第3話 12/1~2019/1/31

木枯らしは肋骨を割り心臓を引きずり出して置き去りにした。

悲しみは日々、新しく生まれたる。命あふれる地球にも似て。

人間の声がうるさくボリュームをゼロにし眺むテレビの画面

明日にはすべて上書きされるだろう。感情までもがリセットされて。

ぽっかりと喪失感だけ残ってる失くしたものはわからないのに 

海水をすべて注いでも溢れない貪欲な穴に土砂を投げこむ

陰の血は後に残さじ両の手でからまる二重螺旋をちぎる

太陽が昇らぬ季節もあるでしょう。終わらない夜に君の名を呼ぶ。

肯定と否定を幾度も繰り返すいつもと同じの日曜の夜

優しさと優柔不断は違います。求めていたのはレゾンデートル。

善意さえ届かぬ場所に行きついた人を思って咳をしている

悲しみは空に揮発し雨となりそして世界を循環している

星はゆく身を焼く光を撒きちらし時間にその名を刻みつけつつ

帰り道、窓から漏れる灯火のひとつひとつに呪いをかける。

信号は赤く輝く毎日の遅い歩みも止めるがごとく

情熱をなくしたせいか爪先が亡骸よりも冷えこごえたる

木枯らしが吹き抜けるとき鳴る音は静寂に似た胸の心音

やわやわと君の手足を留めるピンは孤独と自由と無知という名で

赤々きテールランプの連なりは季節はずれの送り火に見え

いくつもの日々は彼方にのみ込まれ今またひとつ夜を葬る

階段に鈍く輝く猫の目に見いられている年の瀬の夜 

信仰を持たないゆえに親切にすべて偽善がまぶされている

裏路地にイルミネーション輝きぬ道ゆく人は冬の葬列

愛は哀 罪を贖う神の子は十字架とゆくゴルゴダの丘 

温暖な冬の暮らしが奪いさる孤独の意味と物おもうとき

約束はしばらく果たせないでしょう七生ののちご縁があれば

願い事が叶うことなどないだろう。サンタは去年、沖に沈めた。

行くさきも分からぬままに歩みおりただ影だけを道連れにして

朝陽から1600㎞で逃げている我が同胞は夜の住人

傾いた日射しがおまえに刺青する今日を弔うあかねの色に

末法の強制される反知性主義の世界で生かされており

自らを犠牲にしない生き方を共に求めん次の世界で

濃い闇にひそんで住まう山犬の遠吠え聞こゆ元旦の夜 

思い出に火を放つ夜もあるだろう今いるここを照らしだすため 

善い人であろうとしたのは誰のため人を偽り偽善者となる

いつからか色を無くした血液に色を与えよ燃える炎の

色の名を一つ一つと消してゆきモノクロの中で息をしている

落書きと悪意に汚れた道をゆく悩み考え胸をはりつつ

情熱を鎮火したのは目尻から流せず止めおきたる涙 

群青を流星群が刻む夜は眠りがいつも不確かになる 

背中から不意に突き刺す言の葉は憎ではなくてほぼ愛である。

見返りの一つも望まず朽ちている誰かの好意を踏みて暮らしぬ

不確かに脈を刻みぬ心音も前より強くはぜているのだ。

落ちる日に染まりつ西へ飛ぶ烏ばさりばさりと風になぶられ

秒針をもぎとり歴史に突き立てて生きた証の爪痕とする 

終わりない夜の旅路と思えどもはるか遠くに灯火の見ゆ

ついえたる命は一度堆積し再び燃える石油となりぬ

置き去りにした感情に揺さぶられ午前三時の天井を見る

宴席は朋友たちと囲みたし うつろな笑顔で交わす盃

人並みの日々を恐れず生きていく幸も不幸もただそこに在る

連々と過去につながる鈍色の鎖は呪い。張りつめており。

君がみる月とわたしがみる月は果たして同じ月なのでしょうか 

夢を喰い身の糧とする貘の群れその中にまた戻ろうとする 

かなしみはかなしみのまま受けいれる顔の向くほうをただ前とする

両手から零れおちたる砂粒を行きつ戻りつひろいあつめる 

成熟の機会なくした世界では境界線があいまいになる

ポジティブもネガティブもなく生活す日々の感情消化しながら

道行きは霧に閉ざせり最涯てを目指して進む声に従い

靴底を冷たい藍に侵されど歩みとめざり海へ踏みだす

幸せに罪悪感を抱いてた自分に自分でかけた呪いで

万物がうつろうことは知っている されど止めんその輝きを 

はるけきに凍土に埋めた魂のまだ凍らざり星のふる夜 

あざやかな光をつむぐ君の手は、明けない夜の灯台でした。

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#陰鬱短歌 2018/1/30から 久利須カイ @cross_sky_78

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