ポータル
@nekonohige_37
ポータル
目が覚めた時、私の視界に広がっていたのはなんて事の無い天井で、その中心には今は明かりの消されたシーリングファンが私を見守るように佇んでいる。
まだ甘い睡魔に後ろ髪を引かれながらだけど、私は上半身だけでもと起こしてみたところで、やっぱりいつも通りの風景が広がっていました。
小さな机に本棚に寝室用の小さなライトと参考書数冊、そしてこれだけでは殺風景と、わずかながらの抵抗として飾られた小物の数々。
なんて事の無いいつもの私の部屋。
でも……
「まだやってたんだ……」
カーテンの先に広がる光景を見て思わず声が漏れた。
造形こそ奇抜ではあるものの、長い期間をかけて作られたそれはこんな小さな田舎町の住人にとってはもう日常の光景でしかなくて、私自身ももう半分あきれてもいる。
なんてことの無い商店街の広がる小さな町を見下ろすように陣取る、少しだけ大きな山。
地元の人間の間では、双子山だのと呼ばれているみたいだけど、結局のところ高さも造詣もこれといって秀でている訳では無くて、私を含めた大抵の住人にとってはこれまであって無いような存在でもあった。
でも、アレの建築が始まってからは少しばかり対応が変わったのは事実で。
名前の通り、峠が二つだけある山の近くを通りかかるのは、人類のためと森林伐採に勤しむ林業職の人達位で、あと何があると言えば時折飛行機が目もくれず上を通り抜けるだけ。
そんななんて事の無い小さな山。
でも今は沢山のトラックが荷台に重そうな機材を積んで向かい、そのあとを追いかけるようにこれまた重そうなカメラを抱えて報道陣が追いかける。
さらにその光景を眺めるように、はるか彼方の上空を、ヘリコプターが元気に飛び回る。
最初こそ賑やかだったけど今ではどうってことの無いいつもの光景。
ヘリコプターの音に住人は最初こそ『騒音』だなんて書かれたパネルを手に騒いだとは言っても至って無関心な政府にあきらめがついたのか、今ではもう形ばかりのプロパガンダを訴えるのは野ざらしに放置された看板くらいのものだ。
なんでこんな小さな町がこれだけ注目されたのか、その答えがこの山の頂上に出来た大きな金属製のドーナツである。
『ポータル』
国の偉い人は分厚いメガネ越しにその名前を自慢げに言ってのけた。
そもそもポータルという単語は、門や入口という意味がある、しかしこれの建造が始まった当初は、こんな山の上に建てられたドーナツがなぜ門や入口という意味を持っているのか不明で、門と呼ばれている癖に門扉は無くて、入口と言われている癖に直径60メートルの穴を通して見える景色はいたって普通の田舎である。
この疑問を埋めるのが、今からちょうど3年前の出来事である。
「我々は宇宙人だ」
なんて分りやすいけれどあまりにも馬鹿げているメッセージが届いたのは突然の事でした。
ごくごく普通の毎日をそれぞれの人間がそれぞれの形で過ごしていた時、突然空から各国の最高責任者、つまりは日本人であるところの総理大臣当てにそんな馬鹿げたタイトルの手紙が舞い降りたのだ。
最初こそ大それた悪戯か何かだと皆余裕混じりに笑ってはいたけれど、追い打ちをかけるようにこの続きの意味を持つ手紙が同時多発的に舞い降りた事に世界中の人達が慌て歓喜しました。
このあまりにも幼稚なコンタクトこそが、人類史上初の地球外生命体とのやり取りでした。
大勢の人たちはこぞってこの出来事に歓喜し、また残された一部の人達はこの出来事に危機感を覚えながらも、これから先に起きるであろう出来事に注目しました。
世界各国の報道陣は各々の意見を交えつつ、そのやり取りの一部始終をカメラ越しに伝え。
その内容をみんなが食い入るようにテレビ越しに飲み込みます。
その宇宙人はとても地球人に興味を持ち、文明の遅れた地球人のために様々な事を教えてくれました。
もちろん地球人もこれまでの歴史や文化などを教え、ある程度の親交を深めた時、宇宙人から一つの提案をもらいます。
それが『ポータルプロジェクト』
文字だけの交流だけでは物足りない、だから実際に合って会話をしてみたい、だからそちらに行くための手段を用意してほしい、というものでした。
どうやら地球とその宇宙人が住む星の距離はとても離れているらしく、文明の進んだ宇宙人とはいえ気軽に宇宙船に乗って出かける事の出来ない距離らしく、その問題を克服するためにある設計図が送られれてきました。
それが私の視線の先にそびえ立つとても大きなドーナツ。
どうやら遠く離れた距離同士を繋げて行き来するための道具で、もちろん地球人諸君は皆その道具に歓喜しました。
それから暫くしてその道具事、ポータルの建築が進んだ訳だけど。
なぜか作られた場所はこの小さな田舎町、しかもその中にたたずむ小さな山のてっぺん。
一体なぜこんな田舎なのか、もっと大きな町の中心にしたらいいじゃないかなどと言う意見も飛び交ったけれど、『兆次元時空間転移波長』だの『ウィルシュハイゲン共振力場座標』だのといった訳の分らない事難しい理由から、こんな名物らしい名物も無い時代遅れな田舎町が宇宙人との初顔合わせの舞台となったのです。
おかげと言ってはなんだけど、家の近くの商店街は一気にお祭りムードになって、沢山の観光客がやってきて。
『宇宙大福』なんていう、どこが宇宙なのかも不明なただの大福がちょっとした名物になったおかげで少しだけこの商店街もにぎわいを見せたのも事実ではあります。
そしてこの大福の売上が右肩上がりに伸びて行くのに合わせて、Uの字になっていたドーナツは少しずつその切れていた両端をつなぎ合わせると、これまた大きな祭典の中、無事に稼働を続けました。
けど、この稼働して最初の出番、つまりは初めて宇宙人をこちらに招き入れるときにあるトラブルも起き、大勢の人は落胆にうつむき、また一部の人たちは大声を上げて笑うのでした。
「まだ腰でつっかえてたんだ……」
宇宙からの支援を元に、人類が英知を結集して作り上げたこのポータル、無事に機能はしたけれど、ちょっとした計算ミスによって人類と宇宙人は初めての出会いを前に大きな壁にぶつかっていました。
「宇宙人……でかすぎるでしょ……」
私が見つめる先、直径60メートルもある大きなトンネルをくぐりぬけることが出来ず、宇宙人は今日も悪戦苦闘していました。
ポータル @nekonohige_37
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます