アメリカで猫と暮らす番外編 名づけ「カトー」さんと「あそこ」さん。

タミィ・M

第1話 「カトー」さんと「あそこ」さん


我が家の猫、英語での正式名称はAmerican domestic tabby cat(アメリカンドメスティックタビーキャット)という。英語だとなんだか珍しい品種に聞こえるけれど、普通の家猫のことをさす。


ドメスティックは(国内の、または家庭の)と言う意味でタビーは縞柄のことだ。

なので、アメリカAmerican家庭DomesticTabbyねこCat。と言う意味なのだ。


灰色のサバトラ風なのがグレータビー。茶色の茶トラがオレンジタビーと呼ばれる。


このように英語と日本語では少しイメージが違うこともある。名前の付け方も少しだけ難しいのであった。


        ・  ・  ・


猫たちとの出会いは8年前にさかのぼる。突然アメリカ暮らしを強いられた母親から熱望されて猫を飼うことにした。私たちも猫は大好きだが異動の多い軍生活だったので、それまで心配でなかなか決断ができなかった。


日本のいわゆる里親会から引き取ることに決めた。アメリカではアダプションと呼ばれている。


母は遠い日本が恋しいあまり


「名前は日本の女の子の名前がいいわあ。小梅ちゃんとか小雪ちゃんとか」と言い出した。


「現代の日本の女の子……の名前ではないけど、古風でかわいいよね」


「そうでしょう?桜子ちゃんとかお豆ちゃんとか」


くまとかおよねとか言い出すんじゃないだろうかと心配した。


そしてアダプションの場所にやってきた5匹の子猫。その中でも小さくてかわいい灰色の子猫に決めた。


里親会の女性は子猫をひっくり返して


BOYついてるね!」と言った。


「え!!」母は男の子の名前を全く考えていなかった。


その日連れて帰れなかったので家族で(緊急猫の名前ミーティング)をした。


高校生だった息子はふざけたいお年頃「ミスターシュボルバスキーシュナイザーとかがいいな」


なげえし、覚えられねえし。却下


夫は息子につけたかった「ゼウスが良い」と言い出した。小さな子猫。全然見かけがゼウスじゃないし、しかも英語の発音だとズースというのだ。かっちょ悪い。却下


母は「英語の名前はいや!特にLとRが入ってたら発音できない!」と言った。


私たちの息子が生まれた時にも言った。「名前にLとRとTHはいれないで」と。


日本では孫の名前は字画などを気にすると思うのだが「発音できないから入れるな」と言うのだ。「え?そこ?」と思ったが確かに「日本人にも呼びやすいほうがいいかな」と私も賛成だった。


ちなみに夫のアメリカ人母は息子の名前に「ミフネ」とつけたがった。


三船敏郎のファンだったからだ。


かなり本気で危ないところだった。



それはともかく、子猫の名前。


皆で大騒ぎをしながらもやっと名前が決まった。


「コタロー」だ。


小さいタローちゃん。ゴロもいいし可愛い。


コタローもローマ字のRが入るけれど夫も息子もきれいに発音できる。

近所の獣医さんは多くのアメリア人と同じく「コーティァロォ~ゥ?」と発音するけれど。


コタローを一週間後に引き取りに行ったとき、縁あってチャトラの子猫も一緒に引き取ることになった。そしてまた慌てて家族会議が開かれた。



「茶色だから、チャタロー!」似た名前ではない方がいいと却下。


「じゃあコタローとコジロー」


「だーから!似てるのはダメだって」


「じゃあ、茶色だから(茶!)は?」


「ぶっ!短すぎる」


「じゃあほら日本の(茶々丸)は?」


あ~それはいいねと一致して決まったのだが、長くて呼びにくいといつのまにか

(チャチャ)に落ち着いた。


しかしここに深い深い落とし穴があったのだった。


数年後、英語のChachaに意味があったことを知った。


1つは(安っぽい服を着た尻軽そうな女)


もう1つは(女性器)の意味だった。


英語で男性器、女性器のスラングはとても多い。ドン引きするくらいだ。そして私はひそかに研究しているのだが、Chachaは知らなかった。


その頃のチャチャは私が「チャチャ―!」と呼べばどこからでも走ってきた。少し困ったけれど、主にラテン系の人達のスラングらしくあまり使われていなかったので、名前を変えることはなかった。


そして私はあることを思い出した。パーティーなど人の集まるところに行くと、それぞれペット自慢が始まる。うちの犬は可愛いよ、うちは猫を飼っているの。そしてMy catはこんなことするのと話が弾むのだ。そして私は確かこう言った。


「私のチャチャの毛はオレンジでふわっふわなの!」


……気をつけなければと思った。


意外なところに海外暮らしの落とし穴があるのだった。


コタローには変な意味はなかったがアメリカの友人たちは誰一人発音できない。


「キョタロー」や「コーティアオー」はまだ良いほうで、ついに「カトー」と呼ばれた日は笑ってしまった。


「カトー」さんと「あそこ」さん。


名前を決めてから8年経った。すっかり大きくなった我が家の猫たち。どっちも本当にかわいい。あまりにも好きで背中に顔をうずめて号泣してしまいそうだ。


大切な家族だ。


アメリカの名前を持つお父さん。

日本人の名前を持つお母さん。

ファーストネームとミドルネームでどちらの名前も持つ息子。

アメリカ生まれだけど面白い名前の猫たち。


大好きで大切でなによりもかけがえのない私の家族。


海外暮らしは時に辛いこともあるけれど、こんな素晴らしい家族に巡りあえたことを毎日感謝している。


運命のしっぽ家族。


うちに来てくれてありがとう。そして変な名前をつけてごめんなさい。





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