ダイジェスト死亡シーンは必ず見てね!!
ちびまるフォイ
どこまでも行き届いた調教
部屋には上下左右に並べられたいくつものモニター。
その前に一脚の椅子が置かれているだけの場所だった。
おそるおそる椅子に座ると、
それがスイッチであるようにモニターに電源がついた。
『え……なんで……え……?』
中央のモニターには自分の出血を信じられない男が映った。
『バァン!!』
別のモニターには眉間を撃ち抜かれた老人の映像が映る。
『あなた……幸せにね……』
別のモニターには静かに息絶えていく女の映像。
『嫌だよぉ……死にたくないよぉ……』
別のモニターにまだ成人していない少年が撃ち抜かれる映像。
人が多く集まる場所で大爆発が起きて人が死ぬ映像。
ナイフを突き立てられて崩れ落ちる女性の映像。
頭を大きな石で何度も叩かれて死んでいくおじさんの映像。
モニターにはいくつもの『死亡シーン』が延々と流された。
「あ……ああ……!!」
血が出るもの。血が出ないもの。
近くの映像から遠巻きの映像まで様々なシーンが流れる。
どのシーンでも老若男女おかまいなしに人は死んでいた。
地球で毎日人が生まれるのと同じように人は死んでいく。
頭でわかっていたソレを目の前で突きつけられるのがこんなにも辛いなんて。
「あああああ!! もうやめてくれ!! もう限界だ!!」
目をつむっても、人が死ぬ断末魔の声が聞こえてくる。
耳を塞いでも頭の中で焼き付いた死亡シーンが繰り返される。
すべてを見ないように塞ぐと頭の中のイメージが鮮やかになってしまう。
逃げるようにモニターの映像を目を通して気を紛らわす。
人の命が失われて心が同様しないように無感情で。
できるだけ頭にイメージが残らないように。
「ふふ……ふふふ……」
延々と切り替わるモニターの映像が徐々に快感へと近づいてきた。
あの鮮血が見えるのがいつになるのか。
次はどう死んでくれるのか。誰がどう死ぬのか。
恐怖はエンターテイメントになり、痛みは快感へのスパイスになる。
「あーー次、早く死なないかなぁ」
臓器がでる系は当たりで、まとめて死ぬのはハズレ。
より刺激を求めて食い入るように見つめ続けた。
そして、気がついた。
「あれ……? この人、さっきの映像にも……」
最初は怖いとか辛いとか痛いとかで映像をよく見てなかった。
今は楽しくなってしっかり見るようになって初めて気づく違和感。
さっき死んだはずの人が、別のモニターに映る別の死に方でまた死んでいる。
まるで同じ俳優が別の映画に出てくるように。
それはひとりだけじゃなく、それに気がつけば他の画面でも同じ人が死んでいた。
「これ、全部うそっぱちの死亡シーンだったのか!!」
本物に見えた死亡も、すべては台本や脚本通りに演出された『死』だった。
それに気づくやさっきまでの興奮は波のように引いてしまった。
かにかまをついさっきまで本物のカニだと思いこんでいた気恥ずかしさすらあった。
「はぁ、なんか急に冷めちゃったなぁ。さっきまでのが嘘みたい」
今や映像はただの風景となって、感動も恐怖も興奮もない。
ただ人が死んで、それを見ているだけだった。
「はぁ」
長い、長い溜息をついているとすべてのモニター電源が急に切れた。
一瞬だけ真っ暗になったかと思えば、すぐにモニターの電源が戻る。
「いったいなんだったんだろう」
大きな変化は映像に現れた。
ごく普通の日常の『死』を映していた映像の毛色が変わった。
棘付きの椅子に座らされて絶叫して死んでいく人間。
額に水を定期的に落とされて、だんだん発狂していく人間。
熱しられた金属の入れ物に閉じ込められ死んでいく人間。
「うわっ……」
最初はゾッとしたものの、『死』に慣れていたのもあり恐怖は興味へと移る。
モニターにた多種多様の過去に行われた手ひどい拷問の数々が
何の加工もなしに映し出されていた。
人間の悪趣味と想像力で彩られたそれらの映像を見ていくうち、
ねとりとした暗黒の好奇心で心が満たされていく。
「面白いなぁ……」
人を楽しませることに頭をひねる芸人がいるように。
人を苦しませることに頭をつかう人間。
おぞましくもきらびやかな拷問器具たちにもう創造力は止まらなくなる。
自分だったらどうするか。
どうすればもっと苦しませて死なせられるか。
そして、見ている人にどれだけ興奮を与えられるか。
「作りたい……私ならもっと、もっと良いものが作れるはず!! 作りたい!!」
創造意欲がMAXになったとき、出口が開いた。
「拷問器具メーカー『アイアンメイデン』新卒研修はこれで終わりです。
明日から一緒に最新の拷問器具を開発しましょう!」
ダイジェスト死亡シーンは必ず見てね!! ちびまるフォイ @firestorage
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