第2話 おやすみの日は -Another-
眩しくて、目が覚める。
夏も近くなった五月の太陽は春よりも温かく、むしろ熱いくらいだ。
毛布をかけたまま身を捩り、ベッドサイドに置いてあるデジタル時計を見る。デジタル表示には「7:57」の文字が黒く表示されている。
今日は日曜日だ。
ゆっくりと緩慢な動作で起き上がり、洗面所で顔を洗う。鏡を見て、顎に黒い点が増え始めたことに気がついた。指で顎をなぞり、もう片方の手で鏡の収納を開けてその中から電動シェーバーを取り出して髭を剃る。
よし、問題ない。
もう一度顔を洗ったらキッチンへ向かい、コーヒーミルにコーヒー豆を放り込んで電源を入れる。力強い粉砕音が響き、下のところから挽かれた豆が出てきて、茶色い粉が溜まっていく。
その間に、ピッチャーと一緒になったドリッパーに紙フィルターを折って置く。少し湯を注いで馴染ませ、粉が挽かれ終わるのを待つ。
粉砕音が徐々に少なくなっていき、モーターの回転音だけになったあと、モーターの音も止まる。ホッパーの部分を何度か叩いて口に残っていた粉を追い出したあと、下のところに溜まった粉をドリッパーに移す。
挽いたばかりのコーヒーの粉からは香り高い深煎りのコーヒーの良い薫りが広がって、満ち足りた幸福感がただよう。
ドリップポットから細く、湯を注いでいく。湯気が口から立ち上り、朝日に煌めく。
ブラウンだったコーヒーが徐々に湯を吸ってダークブラウンへと変わっていき、泡が湧いてくる。
全部に色が広がる直前ぐらいに、ポトリ。と一滴、黒い色のコーヒーがピッチャーの中に落ちた。それから徐々にピッチャーへ落ちるコーヒーは量を増やす。
一杯分に満たないぐらいを淹れ終わったら、上にどれだけ粉が残ってようが湯が残ってようが、ドリッパーを外して紙フィルターごと粉を捨てる。
マグに移した熱々のコーヒーが口から入り、喉を通って、空の胃に入る。もう夏も近いが、朝イチのコーヒーの美味しさに勝るものはない。
余韻に浸っていると、スマホがひと鳴りした。画面には彼女からの「もうすぐ着くよ!」というメッセージとスタンプを告げるメッセンジャーアプリのアイコン。
スマホを置いて、コーヒーを飲み干し、クローゼットへ向かう。
彼女があのメッセージを送ってくるときは、本当にすぐそこにいる時だ。
急いで着替えて、彼女を迎える準備をしよう。もう一度コーヒーを淹れて。
〆
おやすみの日は君と 朝倉二日(アサクラフタヒ) @Futahi-29
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。おやすみの日は君との最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます