やってみての雑感など

 企画としては「推敲」が趣旨なのですが、やっている最中は「翻訳」に近い手触りをおぼえることが多かったです。

 そんなに大げさな話ではなく、言葉を鋳型とみなし、ひとつの言葉をほかの言葉に流し込む作業だと感じたというほどの意味ですが、それにしても修正よりも複写、それも「あえて」デッドコピーを取るかのような、確信犯的な「誤訳」を行うような気持ちで、楽しく取り組むことができました。

 みたいに書くとテキトーにやったと誤解されそうなんで弁解させていただきますと、さしあたり、この「推敲」という作業は、ある文章の連なり(小説とか作品と呼ばれるもの)の解体と再構築というふうにとらえられるかと思うのですが、そのようなことは元来、不可能なものと解釈することもできます(いや企画の趣旨を否定したいとかじゃ全然ないんですが……)。

 というのも、自分以外の誰かによって(あるいは自分によって?)出力された文章群は、それそのものとして自律的に完成しているからです。言い換えると、出力された文章群は、もはや出力した主体(書いた人)の意思すら介在しないところで、それそのものを根拠として成立している、という感じでしょうか(まあ異論も考えようと思えば考えられるんですけど……)。

 なので、そこに「あえて」自分の意思を介在させる=推敲を行う、というのは、なにか不自然な力動に、文章に先立って自分自身をさらすような感じがしました。

 その不可能性が楽しかったという話なので、まったく否定的なニュアンスではないんですが……

 助詞の修正ぐらいならこんなこと思わなかったんでしょうが、語彙とか文章の構成を検討するとなると、他人の建てたビルを爆破してその瓦礫で観覧車を作ろうとしている気分でした(たとえとして適切なのかわかりませんが……)。


 そんなんはともかく、ふたたび個別論的なところに話を戻しますと、本作は

①三人称によるモノローグ

②明確な過去回想

③現在の端緒、いま・ここで語られることになる物語のはじまり

 という滑り出しで作品が進んでいきます(あくまで個人的な見立てですが)。

 もちろん企画の趣旨的には①か②の部分を推敲すべきなのでしょうが、手前勝手ながら、それはやめることにしました。

 理由はいくつかあるのですが、とくに①については「世界そのものが読み手に語っている文章なので修正が難しい(というか原理的に不可能である)」こと、②については「もっと書き込めば短いエピソードとして生かせるので後々に持ってきたほうがいいと思った」ことが、それぞれいちばん大きい感じです。


 まず①について、書簡体小説などがわかりやすいですが、基本的に近代以降の小説は「いま・これを読んでいるのは誰か?」を問う構造を内包しているものが(比較的に)多いはずです(一応補足しておくと、ここに書いていることはちゃんとした文学史や批評理論にもとづいているわけじゃないので、過度に鵜呑みにしないようお願いいたします)。

 つまり、物語の「語り」の構造が、世界=語り手という素朴実在論的な地平から乖離している、という感じです。

 なんでここで書簡体を引き合いに出したかというと、「誰が読んでいるか」への意識がなければ、書簡体≒手紙=「読まれるべきもの」を「語り」の装置として使う意味がないと思われるからです。

 この場合、「推敲」もまた(比較的に)やりやすくなります。というのも、手紙という形式を仮に採用するなら、「その文章は手紙としておかしくはないか?」という外部の評価基準を持ち込めるからです。

 たとえば、1,4,9,13,...という数列をいきなり出されて「いい感じにしろ!」と言われても「は??」となりますが、「一定の規則に沿って直せ!」と言われれば「ああ13はおかしいな」と直すことができます。

 裏を返せば、①においては「語り」の装置が明示されていない(「読まれるべきもの」と世界とがぴたりとくっついている)ので、むしろ直さないほうがいいといった感じでした。

 あえて誇張した言い方をすると聖書みたいなもんで、「はじめに言があった」とか書いてあるところに「えっなんでコトバなの?ビッグバンじゃないの?」とか絡んでも仕方がない、という感じでしょうか?なんとなくフィーリングでわかっていただけるとうれしいです……


 そして②ですが、一読して「登場人物めっちゃ多いな~」というのと「これ丸ごと後に回しても生かせるな~」と思いました。

 それ自体がどうこうということではないのですが、明確な過去回想が冒頭にあって(あらすじに魔術師の話が書かれているので、たぶん冒頭の海の描写の時点で回想とわかる人はそこそこいると思います)、そこにこれだけ人間がいっぱい出てくると、やっぱちょっとヘビーかな……というのがちょっと、正直なところというか……あととくにテーブルに着くところで一気に会話が増えるのですが、語調がばらけていないのと地の文が少ないのとで、誰がどれをしゃべっているのかちょっとわかりづらいかもしれないです……

 だったらここも推敲しろよこの野郎!!!という話ですが、仮にやるとなると存在しない新規の情報を大量にブチこむことになるので、マジで原型をとどめてない感じになりそうで……

 あと設定というか情景描写を読ませていただいた限りだと、なんかクレオール文学みたいな印象で(国内だと中上健次とか小野正嗣を連想しました)もっとでかい挿話を作れそうな感じなので、ふくらまして後ろのほうに持ってくるのもありかなと思いました。

 個人的には4章の後ろぐらいがちょうどいいかなと思います。その場合はミンシカの心情と共鳴するかたちの構成が取れれば面白いかもと感じましたが、いかがでしょうか?


 だらだらと長くなってしまってすみません。あと「なんでここはこうなってんの?」とかあったらお答えしますので、その場合はなんかレスポンスいただけるとありがたいです。お粗末様でした。

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企画用 忠臣蔵 @alabamashakes

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