01-14 そして始まる俺無双

 後で聞いた話ではあるが、門番は大体出入りする冒険者等は覚えているらしい。


 そんなことを知らず初めての門番仕事をする俺は、門番ってこんなことする仕事なのかと、門番ってこえぇなぁって思いながら、素通りする人達に軽く挨拶しつつ二人の言葉に副音声を入れてみたらどうなるのか考えたりしていた。


「ぐぅっ、いてぇよ! なにするんだ!」

「コノハさんがお前たちと一緒に行っていたはずだっ! どうしてお前だけがここに来ている!」

「そ、それを今から話すために町に――」

「ここで話せっ!」


 あれ~?

 さっきまで凄い優しそうだったシラさんが怖くなってきた。

 何か凄い決め付けで町に入れようともしないし。


「俺の仲間達が危険だから、すぐに救援をもらいにギルドに話つけに行きたいんだよっ! どけよっ!」

「お前らは先日ヘマして冒険者ギルドから謹慎の指示が出ている身だろっ! パーティで戻ってこないと町に入れられないんだよっ! だから何があったのかと聞いているんだ! コノハさんが同行して監視しているし稼がないと生活が厳しいからハシタダさんの許可得て外出てたんだから!」


 おお、凄いなシラさん。

 そんなことまで覚えているのか。さては出入りする人達全員の特徴とか情報とか覚えてるんだろうなぁ。

 いや、この場合、覚えやすい情報があったから覚えていたのか?


 なんて事を言っている間、門の外から冒険者風の人達がどんどんと帰ってきているんだけど、あれチェックしなくていいのかな?

 証明書みたいなものをいつも見せてもらってたと思うんだけど。


 とりあえず外から来る人達が俺に証明書みたいなカードをちら見させてくるので、ひらひらと手を振って返すと、にこやかに町へと皆入っていくので、多分大丈夫なんだろうと思っておくことにした。


 俺の今の仕事は、にこやかな笑顔で手を振る仕事だ。


「お前らの素行が悪いから監視者なしに中へ侵入させられないんであって、だから今すぐここで話せって――って!? シンヤ君!? 門番の仕事してないよねっ!?」


 シラさんが俺を見て驚いた


 俺のおかげで少し冷静になれたようで褒めて欲しい気分だったが、厄介なことに巻き込まれそうだなとか、証明書提示しなくて入っていった人達は後でどうなるんだろうとか、問題から目を逸らしたくて仕方なかった。


 でも俺はなんも悪くない。

 だって、なーんも教えられてないからなっ!


「ちょ、何で人流入してきてるの突っ立ってみちゃってんのーっ!?」


 お、やっと気づいたかシラさん。

 当たり前だろ。


「シラさん。俺何をしたらいいかな~んも聞いてないけど?」

「そ、そうだった!」


 シラさん、ハシタダさんに名前覚えてもらってないってず~っと俺に相談してたから、本来の業務内容教えてくれてないんだよね。


「まあ、それはそうとして。役目変わろう」

「は?」

「ちょっとごめんよ~」


 俺はそう言うとシラさんに胸倉掴まれながらも必死に抵抗している男に近づき、シラさんの腕から解放してやった。


「ありがてぇ! 急いでるからあと――」

「ああ、だから、急がなくていい。シラさんと一緒で、ここで話してもらえれば……ああ、面倒だな。ちょっと意識辿るか」

「たど……え?」


 シラさんが脅して話を聞こうとしてもギルドに助けに呼びに行くことで頭がいっぱいのこいつに何を話してもらうとしてもまとまった話にはならないだろう。

 というか、俺も話を聞くのが面倒だった。


 男の額に人差し指をこつんっと当てると、男は不思議そうな顔して俺のことを見てくる。


 俺は男に当てた人差し指に意識を集中させて、男が何をそんなに慌てているのか、確かめていく。


「――ああ、なるほど。ダンジョン内でモンスターに強襲されて、焦った所にベテラン門番のコノハさんがお前たち助ける為に罠にかかっちゃって行方不明になったんだな?……で? あぁ……仲間達も負傷してるからダンジョン前で待機してるわけだ」

「お……お前……なんで……」


 俺は男の額から指を離すと、満面な笑みを浮かべた。


「さってと。場所も大体分かったから、コノハさん助けにいってくるけど、いいよねシラさん」

「は? 助け――って、どこ行く気!?」

「ってなわけで、ほいっと」


 俺は『S』の力――超能力の力を使う。


 瞬間移動テレポーテーション


 方向に目を向け、先程男から手に入れた情報を脳内で思い浮かべると、俺の前に扉が現れた。

 その先にあるのは洞窟だ。


 行きたい地点『A地点』と今いる地点『B地点』を脳内で作り上げて、一つの紙の上に作り上げる。

 その地点をマーキングすると、各地点を近づけるように紙を折り曲げていく。

 俺が脳内で作り上げた創造の産物は、俺の目の前少し先で時空を歪め、歪な黒い穴を作り出す。

 行きたい地点と繋がる穴の出来上がりだ。

 その穴だけではとても邪悪な感じが拭えないので、いつも扉をつけてオブラートにしているのだが、周りの反応を見ると、包み込めていないようで少し悲しかった。


 いきなり現れた不可思議な穴を見せられ、誰も今起きていることを理解できていないのだろう。


 起こした現象としては『物理的に距離を消した』が正しいのだが、親友に前に説明し、実演してみたところ、「物理的に距離を消した、じゃなくて、物理的にそんなことできねぇんだよ」と怒られたのが懐かしい。


 でも、できるんだからしょうがない。

 これで、俺が知っている場所にはいくらでも移動ができる。


「んじゃ、後でまた顔見せに来るから」

「いや、シンヤ君!?」


 俺はその扉の先へと進む。扉を抜けた先の景色はがらっと変わり。

 先ほどまでがやがやと人の喧騒に包まれていた町の中にいたのに、目の前は仄かに明るい、土で固められたかのような壁と天井の中にいた。


 俺の体が全て通り抜けると、扉はすぅっと静かに消えていく。

 次にまた行う時は、同じように瞬間移動すればいいだけなので、消えても全く問題はない。


 改めて辺りを見渡してみると、天井も比較的高く、壁も左右に広い。

 ダンジョンの中にいるようではあるが、どうやら通路ではなく部屋のようだった。


「え……シンヤ君?」


 そんないきなり現れた俺に驚いたような表情を浮かべる女性がその部屋に一人いた。

 その女性が俺の救出対象である、コノハさんだ。


「ああ、ぴったりだった。よかったよかった」

「――おーい」


 どうやら罠にかかった拍子に足を痛めた上に下層に落ちてしまい、身動きをとれなくなったようだ。


「さあ、コノハさん。掴まって。これから一気に飛ぶから」

「え? どこに?」

「――おーい」

「どこにって、そりゃあれだよ。コノハさんの町に決まってるじゃないか」

「でも、私は怪我してるし、ここがダンジョンのどこかってのも分からないから……足手まといになるわ」

「いや、それは気にしなくていい。ぱぱっといけるから――」


 なんて、コノハさんの説得に時間がかかった俺は――






「――戻ってこいっての! 馬鹿神夜!」


 そんな痛烈なことをコノハさんは言わない。

 はっと、我にかえると、目の前の光景は土くれの洞窟の中ではなく、近代的な様式の、洋風な食堂だ。


「なんだ、親友か」


 俺が話す俺の華麗な物語に、思わず横槍を入れたくなったのだろう。

 なんせ俺がこれからコノハさんを颯爽と助けるのだから。


「俺はお前の何を今聞かされていたのかと思うわけで」

「えー? 俺がこれから颯爽とダンジョンにはびこる魔物をなぎ倒しながら眠る秘宝を拾ってコノハさんを助けだすいいところだろー?」

「……どうせひょいっと瞬間移動して終わりだろ。ダンジョンも比較的いろんな人が潜ってそうなダンジョンだから凄い宝なんて今更なさそうだし」

「あたりー」


 要は、あの後、コノハさんの前で瞬間移動して、シラさんの前に戻っただけなので、な~んもなかったりするのだが。


「まあ、ダンジョンみたいな冒険ものにありきたりなところに潜って楽しんでいたってのはよく理解できた。少し羨ましい」


 そう思うなら、ちょっとくらい、盛らせてもらってもいいじゃないか。なんて。


 俺無双は、まだまだまったく始まらない。

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