第6話 悲しい過去

ファイヤーマート松本二丁目店。


私がはじめてバイトをしたコンビニ。

我が家の住所が松本四丁目にあることを思えば地元のわりと行くコンビニのひとつだ。


いや、「だった」というべきかもしれない。


部活にも入らず、なんとなくバイト先を探していたとき、当該店の入り口に張り出されていた「スタッフ募集」がきっかけで、「家から近いから」=「行くのがラクそう」、「アルバイトと言えばやっぱコンビニっ」というなんとも安易な理由で応募してしまったのだ。


ドキドキした面接もなんなくおわり、初日を向かえた。笑顔で迎えてくれた店長は、今では会ったら気まずいリストナンバーワンである。

折しも季節は春。新しいことを始めたくてウキウキしていた私は、見るものすべてが新鮮で楽しかった。レジの使い方やフライヤーの油ハネ、飲料水の棚の裏側。お客さんであればきっと知ることのない世界に私は胸が高鳴った。


レジの打ち方は素敵な大学生のお姉様が根気強く教えてくれた。電子マネーやタバコの銘柄で困った時は、どんなに遠い棚で廃棄処理をしていても颯爽と駆けつけてくれた。店長はいつも笑顔で困ったことがないかと気にかけてくださっていた。社会で働くことの意義。はじめて振り込まれるお給料と明細書。サービスを受けとるばかりでなく、担うことの面白さに気づき始めていた5月末。私は今日と同じように寝坊してそのまま「とんだ」。


クローゼットの方にをちらりと意識を向ける。あの奥深くには返しそびれたファイヤーマートの制服が眠っている。これは私が一生背負っていくカルマだ。


「罪を重ねるの?」


天使さんの声はやさしかった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どうしてもバイトに行きたくないんだが。 馬西ハジメ @atode

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ