あとがき
本作をお読みいただき、ありがとうございます。
本作はスペースSFの皮をかぶっていますが、中身はむしろバイオSFとソーシャルSFのミックスで、マイノリティの意味と意義を問う心理的な話にしたつもりです。
通常、マイノリティであっても、それらはなんらかの形で
もし何のカテゴリーにも当てはまらないマイノリティが存在したら。そして、自分がもしそのマイノリティであったなら。そうした状況がもたらす悲喜劇を、ブラムたちに演じてもらったつもりです。
ブラムたちは、望まない形で遅老症患者というカテゴリーに一方的に押し込められていますが、彼らには長寿命で頑強なことを除いて何一つ共通点がありません。具有している性質も、一般人より優れているわけではありません。しかもあまりに数が少ない遅老症患者は互いにそう認識する機会がなく、そもそも集団を作れません。まさに究極のマイノリティなんです。
寄る辺ない彼らの誰もが、一般人と同じ社会でごく普通に生活したいと願うんです。でも、それを多数派から否定されてしまったら一体どうすればいいのでしょう?
この話の中ではキャップに問題提起役を務めてもらいましたが、キャップはそれに対する解を明示していません。だって彼自身も究極のマイノリティであり、『神』でもありませんから。
誰も解を持っていないことは、絶対真理の不在。力を失った黒い太陽の下にいることは、その象徴なんです。そして黒い太陽の下にいることが嫌ならば、どんなに小さくても自分自身が太陽になるしかないんですよ。無力だ、無意味だと全てを放り出す前にね。
集団が意味を失い、それが小さく壊れて中の個が放り出されていく。多数派と言いながら、その外形も中身もわからなくなっている。遠い未来の話ではなく、まさに現在進行形の話でしょう。ですが、一度個のレベルにまでブレークダウンしないと集団を作る意味なんかわかりません。多数派の意味や意義が急速に不鮮明になりつつある今、一人一人が小さな太陽であるというところまで一度意識を戻した方がいいんじゃないかなと。そんなことを考えながらブラムたちを動かしてみました。
◇ ◇ ◇
話の中で誰も死なない。誰も脱落しない。全てを明るいトーンの中で解決する。その基本線を堅持しながらも、重たいテーマをしっかり展開しよう。ブラムたちが先の見通せない未来に挑んでいるように、本話もわたしにとっては挑戦でした。チャレンジがどれほど実を結んだかは、わたしにはわかりません。でも、せめて一粒の種子でもみなさんの中に残せれば、筆を執った意味があったかなあと。
改めて、お読みいただいたことに深く感謝いたします。ありがとうございました。
難民もしくは開拓者 ——黒い太陽の下で—— 水円 岳 @mizomer
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