第4話

 ブルーティップ500枚コンプという軽い偉業を成し遂げ、俺達の居る町役場の一室に訪れたカタギでは無い過激派一家の娘、ギリアム。頭の左右から生えた二本の太い角と長い銀髪という悪魔族特有の風貌をした彼女は俺の目の前でビッチリとティップで埋まった台紙を見せびらかしている。……まさかこんなに早くフルコンプ者が出るなんて。それにコンプした時の景品なんて、そんなモンまだ考えてもいなかった!


「あのー、ベリアス家の娘。どうやってこんなに早くブルーティップを集めきったのでゲスか?」


 ソガ君が助け舟を出してギリアムがそっちをにんまりと振り返る。ロリっぽい見た目とは裏腹にボリューム感のある胸元から筒状の袋を取り出すとその中から取り出したお菓子をかじりながら俺達に言った。


「商店街の駄菓子屋でうめえ棒、500本分買って集めたのだ!どんなに安い買い物をしても必ず一枚ティップがもらえるから一番安い駄菓子を買い占めたのだ」

「箱ごと買うとか、大人買いかよ……」

「さすがはマフィアの娘。金の羽振りが良いでゲスねー」

「むっ、そこのメガネ!ベリアス家は街を守る良いヤクザなのだ!ヘンな言いがかりをつけるのはやめるのだ!」


 眉を寄せてソガ君を睨みつけると思い出したようにギリアムが俺を見て目を輝かせた。


「と、いう事でコンプ達成なのだ!どういうやり方であれ、ギリアムはこのブルーティップ500枚を集めきったのだ。……それに、よいしょ、ラムミルクのコンポタ味にリヤマ海岸産のタコ足味。まだまだたくさん持ってるからオマエたちも食べるといいのだ」

「いや、いい。口の中の水分全部もってかれるから」


 ジャージのポッケからうめえ棒を取り出そうとするギリアムを留めて俺は額に掌をあてる。……確かにティップの集め方は指定されていない。しかし、ひとつの店で単価の低い商品を買い漁るのは商店街の発展に繋がらない。ギリアムが買い占めたうめえ棒は一本10ダル。これを500本買ったところで商店街の利益はたかが知れている。


「さぁ、早くフルコンプした景品をよこすのだ!」


 話が最初に戻り、ギリアムが犯人を尋問する刑事のように俺の机を叩く。


「どうしたのだ?商店街で企画をしたという事は景品が貰えるはずなのだ。とにかくブルーティップを集めたら景品が貰えるという確証、アカシが欲しいのだ!」


 ギリアムの言い分を受けて俺はソガ君とアイコンタクトして要求されている正答を引き出してみる。掌から伝う脂汗を拭って俺はギリアムにこう提案した。


「じゃ、じゃあシグルズ山断崖に巣くう極楽鳥ごくらくちょうの羽根を編み込んだブーツじゃどうだ?このあたりだと寄贈品として有名だぞ?」


「ご、ごくらくちょうの快速ブーツ!?ギリアムはたまごのほうが好きだけど……うーん」


 腕を組んで悩み始めたギリアム越しにソガ君が俺に向かって親指を立てた。…こっちが用意できて相手に怪しまれないランクの景品というギリギリのラインを攻めてみた次第だ。それに極楽鳥の編み込み靴ならアリベベの店で取り扱いがあるはずだ。連絡すればすぐに取り寄せる事が出来る。とりあえず今回はそれで誤魔化すとして、とっととこのヤクザの娘をおっぱらおうとしよう。


「…ごくらくちょうの靴……あっ!思い出したのだ!」


 口に手を当ててギリアムがその場を飛び上がった。


「その靴だったら商店街を歩き回っているうちにモブリンの店で見かけたのだ!お金で簡単に買えるものじゃなくて、ブルーティップフルコンプ限定の景品が欲しいのだ!」


 ソガ君がお手上げという風に手を上げて溜め息をつくのが見える。店で売ってるのを見られていたのか。うまくやりこめたと思ったのにこの娘、なかなか抜け目がない。有り物をあげるだけでは折れてはくれなさそうだ。


「じゃ、じゃあ宇宙石のネックレスはどうだ?それならここの商店街でも売ってない」

「宇宙石!?あのキレイな石がふんだんに編み込まれたネックレスが貰えるのか!?」

「ちょ!ちょっと待つでゲス、ヤシロ君!」


 慌てて机を回り込んでソガ君が俺に耳打ちをした。


「宇宙石といえばシグルズの炭鉱でも10年に1カラット出てくるかどうかのレアモノでゲスよ!?そんな貴重なモノをこの娘に簡単に渡すなんて……」

「もしもし、オジキ~?ブルーティップフルコンプの景品がすごいのだ!なんと宇宙石のネックレスがタダで貰えるのだ……っ?んっ」

「ちょっと待て今すぐテレパシーを切れ」


 急いで席を立って、虚空に向かって話を始めたギリアムの角を掴んで会話を中断させる。抵抗するギリアムが大人しくなると俺は再び席について冷や汗を拭った。


「やれやれ。早速情報拡散かよ。現代社会と変わらないな……。いいか、宇宙石のネックレスは台紙一枚のフルコンプだけじゃあげられない。それだけならさっき言った快速靴だけだ。ネックレスが欲しいならひとつ条件がある」

「その条件とは一体なんなのだ?言ってみるといい」


 武力には自身アリ、と言う態度で腰に手をあてるギリアムを見て俺はこう言い放つ。


「俺と勝負して勝つのが条件だ。そっちが勝てば宇宙石のネックレスを景品としてやろう。ただし負けたら極楽鳥の快速靴もなしだ。それでいいなら勝負を受け付けよう」

「ちょ、ちょっとヤシロ君!」

「ほーう、言ったな。非力なヒューマンの分際で!その条件でいいのだ。後腐れが無いようにはやくバトるのだ!」

「まー、そう焦んなって」


 俺は立ち上がって近くにあった机を向かい合わせて一つの長机を作った。体から放っている黒い覇気を弱めたギリアムに向かって声をだす。


「そもそもの企画発案者は俺だ。よってこの戦いは俺が居た世界での形式で行なわせてもらう」


 エルザの雑貨屋で購入した網を机の真ん中両端でくくるとアリベベの店で繕った木へらを持って机の端でそれを構えてみせる。ポカン顔のふたりに俺はこう切り出した。


「これが今回の勝負のお題。台とネット挟んで向かい合って球体を打ち合う。この競技を俺達の世界では卓球という。ワンゲーム11点制で相手から多く点を取ったものが勝ちとなる」

「……なるほど。この木へらを振って再生素材で作られた球を打ち返すのだな。おもしろそうなのだ。やってやるのだ!」

「ヤシロ君!マジで言ってるでゲスか!?こんな勝負、認められないでゲス!万が一、ヤシロ君が負けるような事があったらおおごとでゲス!」


 制止しようとするソガ君を押し切って俺はピン球に見立てたプラスティックに似た球体を手に持って特注ラケットを構える。ネットを挟んで向かい合うギリアムも興味津々、といった表情をかざしたラケット越しに覗かせている。


「…11点先取のワンゲームマッチだ。いくぞ!」


 体に染み付いたフォームからラケットでピン球を押し出す。景品とプライドを賭けた卓球バトルがこのシグルス町役場の一角で幕を開けた。

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異世界でピョンタカードは使えますか? まじろ @maji

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