第7話 そして、世はこともなし
「ライフサポートシステムの通報でやってまいりました!
紫煙クリニックの救急サービスです。…ええと、ガミーヌさんはいらっしゃいますか?」
しかし、肝心のマダム・ガミーヌの姿は家の中のどこにもない…。
家中を探しながら救急隊員たちは叫んだ。
「マダム・ガミーヌさん!マダム・ガミーヌさんどこですか?」
「大丈夫ですかー?!」
しばらくの沈黙ののち、家電達は各々応答した。
「問題ありません。ワタクシハ正常に作動中。」
「問題ありません。ワタクシハ正常に作動中。」
「問題ありません。ワタクシハ正常に作動中。」
世は全てこともなし
……。
ところで、ミズ・コレリックがマダム・ガミーヌに連絡を取って来たのは、実に2時間後。
『ユア・セクレタリー』による3回目のリダイアルの後だった。
「ザザ…お母さん、どうしたの? なん年ぶりの電話かしら…いきなりでびっくりしたわよ。ザザザ火星にいるんだけど、とってもいい眺めーっ!!
お母さんにも見せてあげたいわ…あとでビデオを送るわね。
あ、でも惑星間時差があるから明後日になっちゃうかも…ザザザザ」
『ユア・セクレタリー』は誰もいない家の中でマダム・ガミーヌに向かって問いかける。
「マダム・ガミーヌ、お嬢様から電話がかかっております。お出になりますか」
しかし当然のことながら応える者はもはやこの家にはいない。
そこで物が代わりにガミーヌに成り切ってどうどうと返事をする。
返信の内容は、些細なことで喧嘩をした時にマダムガミーヌが怒り狂って録音させたものだった。
これはおよそ12年ほど前の話だ。
「コノオテンバ娘ガ、コンナ時間ニ電話ナンテ掛ケテクルンジャナイヨ!」
「ザザ…え、?なんですって? 電波が弱くてよく聞こえない…ザザザ」
「ニドト、電話ナンカ掛ケテクルナ、コノアバズレガ」
かろうじて拾った言葉をつなぎ合わせて内容を理解したとすれば、ミズ・コレリックが返す言葉も短く通信を終了するのも無理はない。
「もう、なんなのよ!」
がちゃん。
ミズ・コレリックが母親が倒れる前に言いかけた言葉の内容を実際に知ったのは、実に1週間後のこと。
紫煙ックリニックに入院したマダムガミーヌがかろうじて一命を取り止めたことを知らせる連絡であった。
(了)
全て世はこともなし 青山天音 @amane2018
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