終章

 それから約一か月間、冬子はオルゴールと共に唄を紡ぎ続けました。聞いたものをみんな魅了してしまう、とても心地よい音色でした。

 そして冬子は死にました。十三という若さで、心と体には深い傷を負ったまま。

 もし神が居るのなら、もっと早く冬子と出逢わせて欲しかった。私は彼女に何もしてやれなかった。


 彼女は恩師の死について何も知れないままに旅立ってしまいました。元より、夏美さんが引退を考えていた理由は、バレエ業界に居づらくなってしまったからです。

 もちろんそれだけではなく、冬子に関連して思い詰めていた節もあったそうです。自分のレッスンが原因で冬子が片足になってしまったのだと思い込んでしまい、周りがいくら言っても聞いてくれなかったそうです。

 そんな夏美を邪魔だと疎む人たちも居て、それが夏美さんの引退を決意させた原因だったようです。そして引退後も圧力を掛けられ続け、限界を迎える寸前に冬子の動画が送られてきて、完全に心が砕けてしまった…。

 これが、冬子の死後に遺書から発見された内容です。もしこれを冬子が知れていたら、或いは彼女ももう少しマシな最期を迎えられたのではと思っています。


 あれからもう十数年が経ちますが、私が彼女の事を忘れた日は一回もありません。

 《白鳥園》は閉鎖されましたが、窓辺の一部屋だけオルゴールが置いてあるんです。たまに通ると、中からは綺麗な歌声が聞こえ、女性の姿が見える…気がします。


 これが、私の愛した〝窓頭のバレリーナ〟の話です。ここまで読んでいただけて、きっと冬子も喜んでいるのではないでしょうか…。

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窓頭のバレリーナ SaLa @Brad3120

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