魔法使いオクタと奇妙な冒険

BlackMercury

第1話 前田秀平の日常

毎日、学校の玄関にある自分の下駄箱を開けるたびに、自分の身分を思い知らされる。


「死ね」「キモイ」などと書かれた紙くずや、ペットボトルやごみがあふれ出てくる。

上履きには画びょうが入っている。

それをうつむきながら取り除いていると、隣にいた女子のグループがニヤニヤ笑いながらこちらに

スマホを向け、写メを取ってくる。「キモ―い」とか言いながら。


そして遠く離れたところでそれを一瞥しながら、美男美女のカップルが仲良く登校してくる。

あいつらは、勉強もスポーツも良くできる。俺が必死で勉強しても逆立ちしても取れない成績を、遊びまくっているあいつらは才能だけで取れるのだ。


どうせ親も優秀で、周りからちやほやされて生きてきたのだろう。だから何でもできるのだ。

必死に努力して成果を上げても親からすら暴言を吐かれるブサ男と、ちょっと努力しただけでクラス中からもてはやされるイケメンとでは、初めから立っている土俵が違う。


俺の人生は我慢だ。我慢こそが俺の人生だ。

神様も、俺みたいなダメ男にだって一回くらいはチャンスをくれるだろう。

それまで周りに何をされても我慢して、チャンスが来たらそれを必ず物にして、

見返してやろう。そうすれば今まで苦労も、糧となる時が来る。

それだけが俺の心の支えなのだ。


そんな事を考えながら、俺はボロボロの上履きをはいて、うつむきながら自分のクラスの教室に入った。もちろん、誰も俺に声もかけなかった。


いつものように自分の机の上に置いてある花瓶を元の場所に戻し、椅子の上に並べられている画びょうを取り除いた後、席に座ると、椅子の足が突然折れ、俺は椅子ごと床に倒れこんだ。


「ギャハハハハ」男子数名が声を上げて笑い始めた。女子もクスクスと笑ってスマホを向けている。

ああそうか。あいつらが椅子に細工をしたのか。

俺の心の中には、状況を冷めた目で分析している自分がいた。


でも我慢だ。我慢。そうすればいつか・・・。


そう思いなおし、俺はうつむきながらゆっくりと立ち上がった。


そうこうしていると、始業のチャイムが鳴った。

担任の男の教師が入ってきて、皆何事もなかったかのように席に着く。


教師は俺の椅子が大破しているのを確認すると、俺を一瞥して言った。

「お前、何やってんだ」

「クラスメイトの誰かに椅子を壊されて、座れないんです」

「何?誰だ、こいつの椅子を壊したのは」

教師がクラスを見回すと、皆しれっとした顔でだんまりを決め込んでいる。


しばらくして、あるクラスメイトの男が言った。

「こいつ、自分で椅子壊して人のせいにしてるだけじゃないですかぁ?」

他のクラスメイトもクスクスと笑っている。

教師が言った。

「はぁ?お前、自分で椅子を壊したのか?」



こいつらは、自分たちが散々ひどいことをしておいて、ぬけぬけとそういう事が言えるのだ。

俺ではあんな弁舌はとても立たない。だから女にモテないのだ。

そんな事を考えていると、教師が俺に向けて言い放った。

「秀平、お前後で職員室に来い」


そして、教師は何事もなかったかのように朝礼を始めた。


午前中の授業はあっという間に過ぎ、昼になった。

クラスの皆が楽しそうに男女入り乱れて楽しそうに食事する中、俺はいつもの便所飯だ。

同級生にクスクス笑われながら、こそこそとトイレの個室に入り、膝の上に持ってきた弁当を

広げる。

食べている間も、決して安心できない。この間、ドア越しにバケツにはいった汚水をぶっかけられたからな。

周囲に神経を張り巡らしながら急いで弁当を腹に詰め込み、周りに誰もいないのを確認してから、そっとトイレから脱出した。


教室に帰ると、また俺の机の上には花瓶やら紙くずやらが置かれていた。

席に近づこうとすると、近くにいた女子生徒がさっと顔色を変えてそそくさと立ち去った。

椅子に何もしかけられていないかさっきよりも慎重に確認してから、席に座る。


まるで、命を狙われている外法者にでもなった気分だ。

俺に、普通の人生なんて、無理なのかな?

チャンスを待って一発逆転なんて、甘すぎるのかもしれない。


いや、そんなことはあってはならない。

そのチャンスのために今まで散々我慢してきたんじゃないか。

それが来ないというのならば、俺は今まで何のために生きてきたんだ。


放課後。

今日は担任の教師の所に行くことになっている。

俺は、約束の時間まで図書室で本を読んで時間を潰した後、職員室のドアをノックした。

「失礼しまーす」

ドアを開けると、教頭がドアの前に立っていた。

「ああ、前田か。阿部先生、前田が来ましたよ。」

「ああ来たか、おい、こっちだ」

「・・・失礼します。」

俺は再度そう言うと、かったるそうに阿部先生のところに歩いて行った。

だってそうだろう。

どうせ、椅子を壊したのはお前だとか、いじめられる側が悪いだとか、

俺の事を責めるに決まっている。

これでかったるくならない方がどうかしているというものだ。


「お前、いじめられているのか?」

先生の第一声はこれだった。

「ええ、そうですよ。どうせ、信じてもらえないでしょうが」

「いや、信じているから言ってるんだ。」

先生は、俺の方をまっすぐ見て、言った。

「いいか、いじめって言うのは、どんな社会、組織に入っても必ずついて回る。

君がこれから大人になってからもだ。でも、いじめている奴らの性根なんて変わりゃしない。

だから、状況を変えるには、いじめられている君が変わるしかないんだ。」

「つまり、俺が悪いってことですか?」

俺は吐き捨てるように言った。

「そうじゃない、何と言ったらいいのか・・・」

先生は頭を掻きながら、言った。

「ちょうど、今度転校してくる子が今応接室にいる。その子は少々変わった子でね・・・。

その子と友達になってやってくれないか?そうすれば、君の中の何かが変わるかもしれない。」

「気持ちの悪い者同士仲良くやっていろと?俺に厄介な生徒を押し付けるつもりですね。」

「そうじゃない。確かに変わっているが、それだけじゃないんだ。まぁ、会ってみればわかる。」


俺は、断ろうと思ったが、少し考えてやめた。

そいつがどんな奴か、確かめてからでも遅くないと思ったのだった。


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