第3話 エラルレラ
狩人依頼書の新規追加分がずいぶんと減ってきたので、
今日はエラルレラと一緒にエラルレラ山にやって来た。
エラルレラが修行をつけてくれるって言ってくれたので、
ボクは喜び勇んでここまで走ってきたんだ!
名前を取り戻したゼン師匠は、
超めんどくさいと言いながら、
ほとんど毎日神殿に足を運んでいる。
でも、一番気になるのは、メリスンだ。
ずっと沈んでいて、ボクはどうしたらいいのかわからない。
エラルレラは戦の女神が最善を尽くしてくれているって言ってくれて、
ボクを励ましてくれる。
だからボクは、エラルレラを信用することにして、
できるだけ気にしないようにしたんだ。
ボクの目の前には絶壁がある。
この前来た時と何も変わっていないんだけど、
―― 妙に四角いな… ―― と、今になって気づいた。
「さて!
実際にここを昇ってもらうんだけど、
その前に少し話をしよう!」
エラルレラ師匠は石で椅子を造ってくれてボクに勧めてくれた。
ボクは少しだけ頭を下げて、椅子に座った。
「今までのことで、
納得いかないことや
疑問に思っていることがたくさんあると思うんだ。
でもね、これは全て、仏ルオウの導きなんだよ」
エラルレラ師匠はボクに笑みを向けてくれた。
「では一体、どういった導きがあったのか。
まず仏ルオウは、神を見張れと言ったんだよ」
ボクは驚いてしまって呼吸が止まった。
「それを実際に実行していたのが、ゼンなんだよ」
「…ああ…
頭や名前って…」
エラルレラ師匠は笑顔でうなづいてくれた。
「だけどね、フェイラもこれは知っていた。
フェイラも仲間の神たちを疑っていたからね。
だから、フェイラを正当化することを最優先して、
この前の真実の鎧の登場になったわけなんだ。
2000年もかけちゃったけど、
長ければ長いほどいいって仏ルオウは言ったんだ。
セイル・ランダがゼンの目の前に現れたのが、
いい切欠だったんだよ」
ボクの頭の中がかなり整理されてきた。
「そしてその切欠は必然だった。
セイル・ランダの母であり姉であるのメリスンは、
使いたくない手だったけど、
八勇巌を使うことに決めたんだ。
メリスンにとっては愛の女神に対する裏切り行為にも値するけど、
もう34回も失敗していたからね、
すごく辛かったんだと思うよ…」
ボクの死を34回もメリスンは見ていた。
きっと、身を引き裂かれる思いがずっとあったんだと思う。
「フェイラに聞くと、この件は愛の女神は責めなかったそうなんだ。
それでこそ愛の女神の僕と言ってほめたんだって。
そして今回の件で、愛の女神は戦の女神の傘下についたんだ」
「…えっ…
ああ、それって…」
「そう、金の火龍の鱗。
今の取り巻きの神もそうだけど、愛の女神にも鱗を持たせた。
忠誠心は真実だと認められたんだ。
だからメリスンも、すぐにでも元気になると思うんだ。
だから安心していいよ、セイル・ランダ」
「…はい…
…はい…」
私は涙があふれて止まらなくなったの…
「いいねその切り替え、セイラ・ランダ」
エラルレラ師匠は、さらに笑みを深めてくれたの。
「さてここからは別の話しだよ。
…戦争が終わったら、平和になるんだろうか?」
―― そんなの、当たり前でしょ! ―― って、
言いそうになっちゃった…
「…いいえ、それはないって思い直しました…」
「セイル・ランダ、セイラ・ランダに変わってっ!!」
エラルレラ師匠は始めてボクに厳しい眼を向けた。
「…ごめんなさい…
わからなくなって逃げてしまいました…」
「でもちゃんと出てきたね。
そしてセイル・ランダの考えも理解できたはずだ」
「はい。
戦争が終わっても、
デラログのような者達がたくさん現れます」
エラルレラ師匠は笑顔でうなづいてくれたの。
「そう、正解だ。
その方がさらにめんどくさい…
大きい争いの方が止めやすいからね。
きっとね、仏セイントは一日でこの星の戦争を全部止められるよ」
信じられない言葉がエラルレラ師匠から飛び出してきたの。
でも、できるのかもしれないって、
あの大きなセイント様を思い出して微笑んだの…
「はい!
きっと、セイント様でしたらできますっ!!」
エラルレラ師匠はすごく落ち込んじゃったの…
感情を込め過ぎたって、すごく反省したの…
「…いいんだ…
八勇巌と言っても万能じゃないからね…
…この星中の争いを止めようと思ったら、
ボクたちだと最短でも半年はかかるから。
でもね、半年もするとね、
始めに止めたところがまた戦争を始めるんだよ。
お金のある国は、それを何度も繰り返すだろうね。
八勇巌の方が先に倒れちゃうと思うんだよねぇー…
…でもね、仏セイントや仏ルオウでもすぐには変えられないことがある。
それってなんだと思う?」
私はすごく考えたの。
エラルレラ師匠はずっと笑顔で見てくださっていたの。
「…人の争う心…」
エラルレラ師匠は笑顔でうなづいてくれたの。
「そうだね。
きっと、仏でもこれだけはすぐに変えることって無理なんだと思う。
その理由は簡単で、救世主として仏セイントが現れた星は、
仏セイントは戦ったいたという事実があったからなんだ。
もし、人々を戦わないっていう心に変えたのなら、
仏セイントは戦わずに争いを収めたと思うんだよ。
だから仏セイントでも、
人の心は簡単に変えられないって思ったんだ」
「はいっ!
私もそう思いましたっ!!
…エラルレラ師匠っ!!
私、すっごくうれしいですっ!!
エラルレラ師匠も、仏様のようだと思いましたっ!!」
エラルレラ師匠は少し苦笑いを浮かべられたの。
「ボクは仏ルオウの発言や行動を考え直しただけだよ。
きっと仏ルオウに会っていなければ、
こんな考えは沸かなかったと思う。
でもね、沸いた以上、まずは戦争を止めて、人の心を変える。
そういった修行をして行くから、すごく厳しくなると思うよ。
八勇巌の巌は、自分に厳しいという巌なんだよ」
私は八勇巌の意味を始めて知って、すごくうれしかったわ!
エラルレラ師匠は、勢いよく立ち上がったの。
私もすぐに椅子から立ち上がったわ。
「さあ、精神的修行は終わりだよ!
次はこの壁を登ってもらうから!
といっても、道具なしでは登れない。
でもね、道具はいらないんだ」
エラルレラ師匠が言うと、つるっつるの壁面に、
岩が隆起して棒が生えてきたの。
私、すごく驚いてしまって、両手のひらで口を押さえたの。
「…まさか、この絶壁も…」
「うん、ボクだよっ!!」
―― やっぱり… ―― って、すぐに理解できたわ…
「ボクはね、森羅万象、生を持たないものに憑依できる能力だけを鍛えて、
その礎に自分自身の人間の体を使ったんだ!
だから横に一直線につながれば、この星を一周できるんだよ!
その場所全てを、見る事ができるんだ!」
「…はあー…
すっごーい…
すごいですっ!
お師匠様っ!!」
私は思わず、エラルレラ師匠に抱きついちゃったの!
「あはは…
ありがと…
これって一般的に、ゴレルムっていう術なんだ!
ボクが得意なのは、岩、石、砂、草、そして木だ。
草と木は、生物なんだけどね。
魂のない草と木は操れるんだよ」
私、頭の中にクエスチョンマークが浮かんだわ…
草や木って、魂を持っているものがあるんだって、
始めて知ったの…
「成長するものはほぼ魂を持っているけど、
草と木も同様で、持っている個体もあるんだよ。
ボクはそういった草や木と話しもできるよっ!」
エラルレラ師匠は本当にすごいって、
私、弟子入りできて本当に良かったって、さらに思い直したの。
「さあ!
自慢話はこれくらいにして、
この壁を踏破しよう!
あ、言っとくけどこれって難易度最低だから。
最高レベルは、一番下の出っ張りの部分のように、
ほとんどつかめないやつだから」
私はエラルレラ師匠が仰ったところを見たの。
触ってみたけど、ほんの少し出っ張っているだけで、
ぶら下がるのは無理だって思ったわ…
「だけど、日々訓練。
やっている内にコツをつかめると思うから、
今はこれをクリアしよう!」
私は気合を込めて、「はいっ! お師匠様っ!!」と叫んだわっ!!
… … … … …
張り切り過ぎて、三回も上り下りしたわ…
でも、エラルレラ師匠は満面の笑みで私をほめてくださったのっ!
だけど、今からはお友達のエラルレラ。
そうして欲しいって言われちゃったから守ることに決めたの。
お店に帰って、メリスンの表情を見ると、自然な笑顔に戻っていたのっ!
きっと、ゼン師匠がうまくやってくれたんだわって思って
うれしくなっちゃったっ!
汚れた体を洗おうと思ってお風呂に行ったの。
大きな温泉でゆっくりしたいなぁー、って思ってお風呂場に行くと、
ゼン師匠がお風呂場から出てきたの。
「おおっ!
相当厳しく鍛えられたようだな。
だがこれくらいが丁度いい。
ゆっくり風呂に浸かって寝れば、
明日はさらにがんばれる!」
「はい、お師匠様っ!!」
おふたりとも本当にお優しいお師匠様で、とってもいい気分っ!!
ゆっくりとお風呂に浸かって、さっぱりしてからお店に出たの。
すると、なんだか険悪な空気が流れていたの…
お師匠様が、赤い髪、赤い瞳の私よりも少しお兄さんの人とにらみ合っていたの。
一体誰だろうって、すごく気になったの。
そしてデッダが、頭を抱えて床に寝そべっていたの。
すごく怖い人なんだって、すぐにわかったわ。
「デッダ、おいでっ!」
デッダがすぐに起き上がって、私に抱きついてきたの。
少しは落ち着いた様で、頭を抱えることはなくなったわ。
「セイラ・ランダを嫁にする。
いいなっ!」
私に向いて赤い髪がいきなり言ったの。
すっごく傲慢っ!!
男の子は、私をにらみつけていたわ。
―― でも、どこかで会ったような… ――
「火龍、サーグレラス・ドラガン16世だ」
ゼン師匠が苦笑いを浮かべて教えてくださったわ。
私、それほど驚かなかったの。
「火龍様、金の鱗、ありがとうございました。
ですが、私には好きな人がいますのでお断りしますっ!!」
私ははっきりと言ったの!
「誰だそいつは…
業火に巻いて灰にしてやろう…」
「そんな乱暴な人と結婚しませんっ!!
お断りだわっ!!」
「なんだとぉー、人間ごときがぁー…
オレが求婚したんだ、素直に嫁になれっ!!」
この人ダメだぁーって思って、私は無視することにしたわ。
「メリスン、ご飯っ!
もうおなかペッコペコッ!!」
私はいつも座るカウンター席に座ったの。
火龍の化身の男の子は私をにらんでいるようだけど無視したの。
「…おまえ…
こっちを向けぇー…」
「イヤよ、気味が悪い…
さっさと出て行ってくれないかなぁー…
寒気がするし、鳥肌が立っちゃったわっ!!」
私は火龍の化身を見ないで言ったの。
すると、静かになったの。
エラルレラがいなかったの。
私、振りかえったの。
すると、エラルレラ師匠が火龍の化身の口を押さえ込んでいたの。
私、驚いちゃったわっ!!
お師匠様、すごいってっ!!
「セイラ・ランダは気にしなくていい。
ここからはオレ達師匠の出番だ。
この火龍、動けないようにドラゴンスレイヤーで串刺しにしてやるっ!!」
ゼン師匠が言ってくれたの。
この話しも知っていた。
悪い龍を退治するお話…
でも、火龍は神様だって…
火龍の化身は汗を一杯かいていたわ。
どうやら、ドラゴンスレイヤーにはかなわないみたい…
火龍の化身は落ち着いた様で、
エラルレラは私の肩に戻ってきたの。
「…だったら…
オレはどうなれば、おまえに気に入られるのだ?」
火龍の化身はすごく落ち着いていたので驚いちゃった。
ゼン師匠をチラチラと見ているの…
本当にドラゴンスレイヤーが怖いんだってよーくわかったの。
「この星の戦争を止めること。
一日でよっ!!」
私が言うと、お店に入るみんなが驚きの声を上げたわ。
「よーし、いいだろう…
戦場は…」
「ただしっ!!
人間を殺しても傷つけてもダメ!
そんなの、戦争と同じだもん。
武器だけを全部壊して、
村や町を守ってっ!
…仏セイント様だったら簡単にできるもんっ!!」
火龍の化身は私を鼻で笑ったの。
「そんなもの、神であるオレが無理なことだ。
セイントなどという輩ができるわけなかろうが…」
「できるわっ!!
きっとね、私に会いに来てくれるもんっ!!
その時にあなた、頭を上げられなくなっちゃうわっ!!
これは予言でもなんでもない、確定した未来よっ!!」
私は少し大げさに、火龍の化身に指を差していったわ。
すっごく気持ちいい…
スッキリしちゃったっ!!
火龍の化身は、ワナワナと震えていたの。
「本当に来るかもな。
神殿がサイバー攻撃を受けて、
この星の情報全てを仏セイントに知られた。
それに、気配がする…
オレ達は見られている…」
ゼン師匠が言ったの。
私、お店中を見たわ!
『セイラ・ランダ!
会いに行くからなっ!!』
私、驚いちゃって外に飛び出したの!
でも、誰もいなかった…
お店に戻って今あったことをみんなに言ったわ。
「きっと、近いうちに来てくれるの!
仏セイント様…」
私は有頂天になって、誰の声も聞こえなくなったわっ!
… … … … …
「…も、もう、来て下さったのですかぁー…」
夕方になって、仏セイント様がお付きの方々といらしたの。
私、すっごく驚いちゃったの…
私の身体の中から出てきたみたいだった…
「…こいつが生意気な龍か…
オレが退治していいか、覇王…」
すごく綺麗な人が二人いて、少し痩せている人が言ったの。
このおふたりって、顔がそっくりだったの…
「殺さなければいいぞ。
しかし、わからせた方がいいって、
ルオウが言ってただろ…」
私、まだ何にも考えられなかったわ…
「セイント様っ!!」
私、とりあえず抱き着いちゃおうって思って、
チカラ一杯しがみついたのっ!!
ああ、このヒトだぁー…
夢の中の人…
「そいつから離れろっ!
セイラ・ランダッ!!
うっ!!」
火龍の化身が何か言ったけど気にもならなかったわっ!!
「傲慢…
毒でしかない。
そして高慢も同じ。
あなた方の担当の神にも言えることです。
…しかしあなた方は勤勉だ。
めんどくさいと言いながら、己自身を常に磨いている。
あなた方は尊敬に値します」
セイント様が何か仰ってるけど、落ち着いた方がいい?
私はゆっくりと、セイント様から離れたの…
すると、同じ顔をしたおふたりに、
イヤと言うほどにらまれちゃったの…
―― まさか、セイント様の… ――
「なるほどね。
セイラとは少しじっくりと話しをした方がよさそうだ」
私は我に返ったわ。
火龍の化身は、透明な檻に閉じ込められていたの。
中から叩いたり、龍に変身したりしているけど、
檻はびくともしていなかったの。
ゼン師匠もエラルレラもぼう然としてその様子を見ているだけだったの。
「お姉ちゃん、すごいねっ!!」
小さな女の子が、私の手を握ってきたの。
すごくかわいらしい笑顔がステキだった。
「オレの子で青空という。
仲良くしてやってくれ。
こっちもオレの子でカノン。
実年齢は違うが
年の頃ならセイラと同じほどだろうな。
…セイラがなろうとしている勇者にすでになっている子だ」
私、驚いちゃって何も言えなかったの。
カノンちゃんって、すごくかわいい…
それに、もう勇者って…
「あっ!
私って生まれつきの勇者だから!
がんばってなったわけじゃないから、
気にしないでねっ!!」
全然エラそうに言わない…
私だったら踏ん反り返っちゃうかも…
「生を受けたカノンは確かにがんばって勇者になったわけではない。
しかし、前世で大いにがんばって、誰よりも強くなったんだよ。
そのご褒美に、伝説の勇者という称号をもらって今世に生まれ出たんだ。
その映像もあるが、まずはこの火龍を戒める!」
セイント様の声は厳しいものだったけど、
きっと叱るんだと思ったの。
セイント様は、火龍の化身の結界を転がして外に出たの。
私、少し笑っちゃった。
でもすぐに思い直して、急いでセイント様の後を追いかけたの。
「セイラ、広い空き地って近くにないか?
この火龍が実体になっても問題ないほど広い場所だ」
「はい、でしたら…
あ、ご案内しますっ!!」
私が宙に浮くと、セイント様は微笑んでくださったの。
そして手も触れずに、丸い結界を持ち上げられたの。
「オレは仏だが、勇者でもある。
そしてセイラと同じ様に、疲れずに飛ぶ事もできるぞ」
セイント様は全てお見通しだった。
私はセイント様の手を引いて、昔戦場だった場所にご案内したの。
―― えーっ! そんなぁー… ――
また、戦場になっていたわ…
すごいショックだったし、
ここだと村まで戦争に巻き込まれちゃう…
「なるほどな。
こういった戦いが至るところであるわけだな。
村に近いから、戦いを止めるか。
悦子と麗子は手を出さなくていい。
オレひとりで十分だ」
まさか、セイント様の戦いを拝見できるなんて夢にも思わなかったの!
でも、それは一瞬で終わっていたわ…
瞬きする間もなく、両軍とも自軍陣地に戻って行ったの…
剣や槍、弓や銃を持っていたはずだけど、
手には何も持っていなかったの。
地面を見ると、武器が全部壊れていて落ちていたわ。
「セイント様だったら、
一日でこの星の戦いを全部終らせちゃいます!」
「ああ、できるぞ。
だがやらない。
その理由はセイラにあるからだ」
私、すっごく考えたの…
あ、でも…
「まさかそれって私が、普通に女の子になれるための…」
セイント様はさらに笑みを深めてくださったの。
「そうだ。
オレが全部片付けたら、セイラの成長がない。
よって、セイルがセイラの体を使うことになる。
体は女の子なのに心は男の子。
これではすごく困ったことになるからな。
じっくりと時間をかけて、セイラが大きく成長するように、
セイラの仕事を残しおくことにした。
それでいいよな?」
「はいっ!
セイント様っ!!」
私、また抱きついちゃったっ!!
キャーッ!!
すっごくうれし―――っ!!!!
でもね、麗子さんと悦子さんがとっても怖い顔でにらんでいたので、
すぐに離れたわ…
この方たちって…
「このふたりの説明はあとだ。
まずはこの龍を解放する。
みんな離れていてくれ」
セイント様の仰る通りに、すっごく離れたわ…
でもまだのようで、さらに離れたの。
するとセイント様、とんでもなく大きくなられたのっ!!
その体は白く輝いていたわ。
火龍は元の体に戻って大きくなっていたけど、
簡単にセイント様の手のひらの中でおとなしくなったの…
「もう大丈夫だ。
この火龍、なさけないな…
もう少し根性があると思ったが…」
セイント様、かなりあきれて、それよりも残念がっておられたの…
私たちは飛んで、すぐに近づいたの。
火龍は人型を取らずに、お昼にデッダがしていたように、
地面にうずくまって頭を抱えていたの。
きっともう、傲慢なことは言わないだろうって思ったわ。
セイント様は元のお姿に戻られたの。
「さて、オレの仕事は終わった。
…こっちがが麗子。
オレの幼なじみで元オレの妻。
…こっちは悦子。
今のオレの妻だ」
私、かなりショックだったわ…
抱き付いてにらまれたのって、嫉妬だったんだって思って、
いまさらだけど、怖くなっちゃった…
すると、神の鉄槌が飛んで来て、大勢の神が姿を現されたの。
その先頭には、戦の女神様がおられたわ。
そしてセイント様にすぐにひざまずかれたけど、
跳ね起きるように立たれていたの。
一体何があったのか、私にはわからなかったの…
「仏に神がひざまずいてはいけない。
だがひとつだけ言っておこうか。
…おまえら、さらに精進しろ…」
セイント様を始めて怖いって思った一瞬だった。
ほとんどの神様が、フラフラと倒れられたの。
でも、戦の女神様は何とか立ち上がられたわ。
「仏セイント様…
どうか、どうかお留まりを…
そして、わたしを妻にしてくださいませっ!!」
あー…
言ってはいけないことを仰ったわっ!
もうすでに、戦の女神様の目の前で、
麗子様と悦子様がかなりのにらみを効かせていたの…
「ふたりとも、適当に本来の大きさを見せてやれ。
すぐに納得するからな」
えーっ!!
まさか…
おふたりはすっごく大きくなられたわ…
これほどでないと、セイント様のお嫁さんにはなれないんだって、
よーくわかったの…
戦の女神様は、火龍のように地面に倒れてうずくまっていたの…
「これで終了かな?
セイラ、また来るからな。
機会があれば、オレにも修行をつけさせて欲しい。
それに、おまえの父もオレの暮らしている星にいる。
今日は恥ずかしいからと言ったので無理には連れてこなかった。
大昔の親子ふたりで語らうのも楽しいことだと思うぞ」
「大昔の…
親子…」
「その話もまたの機会だ。
ふたりのお師匠様の言いつけと、
お前が母と思う方の言うことを守れ。
そうすれば、またオレは現れる。
…セイラ、オレはいつでも、
おまえを見ているぞ」
「はいっ!
セイント様っ!!」
カノンちゃんと青空ちゃんが手を振ってくれて、
皆さんは消えられたの…
私、ずーっと、セイント様が消えられた場所を見ていたの…
… … … … …
「…神の鉄槌よりも効いたんじゃないのか?」
ゼン師匠が戦の女神様に言われたわ。
私たちはメリスンのお店に戻ってきたの。
「…あんなにも…
…私、ゼンで我慢することにしたわ…
…身の程知らず…
恐れ入ったわ…」
戦の女神様は薄笑みを浮かばせていたの。
「そしてさらに鍛えろと仰った。
まずはそれをした方がいいと思うな。
セイラ・ランダを見ていると言われた。
きっと、この世界を簡単にのぞけるんだろうな。
オレも、あまりめんどくさいなどと言っていると、
セイント様の怒りに触れそうだっ!!」
ゼン師匠は大声で笑ったの。
「だけどすごいよね!
たった一瞬であれだけあった武器が粉々だもん…
あれだけでも戦争の抑止力になったと思うよ。
それに、この村を助けてもらったようなものだもん…」
エラルレラが超真面目に言ったわ。
それが本当に良かったって、私も思ったの。
でも、私が止めないと私の成長はないの。
これはセイント様からの修行だと、
私はさらに決意したの。
「問題はコイツだ…」
火龍はヒト形になっていたんだけど、床でうずくまったままだったの。
「えっ!!!!」
ゼン師匠が叫ばれたの。
「はいっ!!」
しばらく、沈黙が流れたの…
「はいっ!!
わざわざ、ありがとうございましたっ!!!!」
これって、セイント様からの念話?
私にもして欲しいっ!!!!
「…怖かった…」
ゼン師匠は本気で恐れていたわ…
「…な、ななな…
なんだって?」
エラルレラも恐れているわ…
「火龍の使い道をお教えくださった。
ああ、仏セイント様はユウキハオウをいうお名前だそうだ。
今は人間で仏で勇者だということだ。
…いつも見ている、これはウソではないそうだぞ。
…今日来られた中で悦子様が一番偉いそうだ。
オレたちのいる宇宙を造られた母だということだ。
威厳をもって話すには、
仏セイント様が少し踏ん反り返っていた方がいいと思われたそうだ。
さっきのような話しは、悦子様は苦手らしい。
…さて、オレはコイツと山に行ってくる。
ここでさぼっていると、
仏セイント様の怒りに触れるかもしれないからな」
ああ、いいなぁー…
ゼン師匠をすごくうらやましく思っちゃったの…
『いつも見ている。
ウソではないぞ。
ゼン師匠とともに龍を連れ、山で作物を育てろ。
きっと、面白いことが起こるからな』
「はいっ!
セイント様っ!!
ありがとうございますっ!!」
あ、お話できなかったわ…
でも、念話もらえたから…
あ、ゼン師匠…
私はデッダはエラルレラに任せようと思ったんだけど…
「だめだめっ!
ボクとデッダを担いで行って。
これも修行…
厳しく…」
エラルレラは何度もうなづいているの。
エラルレラは真面目だから、
セイント様の言葉通りにするようだわ…
重いと思ったんだけど、デッダはそれほど重くなかった。
でも、十分に注意して飛んだの。
ほんの数十分で火龍の住む山、
サークリット大陸のサークリット山が見えてきた。
火龍はもう仕事を始めていたの。
それは大地を焼くこと。
山の麓の荒地を口から吐き出す炎で燃やして黒くしたわ。
ゼン師匠は、いろんな場所から実がなる草や苗を持ってきたの。
ここを大きな畑にして、食べ物に困らないようにするようなの。
そして、ここだけじゃなくって、他の土地でも同じ様にすることが、
セイント様からの火龍への使命だったの。
エラルレラが実を食べてるのっ!!
なんてことを! って思ったけど、口から大量の種を吐き出したの。
口の中で一気に種を乾燥させた様で、
土に埋まった種は、みるみるうちに大きくなっていったの。
「これは…
火龍の炎って、こういった効果があったんだっ!!」
エラルレラはそう言ってから、今度は土を食べ始めたの。
「なるほどね。
神秘なる神の神通力の様なものだ。
肥料と、成長抑制剤のようなものが混在してるね!
これだと、半分以下の時間で作物を収穫できるし、
畑を休ませる必要もない。
炎で焼くから、病気も起こりにくい。
これってすごいことだよ!」
エラルレラは手放しで喜んでいたわ。
私も、苗を植える仕事を手伝ったの。
地味だけど、すごく疲れるの。
エラルレラがまた何かを始めたわ…
早い成長をさらに早めたのっ!
今のってきっと、グラスゴルレムのチカラのような気がしたわ…
それに…
エラルレラが撒いた種は少し丈夫そうな茎に実をたわわに実らせて、
踊っているの…
怖いんだけど…
さらに、丈夫な囲いなどを、
ストーン、ロック、サンドゴルレムのチカラで造り上げていたわ。
きっと、怠けていたら叱られると思って、
張り切っていると思うの…
ほんの数時間で、すっごく広くてステキな農園ができ上がったわ!
休憩することにして、収穫物を食べることにしたの。
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