スリーブを買いました
たかし
第1話スリーブを買いました
俺は一人ポケカを最近の日課としている。別に一人二役やるわけではなく、なんとなく敵がいるという想定をして戦っている。楽しい。
しかし、一つ面倒なことがあった。
シャッフルが面倒くさい。
もしあなたが、1プレイごとに同じ種類のカードが固まるタイプのカードゲームをやったことのある人なら、なんとなく分かってもらえると思う。ポケカはその類のカードゲームなのだ。
せっかく楽しい遊びなのに、もったいない。
そんなことを思いながら、阿保みたいにカードをシャッフルしていた午前2時。突然、ある言葉が脳裏を過った。
「マシンガンシャッフルは、カードを痛めるぜ。」
そう、丸山の口癖だ。
マシンガンシャッフルとは、デッキを2つに分割し、それぞれのパケットの端をはじいて端同士を噛み合わせそのまま1つに揃えてしまうシャッフル(wikipwdiaより引用)である。
確かに、この方法ならばカードが固まってしまう問題は解決できるだろう。二つのパケットを交互に重ね合わせることで塊を分断できるからだ。しかし、この方法はカードを痛めてしまうらしい。それはできれば避けたい。
そう思った俺は数分の思考の末、マシンガンシャッフルをするとカードを痛めるというのは、マシンガンシャッフルができる奴というマイノリティーに所属していることがステータスであると勘違いした陰キャ中学生のついた嘘なのだと結論づけた。
そうと分かればやるしかないと思ったので、見よう見まねでマシンガンシャッフルをやってみた。そして失敗した。しかもパケットをはじいたことにより、カードの端がちょっと傷ついた。やっぱりカードを痛めるのは本当だったんだと思った。
友の忠告を無視し、挙句の果てに罪のない中学生を陰キャと罵った俺は、そのことについて少しだけ反省し、他にもっと便利なシャッフルの方法が無いかを調べた。
「ヒンズーシャッフル。へー、いつもやってるシャッフルってこんな名前だったんだ。ディールシャッフル。あー、この前丸山がやってたやつかな。リフルシャッフル。マシンガンシャッフルとも呼ばれ、カードを傷つけr、、、やめろ!」
そして、良さそうなシャッフル方法を見つけた。ファローシャッフルである。
ファローシャッフルとは、リフルシャッフルと似ているが2つに分けたパケットの端を噛み合わせるときにカードの端をはじくのではなく、端同士を押し付けるようにするシャッフル(wikipwdiaより引用)である。
これなら俺でもできそう。そう思った俺は、またしてもカードに負担がかかるという忠告や、スリーブがあった方がやりやすいという忠告を無視して、無謀にも挑戦し、そしてまた失敗した。
翌日、スリーブを買った。
畳部屋の中央にはスリーブ付きのポケカのデッキが置いてあり、その前に一人の青年が鎮座している。明滅する蛍光灯。最後の戦いが始まった。
青年は、ゆっくりとデッキを手に取り、慣れない手つきでカードを二つに分けた。そして、左手パケットの下端を右手パケットの上端へとくっつけた。
「いくぞ。」
パケットに力を加え、慎重に押し込む。
「入れ。」
押し込む。
「いけー。」
押し込む。
「決まれー。」
押し込む
「入らなーい。」
押し込めず。
「おかしいなあ、入りかけてはいるんだけどなあ。」
青年はパケットの接続部を凝視する。
「なんで入らないんだろう。」
そして異常に気が付いた。
「ああっ!右のスリーブの中に左のカードが入っちゃってる!」
青年はデッキを畳へ置いた。そして、背中から畳へ倒れた。
「やっぱり俺にはファローシャッフルなんて無理だったのか。」
思えば失敗ばかりであった。しかし、今までは己の愚かさによる失敗であったが、今回ばかりは別だった。
「所詮俺はヒンズーシャッフルさ。なんだか貧乏くさい感じがする。」
青年はふてくされ、そして呟いた。
「あきらめようかなあ。」
消えかける蛍光灯。
「だってカードがスリーブの隙間に入っちゃうんだもの。」
そして、青年は隙間に文句を言った。
「隙間さえなければ!」
自分にもイライラした。
「そんなこと言うなら、隙間の無いところを使えばいいじゃないか!」。
すると突然、蛍光灯が新品の頃のように光りだした。
「隙間の無いところを使えばいいじゃないか?」
青年は足の遠心力を使って勢いよく体を起こした。
「そうだよ!上端を使わなければいいんじゃないか!だったら。」
青年はもう一度デッキを手に取った。カードを二つに分け、右手パケットの左下隅を左手パケットの右端へとくっつけた。
押し込む。
「どうだ。」
押し込む。
「頼む!」
押し込む。
「入ってくれ!」
押し込む。
「いっけええええええええええ!!!」
――――2年後。
「うえーん、うえーん。」
少年がデュエルスペースで泣いている。
「どうしたんだい。」
一人の青年が声をかけた。
「ポケカが大好きなんだけど。シャッフルが面倒くさいんだ。だから接近回避型の葛藤に苛まれて困ってるんだ。うえーんうえーん。」
青年は優しい口調で言った。
「そうか、それは辛かったね。でも、もう大丈夫。お兄ちゃんがとっておきのシャッフル方法を教えてあげから。」
そう言うと青年は少年のデッキを手に取り、それを一瞬のうちに綺麗に混ぜてみせた。
「すごいすごい!どうやってやったの!」
青年は微笑みながら言った。
「ファローシャッフルって言うんだけど――――」
ファローシャッフル(完)
ご愛読ありがとうございました。
スリーブを買いました たかし @grape4096
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