仮称「89C01番」艦の建造

カガユキ

第1話 1989年の元日

 この世界では、中央海軍と、かつての雄藩だった地域が運営している自前の海上戦力が混在している。この話はその地域海軍のうちの一つ、仙台海軍が建造することになった近代的軍艦についての物語である。


 仙台海軍では、毎年元日に地元新聞等に海軍の運営方針を載せることが恒例になっている。1989年の元日、この年の運営方針は、大きな波紋を呼ぶ内容であった。以下はその内容を抜粋したものである。


 3-1 保有艦艇について

 「当海軍の保有する巡洋艦北上・酒匂・湧真のいずれも、1945年以前に就役した旧式艦であり、運用コスト以上に近代化改装の限界を迎えてきている。そのため、海軍ではこれらの巡洋艦に代わる新たな艦種として、嚮導駆逐艦を整備し、各旗艦として整備する。」

「嚮導駆逐艦について、6000トン型(酒匂後継)、9000トン型(湧真後継)の2種類を建造する。」

「6000トン型は中央海軍はたかぜ型護衛艦をベースに、9000トン型は米国キッド型ミサイル駆逐艦をベースに、当海軍仕様にしたものとして、発注する。いずれも、スタンダードSM-2MR SAM、ハープーンSSMを装備し、伊式127mm砲を装備する」抜粋終わり


 この記事は、仙台海軍から巡洋艦が退役することと取られ、大規模な反対運動が発生した。北上・酒匂はいずれも貴重なWW2時代の巡洋艦の生き残りであり、さらには湧真(旧プリンツ・オイゲン)はその時点で世界でも唯一のWW2参戦ドイツ軍艦であった。大規模な保存運動がその後起こり、北上は軍艦籍を置いたまま、万石浦の海軍総旗艦のまま在籍することとなり、酒匂は中央海軍に返還し、湧真はドイツに里帰りして博物館船となることが決まった。

 海軍内部からも、巡洋艦の廃止には反対意見が多かった。というのも、格式を重んじる一派からすると、旗艦用に巡洋艦は存在するのであって、それを駆逐艦扱いにすることは儀礼上相手から低くみられる(欧州海軍ではまだ巡洋艦は残っており、アメリカでも多く在籍していた時代である)こととなるのが許せなかったのだ。


 その結果、3月にアメリカで建造する予定の9000トン型は巡洋艦(軽巡洋艦より大きい駆逐艦という大きな矛盾にならずに済んだ)として建造することになったが、6000トン型は同型の兼ね合いもあり、駆逐艦のまま建造することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

仮称「89C01番」艦の建造 カガユキ @Kagayuki308

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る