エピローグ タクシーの車内で
「それで何でこの時間に帰られるんですか?」
「お互い次の日の都合で家で寝たかったのでサクッとヤッてサクッと出ちゃいました。ホテル1時間も居なかったです。宿泊料金でした…(苦笑)」
「何だか私には無縁の世界ですねぇ…。今まで色んなお客様を乗せてきましたがそんな話聞いたの初めてですよぉ…(驚)」
「そんな大きな声出さなくても…(笑)」
「だってさっきからお兄さん凄いこと仰ってますよ⁉︎ 自分が言ってること分かってますか⁉︎」
「そりゃぁまぁ…。自分がさっきまでしていたことですから(笑)」
「いやぁ…、私にはとても信じられないですよ…」
「そう仰るじゃないですか?僕は思うんですけど、ここにいる僕がそういう経験を当然のようにしてるという事はですよ? そこら中とは言わずとも一定の割合いで似たようなコトをしているヒトがいるという事ですよ」
「羨ましいです…」
「いえ、僕だってガキの頃は周囲の人間の事ばかりが羨ましくて仕方なかったんですよ。張り合う様に色々アクションに移していたら何かいざという時にチャンスをキッチリとゴールに結びつける事が習慣の様になってました」
「なるほど、何だか難しいですが分かるような気がします」
「実際後から聞くと周囲の羨ましい話題はそれなりに盛られて脚色付けられたエピソードばかりだったのを知って、他人の話は当てにならないと興味も失せましたが(笑)」
「ヒトの話は尾鰭をつけて回りますからね…(笑)」
「そう。もしかしたら僕のこの話も全て嘘かも知れません(笑)」
「いえ。お兄さんのお話は事実でしょう。だって先ほどの女性を確かに私この車に乗せましたもの」
「でも友達かも知れないし、SEXなんてしてもいない、そもそも職場の同僚とかありふれた間柄かも知れない」
「いえ、お兄さんは嘘をついていません。それくらいは私にだって分かります」
「そうですか(笑) ってか運転手さん、僕よりもめちゃ出会うチャンス多い筈ですよ?毎日何人乗っけられてんですか(笑)」
「それはそうですがお客様ですし…」
「そう言ってる間はチャンスを見過ごして掴めないです。チャンスは当たり前の日常に転がってるものですよ」
「でもこれは又聞きですけどね、確かに女性のお客様に誘われてそのまま…、なんて事もあると聞いたことがあります。もちろん私の周囲の人間ではないです…(悲)」
「でしょ?そういう事は一定の割合いで起こってるんですって。その運転手さんはチャンスを見逃さない判断力とゴールを決めるまでの決定力があっただけです」
「何だか私も挑戦してみたくなって来ました…」
「お、良いじゃないですか!(笑)」
自宅に続く海沿いの道はこの時間帯では街灯の灯りと、ショッピングモールを照らす照明を更に水面が揺らすのがこの距離からも微かに見える。
「そこの信号過ぎた辺りで停めて下さい」
「承知致しました。いやぁ今日はお兄さんとお話出来て本当に良かった! こう言うと変な感じですが、有り難う御座います!」
「いえいえ。あ、カード切れます? そう言えば思い出した! 最後に1つだけ良い事教えてあげましょう!」
「何でしょう⁉︎(嬉)」
「ブラジリアンワックスって分かります?」
「何のワックスですか?」
「まぁそこは適当にスマホで検索でもしてみてください。さっきのお姉さんブラジリアンワックスで手入れしてるらしく、ア○コの毛がなくてツルツルでした! ちょっとだけ得した気分になるの分かります?」
「えええええぇぇぇぇぇええええええ⁉︎」
「だから大きな声出し過ぎだって(笑)」
「さっきの女性がですかぁ…⁉︎」
「夢があるでしょ?(笑) ではまたどこかでお会いした時のために話のネタ集めときますね、それじゃあ!(笑)」
「ちょっと待ってください、まだ話の途中ですよ…(焦)」
「それじゃおやすみなさーい(笑)」
「ちょっと待って下さい…」
そう言うドライバーを振り切り、精算を済ませた僕は自宅のエントランスへと歩を進めた。
自宅マンションのロータリーを回りオートロックの大きな扉を開けた。
帰宅してもう一度シャワーを浴びて床につく。
ベッドに横になり天井を眺めながらドライバーには何だか悪いことをしてしまったかも知れないと思いながらも、こうやって自分のストーリーがヒトに刺激を与えることに快感や喜びを覚える自分がいる。
この後ドライバーは仕事になっただろうかと若干気に掛けながらもそのまま朝まで気絶したように、泥のように眠った。
華の金曜日とタクシードライバー 城西腐 @josephhvision
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