碩学王女と猫の冒険飛行

死神の逆位置

第1話

重力遮断機関ケイヴァーリット、問題なし。魔力炉マナ・リアクター、1番2番出力低下中、3番4番、低速運転中。魔力蓄積器マナバッテリー、1番から4番、残量45%。主発電機メインジェネレーター、停止中。サブは問題なし。主詠唱機関キャストエンジン6機とも問題なし。サブも問題無し。推進装置スラスタ、メイン、サブ、全て問題なし。自己診断術式、condition yellow。全システムチェック終了。」


 定期的なシステム点検。いつものように指差し確認を行う。

 海の上での1人—いや2人?—旅。

 もうそろそろ一ヶ月になる。

 食料は、魚を釣ればどうにかなる。

 水は、海水を処理すればいい。

 まあ、食料と水は積荷の中にあるが、節約するべきだろう。

 もっとも、命の水はどうにもならないが。

 主発電機が使えないのも痛い。

 現状では変換炉3番4番がまともに動かせない。

 調律炉1番2番は変なものでも吸い込んだのか、出力が下がっている。


 そして、次の瞬間。

 調律炉が停止してしまった。


「あー、うん。君たちはよく頑張った。直ぐに治すさ。」


 陸地が見つかれば、だが。

 着水しての修理はあまりやりたくない。

 揺れが酷いのだ。


 魔力蓄積器の残量が10%を切った頃。

 やっと、着陸出来そうな場所が見つかった



「ようやく陸地かぁ……。言葉はどうにかなるはずなんだけど。さてどうしようかな?」



 どうしてこんなことになっているのか。

 現状ではよくわからない、というべきだろう。



 一ヶ月ほど前のこと。いつもの様に私は船遊び試験運転をしていたのだ。

 その最中、空間断層に飲み込まれ、別の星へと飛ばされてしまった。

 さらに、半月前に調律炉が不調になってしまい。

 その上、数日前には主発電機が不調になり停止。

 予備動力で誤魔化しながら飛ぶはめになった。



 回想終わり。



 着陸の際は、光学迷彩を展開し、視認性を落とすのが理想ではある。

 だが無理だ。魔力がない。

 地形は草原。街道らしきものも見える。

 どうやら、知的生命体が存在しているらしい。






 暇だ。

 修理のために各機関の冷却を待っているのだが。

 何もやることがない。


「なにか、起きないかな?」


 まあ、起きるわけがない。

 とりあえず、偵察用ドローンを起動し、周囲を見張らせることにした。










 それからしばらくして、まずは調律炉の冷却完了の表示が出る。


「うわぁ……」


 所謂バードストライクが発生していた。

 吸入口のフィルターに血肉がこびりついている。

 でも、調律炉はそれだけで停止するような仕組みでは無い。

 もちろん、当たりどころが悪ければ壊れるが。

 だから、吸入口に防護装置フィルターが付いているのだ。

 それに今回は、防護に成功している。


「2つとも同時に止まるなんて……渡り鳥の群れをまとめて吸い込んだのかなー」


 光学迷彩でも使っていたのか、全く気づかなかった。

 とりあえず、鳥は後で分析する。


「内部機構は……はぁ」


 ああ、面倒なやつだ。

 保護回路に浮かび上がっていたのは木目の様な焦げと荒波の様な焦げ。

 その痕跡が示すのはマナの過剰吸入。

 吸入濃度の急上昇に対応が出来なかった様だ。

 おそらく、状況は以下の通り。

 先ずは、バードストライクによって出力低下。

 鳥が渡りのために大量に魔力を保持していたのだろう。

 これは木目の焦げ。

 そして、緊急停止したときにはマナ溜まりに突っ込んでしまったのだろう。

 こちらは荒波の焦げだ。

 幸いにも、復旧は可能だ。

 240の保護回路を全て修復する必要があるが。

 猫の手も借りたいとはこのことだ。

 借りたら後が怖いが。



「主発電機は……もうちょっとかかるね。」



 急激な冷却は不可能である以上、冷却完了にはもう少し時間が必要だ。



「もう少し使いやすいやつ積むべきだったかな?」


 否。

 趣味は全力でやるべきだろう。

 実用品としては少々問題だが。


 冷却が終わるまで調律炉の整備を行い、時間を潰すことにした。




 調律炉の整備が終わった頃、ようやく主発電機の冷却完了の通知が来た。

 早速、防護服に着替えて点検開始。


「あぁ、ここか。原因も分かりやすいね。」


 幸いにも、大きな問題は発生していない。

 部品交換でどうにかなる範囲だ。

 ただ、再始動のためのエネルギーの確保が難しいが。

 転移の衝撃によって熱源が一瞬ずれて部品が壊れかけ、時間が経ってから問題が発生したのだろう。

 溶けた様な痕跡がある。


「やっぱり君は駄々っ子だねぇ。」


 でも、そこが可愛いのだ。

 この、核融合炉は。



 部品交換を終え、工具を片付けているときのこと。

 機嫌が悪そうなサーニャが現れた。



「直るか?」

「まあ直りそうだけど……主発電機の再始動はしばらく無理。起きてたんだね、サーニャ。」

「ベッドから投げ出された……」

「あぁ〜。緊急時だったから。ごめんね?」

「ところで、最近いいものを手に入れた様だな。ちなみに、貸しも溜まっている。」

「へ?……ッ!いやあれは……」

「沈没船のは勘弁してやろう。、だが。」

「……持ってけドロボー。……一本ね。」

「うむ、良かろう。」


 途端に機嫌が良くなる。

 というより演技だった様だ。

 してやられたな……。




















 まあ、最初から一本はサーニャにプレゼントする予定だったのは内緒だ。


 —————————————————



 アナスタシア・ミカエラ・ハルモニア

 主人公

 通称ターシャ

 錬金術、生命学、工学の碩学

 王女(王位継承権二位)

 政治家には向いていないタイプ。

 というか、自国の状況と彼女の政治の才能が噛み合っていない。

 酒好き。


 サーニャ

 猫?多分猫。正体は魔族。

 喋る。

 これはねこです。

 酒好き。

 二人が正面から喧嘩するとサーニャが有利


 魔族

 生物の分類の1つ。

 肉体ではなく精神に存在を依存する生命体。

 生きた魔法の様なもの。

 本来は非常に大雑把な分類(猫をみて動物と言う様なもの)。

 だが、魔族は分類困難な個体が殆ど。

 そのため、日常的に使われる分類。

 魔族がなんらかの分類を自称した場合は、その分類を使用する。

 自称した分類としては、神、龍、天使、悪魔、妖精、精霊、などが確認されている。



 最近手に入れたいいもの(モデルは某150本限定ウイスキー。3本所有)

 沈没船(特にモデルなし。ラム及びワインを二本づつ所有。約100年物)

 言うまでもなく非常に高価。

 というか金と権力があっても買えない。運が必要。

“こっち”に来た以上、再入手は事実上不可能。



 魔力

 狭義ではマナを含まない。

 生命体などから発生するエネルギー。

 指紋並みの個人差を持つ。

 相性の悪い魔力が体内に入ると拒絶反応が発生する。

 性質の解析は可能だが、相性がどう決まるかは判明していない。

 一応、実験自体は繰り返し行われた。

 人類の観測能力が足りていない模様。


 マナ

 大気中、正確には空間に満ちた魔力。

 大地、宇宙、生物などに由来する魔力が混ざり合った状態にある。

 また、状態の変動が非常に早く、カオスである。

 そのため利用することは基本的に不可能。




 以下は船の説明。

 最後の行に簡単な説明があるので以下の船の解説は読み飛ばしてOKです。


 飛行船 シューティングスター号

 全長約180m

 最大幅約16m

 最高速度はマッハ1.2

 巡航速度は600〜800km/h

 快速輸送船。兼、新型機関実験船。

 自衛用ミサイルを除き、非武装。(尚、NBC兵器を搭載、発射可能。)



 魔力炉

 全機、試験搭載品。

 1番2番は新型。通称、調律炉。

 大気からマナを回収し、利用可能な状態に調律する半永久機関。

 原油を一瞬で精製するようなもの。



 3番4番は電力投入に対して魔力を発生するもの。通称、変換炉。

 高性能だが、これ自体は従来型の域を出ない。

 従来型の炉は、生命体の魔力精製機能を取り出して機械化したもの。


 詠唱機関

 魔法を実行可能なコンピュータ。

 これも試験搭載品

 本来は各種機関などの制御に使用するもの。

 通常の船なら武装として使用するようなものではない。

 メイン6機のほかに細々したものも搭載。


 ちなみに、通常の船の武装は1種類の魔法の使用に特化した詠唱器を使用する。


 発電機

 メインの発電機は本船最大の特徴であり機密。

 サブは、船体に塗られた太陽光発電システム、及び燃料電池。

 メインは核融合炉。

 まごうことなきオーパーツ。


 推進装置

 試験搭載品

 メインは船体中央の両舷に1機づつ。

 サブは船体各部に散らばっており、姿勢制御、方向転換に使用する。


 重力遮断機関

 H.G.ウェルズ、月世界最初の人間に元ネタがある。

 特筆すべきことはない。


 価格

 同じ重さの純金と同等。

 搭載しているものを考えると安いかも。


 軍用モデル

 無い。というか無理。

 主要な装置が全てターシャのハンドメイドのため量産が不可能。





 船の簡単な説明

 時間と資金と技術と権力を持った変態が紅茶英国面コーラ米国面をキメて趣味に走った結果。

 ついでに緑茶日本面もキメて小型化した。

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