打ちがあるって思ったわ。


「ちなみにそれって、免許皆伝証と同じ効果があるぞ。

 胸に装着してみろ」


私は胸に張ってあった免許皆伝証を外して、


龍硬貨を、―― ぴったんこっ! ―― と念じて貼ったの。


すると、炎を纏った鎧が浮き出てきたの…


これには驚いちゃったわ…


「…なんだか、すごく強くなったような…

 重さは全然感じないし…

 でも、お店、燃えないかしら…」


私が言うと、みんなが笑ったけど、


メリスンは気が気じゃなかったみたい…


「大丈夫だ。

 平常心ならば何も起こらない。

 だが、心が乱れると火がつくかもな。

 これも修行にした方がいいと思うぞ」


グレラスが笑顔で言ってくれたの。


私、きっと、さらに強くなれるって思っちゃったわ!


でも、平常心!


きっと、セイルも応援してくれると思うの。


… … … … …


翌日の朝、グレラスが私に話しがあるって…


妙に思い込んだような、申し訳なさそうな顔をしていたの。


でも、それほど話しづらいわけではない様で、


ふたりしてカウンター席に座ったの。


「これ、神たちが造ってくれたんだ」


金の鱗製の髪飾りやブローチが、金色の布の上に置かれていたの。


私、すごいっ! って大感激したのっ!!


「服や髪につけて普通にアクセサリーとしても使えるし、

 『装着』と叫べば鎧として機能するから。

 これでやっとセンタルアを守れる」


一度聞いて、一度書いた名前が私の記憶を呼び覚ました。


―― やっぱりそうだった… ――


って思っちゃったの…


「私の魂を創ってくれたのが、グレラス、なの?」


私は言いながら涙を流していたの。


どうして涙が出ているのかわからなかった…


「やっと見つけたんだよ。

 いや、何度も見つけていた。

 だけどその時はもう、

 魂はなく、その抜け殻だけが大地に横たわっていた…

 きっと、その時のオレは

 メリスンと同じ気持ちだったと思うよ…」


そうだ。


グレラスにメリスンと同じ感情を感じたんだって、


やっと気づいたの…


「…それで、あの猿芝居っ?!」


私は泣きながら笑顔で言ったの。


声が少し裏返っちゃった。


「…まあな…

 わかりやすい、よな?」


「当然っ!!

 疑わない方がおかしいわよ…

 あんなトゲみたいな槍であんなに暴れて…

 しかももう血が止まってたじゃない…」


「山に呼び出す理由を考えていたら、

 時間が経ち過ぎていたんだよ…

 あっ!

 だましたことは謝るっ!」


グレラスは男らしく言ってくれたの。


「ううん、いいの…

 もう、金の鱗って、生えてこないんだよねぇー…

 よかったぁー…」


「たぶんな。

 16代目でやっと想いが届いた。

 胸の支えが降りた気分だ。

 だから、さらに正直に言おう。

 センタルアの肉体は確かにオレが創った。

 魂もそうだと思っていた。

 だが、違ったんだよ」


この答えは私にはわからない。


「青空様、すごくかわいいよな。

 それに、お名前通りで本当に清々しい方だ。

 さらにいえば本当に不思議な方だ。

 何もかも見透かされているような…」


グレラスの言う通りだと感じたの。


すごく不思議だけど、本当にかわいい子…


「青空様の魂は、

 仏セイント様が彫られた木像から沸いて出たものだとお聞きした。

 仏セイント様の想いが、魂となってこの世に現れたそうなんだ。

 青空様の魂にその情報があって、

 『木像番号 51』と記されているそうだ」


セイント様の彫られた仏像から生まれた初心な魂…


私、青空ちゃんのこと、すごくうらやましく思っちゃったの…


「センタルアは『木像番号 8』だと聞いた。

 いい番号じゃないか、センタルア」


私、グレラスの言葉を聞いて、


何も考えられなくなっちゃったの…


「仏セイント様が、『オレのことは父ちゃんと呼んでくれ!』と、

 笑って仰っていたぞ」


父ちゃん…


お母さんもいるし…


私…


小さくて大きな家族ができたって思った瞬間、


うれしくて涙が止まらなくなっちゃった…





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超めんどくさがりのお師匠様 木下源影 @chikun0027

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