第13話 出会い④ 二日目・夕
――数時間後、木々の隙間の夕日が今まさに沈もうとしている時、再びネイルガンに張り付けてあったディスプレイが光り出した。
木の上に上って身を隠していた私はビクリと体を少し強張らせて、すぐ傍に置いてあったネイルガンを持ち上げる。
『あーあー。ねぇ? 聞こえてる? 私ってば、君が教えてくれた位置情報の近くに来てるんだけど、君は今どこにいるのかな?』
「……近くにいるよ。――ただ、悪いけど姿はまだ見せられない。貴女が私を騙そうとしていないっていう保証も無いから」
『あはっ。信用ないなぁー!』
ディスプレイからはツナギを着た、リンと名乗った女性の呑気な声が返って来た。まるで自分が殺されるなんて微塵も考えていないかのような危機感の欠場っぷりに、私はより警戒を強めた。
――リモート回線。
私が最初に所持したネイルガンは、どうやら隠された機能が存在していたようだ。
私が所持した時点で機能が使えなかったのは、交信相手がまだいなかったからだと推測される。そして相手が見つかった今、このネイルガンはビデオ動画のような役割を持った。
脳内に埋め込まれた回線を使ってのインターネットアクセスが禁止されてるため、他のプレイヤーと交信できるネイルガンはかなり貴重な存在であると言えるだろう。上手く立ち回る事が出来たら、情報戦でかなり優位に立つことが出来る。
その事も考えてリンは協力しようと提案したのだと思うけど――正直言って、危険すぎる。
味方になってくれるというメリットを考慮したとしても、私は協力すべきではないと考えていた。
理由はいくら協力関係になって序盤の生存確率が高くなったとしても、最終的に生き残るのは一体のみである。殺し合いを先送りしただけで、結果は何も変わらない。その上リンが裏切る可能性も十分にあるため、常に敵および味方にも警戒を怠ってはいけない。心労が減るとも思えない。
……何はともあれ、教えた位置情報に素直に来てくれたリンの心境と、協力し合えるという根拠が欲しい。
――と、見下ろした先でネイルガンを持ったツナギの女性の姿を捉えた。周囲を見渡す……が、他にアンドロイドの影は見えない。本当に一人で来てくれたのだろうか?
私はネイルガンに口を密着させて、声で位置がバレないように通話する。
「……貴女に聞きたいのだけど、何故協力しようと提案してきたの? このゲームがバトロワなのを知ってるよね?」
『へ? 味方が多い方が生き残り易いと思ったんだけど、違うの?』
「私が素直に貴女の提案に乗ったらね。もしかしたら――私はそもそも協力する気が無くて、今まさにライフルの照準を貴方の頭に向けているかもしれないわよ?」
ハッタリである。ライフルなど所持していない。私の手に持っているのは、家で入手した近中距離向けのショットガンと、腰に携えたリボルバーのみである。
しかし、相手はそのことを知らない。呼び出された時点でこういった状況を警戒していなかったとは思えないが、少しは動揺してくれると有難い。
木に登って身を隠したのも、リンを脅して奥の手を引き出すためである。いくらなんでも、心に余裕が余裕があり過ぎる。
彼女の姿を目視できるかつ自分の姿が捉えられていないこの位置なら、いくら中近距離の武器でも先制は打てる。ショットガンの拡散する弾を全て回避するのはアンドロイドとて至難の業であろう。
私は武器を握りしめ、彼女の出方を伺う。
さぁ、どう出る――?
『――あははは! 確かにそーだよね! こりゃ一本取られたよ! 負け負け! 私の負けでいーよ!』
「……………………は?」
リンは腹を抱えて大笑いした後、笑顔を浮かべたままネイルガンを持っていない片方の手をヒラヒラさせながら挙げた。そのあまりのあっけない降伏に、意味が分からずただただ困惑した。
『――……って、そんな事言っても信頼できないよねー! んじゃ、敗北したって証拠を見せてあげるね!』
そう言うとリンは背中に背負った鞄を下ろし、腰辺りにある剥き出しになった外部付属バッテリーのパッチを開けると、バッテリーに触れ、
『――悪いけど、稼働停止を確認したら、再起動ヨロシクね!』
満面の笑みで手を振りながら、リンは二つのバッテリーを自力で引っこ抜いた!
そして次の瞬間、まるで糸の切れた操り人形のごとく――リンは地面に倒れこんだ。
アンドロイドはドン勝の夢を見るか? 阿賀岡あすか @asuka112
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