第2話 ヘッドロス
「お師匠様、おはようございますっ!!」
本来だとボクがお師匠様のお住まいの
エラルレラ山の庵に出向くはずなんだけど、
最近は毎日お師匠様が、
『メリスンの平和と笑顔を願う店』
に足を運んでこられるようになった。
始めてお師匠様がこの店にこられた時、
ほかのお客さんたちは一斉に逃げ出した。
首から上がなければ、誰だって驚いて当然だと思う。
さらにお師匠様の隣にデッダがいると、
店に入って来たお客さんが、
『デッダが客の頭を食った!』などと思われても当然だと思う。
ボクは強い興味が沸いて、お師匠様に頭がない理由を聞いた。
そもそもどうして生きて行けるのかが不思議たとも思うようになったからだ。
だけど、石の体のエラルレラが生きていることはごく普通にボクは認めている。
その理由は特にないけど、
―― かわいいのでファンタジーということで… ――
と妙な理由をつけて納得している。
「真面目に答えろよ、首なしぃー…」
そのエラルレラが少し迫力を出してお師匠様に言った。
「わかったわかったぁー…
だがその理由、話してもいいのか?」
「おまえが恥ずかしくないと思うのならな。
すごく恥ずかしいと思う場合は、
言わない方がいいとボクは思う」
こういったマジメな話しは、
エラルレラは絶対に茶化さないのでボクとしてはうれしい。
お師匠様は、かなり困っている空気を漂わせている。
「ひと言で言うと罰、だな。
女に手を出すとろくでもないことになるという
お師匠様の言葉を聞きながらエラルレラが眼をつぶってうなづいていたので
どうやらその通りのようだとボクは納得した。
「まさか、魔女のような人に頭を…」
ボクが言うとお師匠様は肩を落としたんだけど、
エラルレラは少し笑った。
「戦の女神がオレの頭を持っている」
ボクはお師匠様を少し軽蔑した。
そのまなざしの意味はお師匠様に正確に届いたようで、
ほんの少し身を引いた。
「神様に手を出されるとはお師匠様は最低ですっ!!」
ボクのひと言が効いたようで、
お師匠様は今は見えないけれど、深くうな垂れていると感じた。
「まあね。
誰だってそう思うよ。
それにセイルの師匠だからこそ、
一段と激しく軽蔑するだろうね…」
と、エラルレラが言って
「だがな…
言い寄って来たのはフェイラの方だぞ、
人間に化けて…」
と、お師匠様が言った。
「そんなのみんな簡単に見破ってるよっ!!
気づかない振りをした首なしのせいだっ!!」
エラルレラは堂々と言い放った。
ボクもその通りだと思って何度もうなづいた。
「神とはさびしいものなのだ。
ひとりくらい、ワシのようなヤツがいてもバチは当らんだろ…」
「それはただただ自分のスケベ心の正当化だ!
…それに副産物、あったよね?」
エラルレラの言った、
―― 副産物ってなんだろう? ――
って考えたんだけどわからなかった。
でも、ふっと浮かんできた。
「めんどくさいっていう件関連、でしょうか?」
エラルレラはボクに微笑みかけてくれた。
「その通りだよ。
みんながほとんど毎日することをしなくて済むから、
首なしは助かっているんだ」
「顔を洗ったり、歯を磨いたり、ひげをそったり、
耳掃除をしたり、散髪したり…
…さいってい…」
ボクは軽蔑した眼でお師匠様を見たわっ!
そこまでめんどくさがり屋だったなんて思ってもいなかったわっ!!
私はお師匠様をさらににらみつけてやったわっ!!
「セイル・ランダ、それほどにらまないで…
…んん?」
お師匠様の雰囲気が変わったの。
何かあったのかしら?
「おい、エラルレラ…」
「おかしいね、セイル…」
私がおかしい?
一体、どういうことなのかしら?
「私は全くおかしくありませんっ!!
お師匠様がおかしいんですぅーっ!!」
「おいおい…」「えーっ?!」「あら、まあっ!!」
お師匠様、エラルレラ、メリスンが同時に言ったの。
私、この三人の感情がよく理解できなかったの…
「セイル・ランダは女の子かっ?!」
お師匠様が言ったんだけど、
そんなの、当たり前じゃない…
「セイルは偽名よ。
本名はセイラ・ランダ。
この乱れた世界では、小さな女の子ひとりでは生きて行けないの。
だから私が男として育てたの。
セイラにその意識はないと思うわよ」
お師匠様もエラルレラもじーっとメリスンを見ているだけだったの。
でも、一番困っていたのはデッダだったの。
目を見開いて私を見て、
どうすればいいのかすごく困ってるようだったわ…
「セイラ、デッダのおなかを摩った方がいいわ。
セイルを見失って、ぼう然としてるから。
早くしないと暴れるわよ」
「う、うんっ!!」
私は落ち着いた声のメリスンの言葉を聞いてすぐにデッダのおなかを摩ったの。
すると今まで以上にくっついてきてくれて、
すごくうれしかったわっ!
「…はあー…
女の子の方が強いんだ…
それに、男の子とは違う優しさも厳しさもあるから…」
エラルレラがほっとしたような口ぶりで言ったの。
「そのようだな…
少し震えているな…
喜びと、恐怖の混在…
セイル…
いや、セイラ・ランダはかなり怖い女の子…」
「お師匠様っ!!
怖いって言わないで下さぁ―――いっ!!」
私は思いっきり歯をむき出したわっ!
あ、そうだっ!!
私は二枚の免許皆伝証の名前を見たの。
『対象者:セイラ・ランダ』に変わっていたわ。
少しずつだけど、男の子だった私も思い出してきたの。
これって…
「お祝い、しないとね。
8年振りに女の子に戻ったんですもの…
でもまずは、仕事にいってらっしゃい」
メリスンは私に三枚の紙を渡してくれたの。
これは急ぎの仕事なので、少しだけ気合を入れたわっ!
さらに急ぎだった依頼は、昨日までに終わらせたけど、
それほど被害を食い止められなかったの…
でも、その土地にいた人たちはみんな、
今以上に荒らされることはないって言ってくれて喜んでくれたので、
少しうれしくて、そして安心したわ。
「それじゃ、行ってきまぁーすっ!」
私が言うと、デッダは勢い勇んで私の前に出たの。
私はデッダを追いかけるようにして、
ほんの少ししかないけど、メイン通りの綺麗な石畳を駆け抜けたの。
~ ~ ~ ~ ~
「メリスン、君って…」
ボクはやっと気づいたんだ。
「さすがです、エラルレラ様…
セイラを守る者、ですわ」
「オレ達に様はいらない。
敬語も不要だ。
管轄の神は?」
「レスターリア様。
今は愛の女神よ。
私は一介の修行者」
「いいや違う。
それにもうひとりいるよな?
…やっとここの環境に慣れた。
おまえは神。
否定しても無駄だ。
オレはフェイラのそばにいるから、
全てが筒抜けだと思っていいぞ」
メリスンは眼を閉じて薄笑みを浮かべたんだ。
「確かに神には違いないわ。
だけど修行者というのも間違いではないの」
確かにその通りで、まだまだ神通力は弱い。
ボクたち勇巌よりもかなり弱いと思った。
「もうひとりは…
警察署にいるな…
署長か…」
首なしが少し遠くを見るように肩を動かして言った。
セイラが気にしていた人だ。
メリスンは小さくうなづいた。
「セイラを守るって、何から?」
ボクが聞くと、メリスンは笑みを向けた。
「全ての災いから…
もう、何度も失敗していたの…
私が担当するようになって、セイラは35回生まれ変わったの…
やっとここまで…
でも、さらに気を引き締めないとっ!!」
メリスンはひとつ気合を入れるようにして立ち上がった。
「生まれても、
ごく普通に戦争に巻き込まれて死んでしまう…
嫌な環境の星だよな、ここは…」
首なしが雰囲気タップリに言った。
「セイラはルオウなの?」
ボクがメリスンに聞くと、驚いた顔をした。
首なしも過剰な反応を見せた。
でもメリスンは思い直したようにボクに笑みを向けた。
「仏ルオウ様ではないの。
でも、その関係者…
仏ルオウ様のお子様の魂を授かった子…」
ボクと首なしはあわないはずの目線を合わせたはずだ。
「道理ですごいと思ったんだよ…
もう絶対にあんな子って現れないって思ってたんだ。
きっと二人といないよ…」
「まあな。
出会ってから驚きを隠すことで精一杯だった。
懐かしさはルオウのものだったのか…
だが、もう大丈夫だし、
もしここでセイラ・ランダが倒れたとしても、
それはセイラ・ランダの自己責任。
メリスンたちの役目は終わったと言っていいはずだ」
メリスンは目を見開いて、首なしに反抗的な目を向けた。
「メリスン、首なし様の仰る通りだ」
警察署長が店に入ってきて、カウンター席に座った。
「はじめまして。
私も愛の女神様のお付きをしております、
ガゼッタ・タレスと申します。
あ、これは人間名ですが…」
署長は少しだけ頭を下げた。
こういう時の首なしは役に立つ。
視線や表情を読まれることがないからだ。
「それでいい。
愛の女神がふたりに指示を出した。
戦の女神は何も知らないようだが?」
「セイラを愛の女神様が欲しておられます。
この混沌の世の中を愛で満たし平和へと導く。
戦の女神様の出る幕はございません」
話し方はやんわりだけど、
かなり棘がある言い方でボクは気に入らなかった。
「戦の女神が平和を求めいていないように聞こえるよね?
それは違うよ。
戦の女神はこの2000年間、何もしていないんだよ」
ボクが言うと、メリスンもガゼッタも驚きの表情を見せた。
「戦の女神が首なしの首をとってから、
人間たちが争い事を起さないように何もしなくなったんだよ。
でも人間は争い、憎しみあい、戦ってる。
今のこの乱世については戦の女神は全く関与していないんだ。
それ以外に原因があるはずなんだよ」
メリスンもガゼッタも、ボクに頭を下げた。
そしてガゼッタは徐に立ち上がって店を出て行った。
メリスンはコンソールを使ってなにやら始めた。
愛の女神と交信をしているようだ。
… … … … …
「…ううっ…
叱られちゃう、かもぉー…」
私の足取りは重いわ…
私、少し気を抜いちゃって、
ちょっと素早いピラルフにホホに傷をつけられちゃったの…
私…
やっぱり…
…ああ…
お店のドアが、いつもよりもやけに重いわ…
『ニャンゴニャンゴニャンゴ…』
…ううっ!…
ニャンドアベルの音がうとましい…
「…た…
ただいま戻りましたぁー…
メリスン、はい…
依頼、三件ともコンプリートォー…」
私は右ホホの傷を見せないようにみんなに左を向いて言ったの。
今は誰も気付いていないみたいで助かっちゃった。
「セイラ・ランダ。
右ホホの傷の事情説明をしてくれ。
いや、いい…
メリスン、報告書の再生、360度。
…デッダ、この紙を舐めろ」
…ううっ…
お師匠様にはお見通しだったわ…
私はみんなの真正面に顔を向けたの…
「…かすり傷…
しかも顔に…」
メリスンは嘆いていたわ。
手や足ならわかるんだろうけど、
さすがに顔に傷をつけるって、
よっぽど油断していたって思われちゃうもん…
お師匠様は映像を見て、ひとつため息をつかれたの…
「全てをはっきりとさせておくべきだ。
さらにめんどくさくなりそうだからな」
お師匠様がめんどくさいって言ったけど、
今回のめんどくさいは全然イヤじゃなかった。
でも、全てをはっきりって…
「これからワシは、神に対してパフォーマンスを行う。
セイラ・ランダはワシに聞きたい事を聞け。
どんなことでも構わん。
ワシはその時、真実しか言えない体となっているからな」
真実しか言えない…
一体、それって…
「そうだね。
この先すっごく心配になっちゃうから…
それに、首なしってウソつきだからね。
真実の鎧の出番、久しぶりだねっ!」
エラルレラが言った真実の鎧。
このお話しは聞いたことがあるの。
ウソをつくと、着ている鎧がその人を食べちゃうってお話…
ただの戒めの童話だって思っていたけど…
「3500年前に、全ての神に承認されたエラルレラの術だ。
勇者の中にも大ウソつきや大悪党などの悪者がいるからな。
悪いヤツラを懲らしめるためにエラルレラが創った術なんだよ」
私、驚いちゃったっ!
勇者にも、悪い人が…
「いたんだよね、数人…
みーんな、鎧に食べられちゃった…」
…うっ…
昔話って怖い…
「ウソつかなきゃいいだけだもん。
すっごく簡単なことだよっ!!」
エラルレラは笑顔で言ったけど…
いつもはかわいくて天使のようなのに、
今日は悪魔のように見えたわ…
「メリスン、空間リンク…
………
ああ、いいな。
まだ発動してもいないのに大注目だっ!!」
お師匠様がすごく陽気な声で言ったの。
モニターには、神様のお名前がずらりと並んでいたわ。
「ここでやめると言ったら、何か罰を喰らいそうだよなっ!!」
きっとその通りになるって私は思っちゃったわ…
「さっ!
さっさとやって、すっきりしちゃおうっ!!」
エラルレラはすごく楽しそうに言ったわ。
するといきなり、私が一度来たことのある場所にいたの。
神の名においての決闘場と同じ…
「ここは神の領域。
セイル・ランダが決闘で行った場所とよく似ているが違うぞ。
この前の場所はフェイラだけの神の領域。
今のこの場所は神の共通領域。
よって神であれば、
ピンからキリまでここをうかがうことが可能だ。
もう鎧を装着していたからな、
オレの言った事はウソではない」
お師匠様はかなり重そうな重厚な鎧を着ていたの。
今にも押し潰されそうだって思っちゃったわ…
「あいさつはなしだっ!!
セイラ・ランダ、聞きたい事を何でも聞けっ!!」
私、すごく困っちゃった…
でも、聞きたいことはたくさんあるの…
でも、このホホの傷を作っちゃった原因…
「…お、お師匠様は…
わ…
私のこと…
す…
好きですかぁ―――っ?!!!」
もうどうにでもなれって、最後の方は叫んじゃったわっ!!
「なるほど。
それがホホの傷の原因…
12才だから、これからさらに難しくなるよな。
そしてこの答えも難しい。
答えはふたつ、いや、三つあるからな」
三つもっ!!
一体、どんな答えなんだろうって、すごくドキドキしたの…
「セイラ・ランダが今言った好きは、
異性間の恋愛感情という意味だった。
オレの用意したその答えは、
嫌いではないとしか言いようがない」
嫌いではないから好きっていうことじゃ…
「嫌いではないと好きは大いに違う。
セイラ・ランダはオレの恋愛対象になるまで、
まだ育っていないからだ」
…うぅ…
その通りだって思っちゃったわ…
私、どこからどう見ても子供だもん…
「しかし、師匠から見たセイラ・ランダは大好きだ。
だが、またつまらない怪我をして戻って来た場合は
嫌いになっていくかもしれないし、
弟子でも師匠でもないと縁を切るかもしれないから要注意だな」
「…はい…
もうそれはすっごく、
大反省しましたぁー…」
私が言うと、お師匠様は少し笑ったような気がしたわ。
「そして最後の回答…
セイラ・ランダが15才程度になった時、
恋愛対象として好きかそれほどでもないなどと語れると思うぞ」
私、天にも昇る気分になっちゃったのっ!!
お師匠様は、嫌いになるっておしゃらなかったから可能性はあるってっ!!
「だがもし!
オレがセイラ・ランダに愛の告白をした場合、
オレの頭は本当になくなってしまうことだろう…」
…それはすっごく悲しい…
戦の女神様から何とかしてお師匠様の頭を取り返さないとっ!!
「…いや、話す前になくなってるだろうな…」
その通りだわってすぐに思い直したわ…
「もう十分にスッキリしましたっ!!
もう私、迷いませんっ!!
迷った時はまた言いますっ!!」
お師匠様がまた笑ってくれた気がしたの。
「そうしてくれ。
…さて、ここからがオレがはっきりとさせておきたい話しだ。
…戦の女神フェイラレスはこの2000年間、
人間の争いには全く関与していないっ!!」
お師匠様は言い切ったわっ!!
そして、何も起こらなかったの。
お師匠様は真実を語ったの。
だから私…
戦の女神様に、ごめんなさいってお詫びしたの…
でも、だったら、どーして…
「ここからは憶測だ。
全ての災いが戦の女神の仕業でないとしたら、
セイラ・ランダを欲しがった
愛の女神レスターリアの仕業だとオレは思ったんだがな。
…ああ、オレが逆に質問のようなことを言ってしまったなっ!!」
まさか、愛の女神様がっ!!
私、耳を疑っちゃったわ…
それに、私を欲しがるって…
「セイラ・ランダは仏の子。
オレ達八勇巌のひとり、仏ルオウの子。
…まあ、ここまでは神であればみんな知っているらしいな。
知らなかった者は知ったことを喜べばいい」
…あの写真の人が、私のお父さん…
でも、もうひとりの人の方が、すっごく会いたいかも…
「さて、神からもらった二枚の写真。
一枚は仏ルオウ。
もう一枚は仏セイント。
そしてもう一枚あるんだよ、セイラ・ランダ」
私の目の前に写真が飛んできたの。
それを見ると、服装は違うけど、セイント様だったの。
「それ、ワシだから」
私、声がでないほど驚いちゃったのっ!!
お師匠様がセイント様っ!!
「あ、オレはセイントではないぞ。
よく似ているが別人のはずだからな。
…偶然か…
はたまた必然か…
オレも、セイラ・ランダと同じ、仏の子かもしれない…
セイラ・ランダは、仏ルオウによく似ているからな」
私もそれは感じたの。
それに、今はっきりとわかったの。
お師匠様とセイント様は別人…
「どうだ、セイラ・ランダ。
ほかに質問があれば何でも聞くぞ。
鎧を解いたら、
めんどくさいからウソ方便言ってしまうオレに変わるからなっ!!」
お師匠様は大声で笑ったの。
私、ずっとお師匠様に寄り添って生きて行こうと決心したの。
… … … … …
昨日からずっと、メリスンに元気がないの…
そして知ったわ…
メルスンも神様…
私を守って育ててくれた大切な…
だけどそれは、愛の女神様からの命令…
私、グレちゃおうかしらって思ったんだけど…
お師匠様は半分は真、半分は親心って言ってくれたの。
私、お師匠様にすっごくすごく感謝したのっ!!
だから私、メリスンにきちんと話をしたわ。
でもやっぱり、元気が…
「たぶんオレのせいだな。
愛の女神をけなしたからだ。
よって愛の女神の信用は地に落ちた。
その僕が落ち込んでも無理はない。
オレはオレが知っている真実を語ったが、
本当に真実なのかはオレにもわからんからなっ!!」
…うっ…
なんだかだまされた気分…
でも、神様たちはお師匠様を信じた。
すごく影響力があることだったと、私、また…
「イィィィィィ―――ッ!!
やめろっ!!
もげるもげるっ!!!!」
お師匠様があるとすれば、
右耳の辺りを両手で押さえられていたの。
まさかこれって…
「…あー痛かった…
戦の女神の嫉妬も神レベルだな…
セイラ・ランダの感情が気に入らなくて、
オレに八つ当たりした。
まあこれも、罰のようなもんだから気にしなくていい。
始めてじゃないし…」
私、お師匠様の最後の言葉が猛烈に気になったの…
「…誰を気に入られたのかしらぁ―――っ?!」
私、思わず言っちゃったの…
お師匠様の様子が変わったわ。
すごく、優しい…
「イイイイィィィ―――――ッ!!
もげるもげるっ!!」
私よりも戦の女神様の方が嫉妬深いし、それに…
私はすごく落ち込んだわ…
「…ああ、痛かった…
…おっ!」
お師匠様はすごく喜ばれたようなの。
私は顔を上げたわ。
「セイント様っ!!」
私は思わずすがり付いてしまったの。
「だから違うって…
ワシだワシ…
元、首なし?」
お師匠様は大声で笑ったの。
そして、私、お師匠様を穴が開くほど観察したの。
「…はい…
セイント様ではありません…
すっごく、がっかりしましたぁー…」
「おいおい…」
お師匠様は嘆かれた。
一体、お師匠様、どうしたんだろう…
「セイル・ランダ。
がっかりしたら男の子に戻るのかい?」
そう言えばそうだ。
でも今は…
「感情の起伏、だと…
今はすごく静かです。
セイラの方は、少々落ち着きがありません。
デッダもそう感じているようです。
今はデッダとは友達ですから。
ボクは今のボクの方が好きです」
お師匠様は笑顔でうなづいてくれた。
そして、やっぱりお師匠様に抱き付いてしまったんだ!
お師匠様は優しくボクを抱きしめてくれた。
「本当に全然違うな…
そして、セイル・ランダの方が人間としては格段にレベルが上だ。
だがな、本来ならば、セイラ・ランダの方が上でなくてはならない。
この意味、わかるよな?」
ボクはお師匠様からゆっくりと体を放した。
「…はい…
体は女の子です…
このままだときっと将来、
かわいいそうな女の子になっちゃうかも…」
「そうだ。
そうならないように、セイラ・ランダを鍛えなくてはならない。
体よりも心を、な。
セイル・ランダがそれを後押しする必要がある。
そして、セイル・ランダの修行も怠るな。
これは矛盾しているが、ふたりが競い合って大きくなって欲しいんだ。
ふたりは仲のいいライバルであってもらいたいな」
ボクはすごくうれしかったんだ!
お師匠様とエラルレラのような親友が、ボクの中にいるって気づいたんだ!
「またセイルの方が上がったね。
今度セイラが出てきたら引っ込ませないようにした方がいいね、
意識的に…」
エラルレラがとっても難しいアドバイスをしてくれた。
でも、なんとかしてそうしてみようと思って、
ふたりのお師匠様にお礼を言ったんだ。
… … … … …
ボクは新たな任務を遂行するために、少し遠出をした。
今回はさすがに空を飛んでもいいとお師匠様に許可をいただいたんだ。
走って行けない距離じゃないけど、大河と海をいくつも越えるので、
戦う元気が出ないかもしれないって思ったんだ。
ボクはなぜ空を飛べるんだろうと不思議に思ったことがある。
近所のボクと同じほどの子供たちは誰も飛べない。
でも、お師匠様はボクが空を飛べることを驚かなかったんだ。
メリスンも空を飛べることは黙っているようにって、きつく言われていた。
空を飛べるのに全然疲れない。
歩いている方が疲れるって思っちゃうんだ。
一体、どういった原理で飛んでいるのか、ボクにはわからない。
でも、勇者になるとそういった能力で飛べるらしい。
お師匠様ももちろんエラルレラも空を飛べる。
メリスンに聞いたら恥ずかしそうに、
「浮かぶ程度…」って言ってたんだ。
聞くんじゃなかったかなと思って少し反省した。
デッダをどうしようかと思っていたんだけど、エラルレラがデッダと同化した。
勇者じゃなくてやっぱり仙人、
勇巌っていう存在はすごいってボクは思っちゃった。
デッダはおとなしくしている様で、エラルレラが説明すると、
少し淋しそうにして、『キュー…』とひと声鳴いた。
目的地が見えた。
小さいけど島じゃなくて大陸だ。
サークリットという名前の大陸で、
ここの中央にある山の火龍が大暴れしているそうなんだ。
とってもおとなしくてひとなつっこかった火龍がいきなり暴れ出した。
だからボクは上空からその様子を見ることにしたんだ。
確かに大暴れしていた。
中央の山が燃えていてまさに火山となっていたんだ。
きっと、何か痛いことでもあったんだろうと思って、
火龍を
「ああ、あれだぁー…」
両前足を擦るような仕草をしていた。
どうやら、爪の間に木の枝が刺さってしまったように見えたんだけど、
妙に真っ直ぐだったので
―― さあ、どうしよう… ―― と思いながら、
まずは助けに来たと知ってもらった方がいいと思って、
とりあえず山の火を消そうと思った。
そうすれば、ボクに興味を示すだろうと思ったんだ。
当然話しはできないから、無理やりにでも、右前足にしがみ付く。
また暴れたらやり直そうと思って、逃げる心構えを入念にした。
さっそく、大きな布に水を満杯に入れて、
山の消火活動を行うと、
出来上がった水溜りに火龍が右手を突っ込んできた。
しばらく動かなかったけど、やっぱり痛いようだ。
でも、それは海水のせいでかなりしみてしまったようだ。
しばらくすると落ち着いた様で、海水をもう一杯山にかけた。
十分の一ほどの火は消えていた。
火龍はまた、大きな水溜りに右前足を突っ込んだ。
ボクは素早く飛んで、その傷の具合を見た。
幸い、火龍は何もして来ない。
カエシがついている銛だと面倒だと思ったんだけど、
切っ先鋭い槍だった。
これは軍の使うものだってすぐにわかった。
装飾を施してあって、どこの国のものだか一目瞭然だ。
刃に固い布をかけてまっすぐに引っ張ると、
火龍は目を瞑った。
ボクはさらに刃を引き、完全に抜けた。
火龍は右腕を抱え込むようにして、横たわったんだ。
どうやらボクに攻撃する意思はないようなので、
止血して薬を塗ろうと思った。
薬は人間用しか持っていないので、エラルレラに聞きに行こうと思って、
止血だけをしようと右腕に近づいた。
『グルルル…』と、地獄の底からの声のようなうめき声。
かなり怖かったけど、ボクはロープと布を見せると、火龍は頭を逆方向に向けて、
右前足をボクに差し出した。
血はもう止まっていた。
でも一応、布をかけてロープで緩く巻きつけた。
少し引っ掛けるだけで外れるほどだ。
ボクは浮かび上がって、メリスンの店に急いで飛んだ。
「早かったな」
お師匠様が笑顔で出迎えてくれた。
ボクは事情を話して、エラルレラに薬を出してもらった。
お師匠様もついてきてくれる様でボクはうれしかったんだけど、
エラルレラとデッダが怒っていた。
結局お師匠様がデッダを担いでいくことになった。
現地に到着するとお師匠様は火龍よりも槍に興味津々だった。
エラルレラはデッダから出て、火龍の治療をしてくれた。
どうやら知り合いだった様で、あいさつをしている様に感じた。
すると、『ドォ―――――ンッ!!!!』と耳を
音が聞こえたその方向に一瞬だけイカヅチが見えたんだ。
「神の、鉄槌…」
ボクが言うと、お師匠様は微笑んでいた。
「よく知ってるな。
見たこと、あるんだな?」
「はい…
もっと子供の頃、
メリスンに内緒で空を飛んでいてその時に…
それ以来、空は飛ばないことにしました…
メリスンが神様に言いつけるるかもって思っちゃって…
飛ぶこと、禁止されてたんです…」
お師匠様は大声で笑った。
「…ああ、すまんすまん。
笑っちゃイケないな。
言い付けを守らないと神の鉄槌が下る。
今まさにその通りになったからな。
この火龍はこの星の守り神。
神がおふれを出しているからな。
それを破った罰で、
実際に槍を投げた者とそれを指示した者に鉄槌が下った。
今の鉄槌は人を殺すものではなく怒りの現れ。
だが、しばらくは起き上がれないだろうな。
それ自体が、人間への戒めだからな」
ボクはすごく勉強になったと思って、
お師匠様とエラルレラにお礼を言った。
すると、火龍がボクに何かを投げてきた。
『ドズッ!!』と、何かが土にめり込む音がした。
「おいおい、いいのかぁー?」
お師匠様が言うと、火龍はそっぽを向いた。
火龍のその姿がなんだかかわいいって思ってしまったんだ。
そしてボクの足元には、
ボクの背丈と同じほどの大きさの龍の鱗が地面に突き刺さっていたんだ。
でもそれは赤くなくて、金色だった。
「火龍には生涯で一枚だけ金の鱗が生える。
火龍は生涯、それを守るようにして生き、
生涯で一番印象に残った生きている人間にそれを渡すと言われている。
オレ達はその行為を始めて目撃したことになるな。
今まで誰も、もらったことはないはずだ」
すごくうれしいけど、それほどのことをしたんだろうかと、
ボクはどうすればいいんだろうって、わからなくなった。
「抜き方が上手だったって。
全然痛くなかったんだって!
…それだけ?」
エラルレラが言うと、火龍は小さくうなづいた。
そしてボクをじっと見ていた。
「さて、ここからが本題だよっ!!」
エラルレラが妙に陽気に言ったんだ。
「この鱗、資格があれば持ち上がる。
そうでなければこのままだ。
さっ!
セイルっ!
持ち上げてみようっ!!」
お話で聞いたことがある。
山頂の剣を抜くと王様になれるってお話…
ボクは、物語の主人公になったみたいでうれしくなって、
体にチカラを込めた。
「あ、ダメダメっ!!
資格がある人は両手の指で摘むだけで持ち上がるから。
資格があっても手から離れちゃうと下手をしたら下敷きになっちゃう。
…ぺっちゃんこ、だよ!」
エラルレラが慌てた仕草でボクに言ってくれた。
―― うっ、こわっ!! ―― とボクは思って、
チカラを入れすに両腕を上げて広げ、
両方の親指と人差し指で金色の鱗を摘み上げた。
するすると簡単に鱗は地面から抜けた。
「お師匠様、取れました!
お師匠様も持ってみてください!
どうぞっ!!」
お師匠様はかなり遠くまで逃げた。
どうやら、本当に危険なようだ。
「それで防具でも造ってもらうか?
戦の女神の忠実な部下なら、
セイル・ランダと同じように持てるからな」
お師匠様は遠く離れた場所から言った。
ちょっとだけ、―― 腰抜け… ―― って思っちゃったので心の中で謝った。
「…忠実な…
でもそれって…
かわいそう神も…」
お師匠様がかなり渋い顔をしていた。
「そうなるな…
裏切り者がいたらすぐにわかる。
これをフェイラが見逃すはずはない。
…ほら」
お師匠様が言うと、ボクの近くにイカヅチの鉄槌が落ちたけど、
何も起こらなかった。
でも目の前に、戦の女神フェイラレスが降臨したんだ。
ボクはどうすればいいのかわからなかったので、
とりあえず、金色の鱗で顔を隠したんだ。
「隠れなくてもよい。
セイル・ランダよ。
よくぞ生きてきたな。
お前の母に礼を言わねばならん」
「…あ、あのー…
恨んでて、ごめんなさい…」
戦の女神は微笑んだだけだった。
「その鱗で防具を造るのだな。
我にも少々頂きたいのだが、よいか?」
「あ、はいっ!
どうか、よろしくお願いしますっ!!」
「その駄賃として、おまえの師匠の名を返す。
お前の師匠の名はゼンドラド・セイントという」
「…えっ?
えええぇぇぇ―――っ!!!!」
やっぱり…
やっぱり、お師匠様がセイント…
「…ああ、言っておくがな。
夢に出てきたセイントは別にいる。
…神殿がセイントからのサイバー攻撃を受けたんだよ」
ボクもお師匠様たちもぼう然としていたんだ。
「非はこちら側にある。
セイントに探りを入れたら、
全て探られてしまったそうだっ!!」
戦の女神は大声で笑った。
「情けない話しだが、それでこそだと我は思う。
そうだよな、セイル・ランダ」
きっとボクはぎこちないけど笑ったと思う。
やっぱり、セイント様はすごい人なんだと思って、
ますます会いたくなったんだ!
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