テントウ虫

陽月

テントウ虫

 高い所へ行かなければ。

 本能に導かれて、僕は上を目指す。


 高い所に行ってどうするのかって?

 そこから飛び立つのさ。新しい場所を目指して。

 新しい景色、新しい出会い、新たなご飯、こんな何もない所はもうごめんだ。


 もうごめんなら、さっさと飛び立てばいいって?

 分かってないなあ、そうじゃない。

 どうせなら、できるだけ遠くに行きたいじゃないか。

 僕の羽は、上昇に向いていない。

 だから、遠くに行くためには、まず足で高い所に行かなくちゃいけない。

 高い所へ行けば、それだけ遠くに行けるってもんさ。


 せっせ、せっせと登っていたけれど、おかしな感覚に襲われた。

 登っていたはずなのに、いつの間にか下っている。

 確かに、進む方へ引っ張られる感覚がある。

 いつの間にか、頂上を越えてしまったのだろうか。

 仕方がない、僕は回れ右をして、再び登る。

 今度は頂上を越えてしまわないように、気をつけなければ。


 おかしい、また下っている。

 さっきまで確かに登っていた。頂上を越えないように、気をつけていた。

 なのに、どうしてまた下ってしまっているんだ。


 落ち着け。

 気をつけていたんだから、すぐに気がついているはずだ。

 今から方向転換すれば、頂上はすぐさ。


 気を取り直して、再び登る。

 けれども、なかなか頂上に着かない。

 そろそろさっき登った分以上に、登り直している。

 同じ道を往復しているはずなのに。登ってきた所を引き返しているのに、登っているなんて。

 でも、まだ大丈夫。だって、登っている。


 ようやく頂上に着いた。

 こんなにはっきりと、頂上だと分かる。

 先がないのだから。

 こんな頂上を、いつの間にか過ぎてしまったなんて、信じられない。

 けれども、そんなことはもういいさ。ここから新しい場所に向かって飛び立とう。


 僕は羽を広げ、明るい方を目指して飛び立った。



 今日、理科の時間にテントウ虫は高い所を目指して、登ってから飛ぶと習った。

 学校帰りに見つけたテントウ虫。僕は習ったことが本当なのか試したくて、テントウ虫がいる草をちぎり、手の平へ移動させた。


 最初は指を上へ向けた。

 テントウ虫は指の先目指して登り出す。少しくすぐったい。

 ある程度登った所で、今度は指を下にする。

 テントウ虫は、少し下へ行ったものの。すぐに反転して上を目指した。

 本当なんだ。


 もう一度、指を上にする。

 やっぱりテントウ虫は方向を変えて、上を目指す。

 あんまりテントウ虫に意地悪するのも、悪いから、もう方向を変えたりはしない。


 テントウ虫は僕の指の先に辿り着いて、飛び立った。

 太陽、お天道様に向かって。

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テントウ虫 陽月 @luceri

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