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雪が、音をぜんぶすいこんでしまう夜、月も星もみえない、きみの髪よりまっくろな空からは、綿毛か羽根のような白がまいおりてきて、世界は息がくるしくなるくらいにしずまりかえっていて、ぼくだけがたったひとり、おいてけぼりにされてしまったみたいだった。そんなときでも、ぼくには、ぼく以外のだれかがぼくのためにくれた名前があって、かつてその名前できみがぼくをよんだこと、それだけがただひとつ、ぼくがいつだってひとりではないことの証明だった。よばれることをおぼえてしまった名前が、よばれないことをなげいている。もらった手紙の宛名にある、きみ直筆のぼくの名前が、もうかすれてしまってよめないこと、ぼくの名前をよんだきみの声を、じつはもうとっくにおもいだせないことが、いたくて、くるしくて、かなしくて、さみしかった。
「かつて、たしかにここにいたきみのことを、いともかんたんにわすれさってしまえる薄情なぼくよ、きみを失った痛みさえ、きみの不在になれることでやわらげようとする弱い僕よ。この、いたみとくるしみとかなしみとさみしさだけは、わすれてしまわぬように、どうか、どうか、どうか、えいえんにつらいままで。」
眠れない夜に @aster_
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