Epilogue
沙羅からの知らせで就職してから数年ぶりに地元へ戻った。あまりの懐かしさに駅を降りて一人で「おおー」とはしゃいでスマホで写真を撮ってSNSにアップする。
あの時、沙羅を送り出してから通ることのなかった道のりは、なんだかとても変わっていてまるで知らない町を歩いているみたいだった。
けれどところどころに見覚えのある建物や公園があって、やっぱりここは俺が育ったあの町なんだということを思い出す。
またあの場所で、彼女が店を持つことになったのだ。
やっと看板が見えたと思って店に向かうと、沙羅が店から出て来るのが見える。よく俺に気が付いたななんて手をあげてみたけど、彼女は俺の方なんて全然見ないで電信柱の影にいる小さななにかに話しかけるように屈み込んだ。
気になってついかけていくと、あの日の沙羅のように鋭い…けれど怯えたような目つきをしている一人の女の子が屈んだ沙羅の目の前でじっとこちらを見ながら固まっている。
「ほら、お腹が空いてるんだろ?
おいで。お金がないなら別に払わなくていい。大丈夫」
沙羅は、野良猫みたいな顔をしてる女の子に対してとても優しい表情で話しかけながら手を差し伸べていた。
女の子を怖がらせるわけにもいかないので、俺はそっとその場から離れて一足先に新生リンデンの中へと向かう。
「こんな世界自分しか信じられないって言うけど…案外捨てたもんじゃないかもしれないよ?」
背中越しに聞き覚えのあるセリフが聞こえてちらりと後ろを振り返ると、女の子が沙羅の差し伸べた手に、恐る恐る自分の手を差し出しているのが見えた。
あの日の僕と今のキミに 小紫-こむらさきー @violetsnake206
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