第2話 9/16-12/1
幸せは私を駄目にするだろう。是も非もなくただここいるのだ。
捨て時を逃した夢の亡骸をいまも抱える曼珠沙華さく
夕立が今日の私を洗うのだ。月光に骨が輝くように。
絡みあい二重らせんは紡がれる愛と憎とを遺伝子にして
身のうちで猛るなにかを抑えこむ血で贖えと叫ぶなにかを
くすぶる火を消せないままに時は過ぎここに至れり足踏みをする
海に降る青は原始に還る雨やがて誰もがたどり着く場所
与えては奪うことを繰りかえし時はうそぶく命の意味を
日々西へかたむく陽射しは早くなり伸びたる影を引きずりて行く
秋雨は涙が空に揮発して世界に戻る還流である。
降るたびに熱の名残を剥がす雨。フラッシュバックと背から刺す夏。
わけもなく青い霧のかかる夜は常より月が重く感じる
最果てにいたる道を探しては迷いたたずむY字路の前
唇が音なく割れて流血す声なき叫び上げたる時に
背に走る稲妻に似た亀裂から息するたびに血潮がもれる
肌寒いときだけ誰かの体温を欲するわたしの心あさまし
沈む陽が路上に影を刺青する行く人をみな縫いつけるごとく
不確かな善と倫理に日々迷う心つらぬけロンギヌスの槍
悲しみの在りかを手探りする指は何も掴めず虚無を撫でたる
足元で生から死へと移りゆく音を聞きたり十月の夜
線路への一歩を踏み出す人の気を想像し得ない君の幸せ
晩夏の日ただ一度だけ一度だけそっと足をとめ来し方をみる
君はただ一人の幸を祈れかし我は余人の幸を祈らむ
不確かな縁と想いのつなぐ道たどりし君の背中眩しき
古傷を秘めたる人の胸に棲む山犬の声はるか聞こえり
届かない彼岸にむけて手を伸ばす シャボン玉散る名ばかりの秋
終わらない夏の陽に沸く血液を零下にせしむ冷めた心臓
逃げ場所を無くした夏の残熱がありとあらゆる感情を焼く
愛情の減りゆく様を知りたれば安易に人を愛せずにおり
呪いなど誰もが背負うものでしょう。いずれ失う命と同じく。
過ぎ去りし夏の残した傷痕のカサブタを剥ぐきみの指先
歓喜なる心を忘れ幾年か 地の上で一人 空の下で一人
もろもろを抱えて生きていく いまの決意を五秒先へ繋げつ
夜がまた今日という日を塗りつぶす日暮れに白い影法師となる
さまよえる人を見つける優しさに似たるメシアの住まう心臓
なに一つこわいことなどありはしない明日を生きることの他には
心音の失われたる胸郭で亡霊が哭く。秋風の吹く。
迷いつつ自己と他者との境界で満足の場所探しただよう
流されるままに漂う生活も慣れれば楽で骨をうしなう
伸ばす手をわずかな距離ですり抜ける希望と悲哀、日々の現実
中空に月はただある肯定も否定もせずに皆を照らしつ
息をするたびに廃墟の肋骨に群青満ちて夜があふれる
空っぽの体に響く泣き声に膝を抱えて耳をすましぬ
ともすれば光みうしなう日々のなか希望の歌に灯火をみる
無垢となり無彩の夜に色を置く月の光と遊ぶ箱庭
いくつもの重ねた不義理を数えたるうちに明けゆく東をみる
災厄の海に溺れる人たちよ踏み台にせよ我の背中を
山鳴りが耳にこだます月光を静かに映す骨を夢みる
光速で時は過ぎゆく在りし日によりすがる人を振り向きもせず
周囲との目には見えない間仕切りに気づいたりしは幼子のころ
一瞬で身を焼きつくす流れ星 悲哀の溶けた涙にも似て
金色の鎌よ骨身にはりついた悲しみを刈れ空の三日月
いつか身は意味を失い土となる せめて輝け生の軌跡よ
ゆく人の顔はモノクロ秋風はさらに削りぬ目口耳鼻
灰色のビルの谷間にふく風に街のガラスがびょうびょうと鳴り
さまよえる心はさまようままでいい地面に足さえついているなら
いくつもの矛盾をはらむ生活は人が人たる証しでもあり
死ぬこと以外はかすり傷と言えど生きてるだけで大やけどの俺
黄昏が早まる秋だ。残日を数える日々もまた秋である。
流星に願いをかけても叶うまい。奴らは身を焦がすのに必死だ。
献身と自己犠牲との真ん中で迷える君の背中うつくし
死を思うことと死を願うこととは似て非なるもの君は説きおり
行くさきでただ余所者となるために本を携え旅人となる
唇が動かすたびに裂けるのでいつしか笑いを止めて久しい。
網膜を開けば見ゆる景色には常より色濃き陰が従う
if、and、or や not の点と点。つないだ線の先端におり。
二度と湧きたつことのない黒い血は日々を過ぎこし墨に近づく
大切ななにかをいつも後にして人は行くのだ、今日も明日も。
脳のすみ晴れることのない霧を日々寄り添いし伴侶とせしむ
自分だけ特別なのかと問う声が毒を含んだ谺となりぬ
絶望を絶望のままに生きるには生きる上での覚悟足りなく
半身が骨になれどもなお生きる。まだ最果てではないと唱えつ。
雪よ雪、激しき雪よ塗りつぶせ。のたうつ我と我の軌跡を。
悲しみの色は誰かと分けあえど薄くならざり雪のふる街
目の下に拡がる光の絨毯に滑りおりたり旅が終わりぬ
いたずらに砂の棲み家を築いては無為を重ねつ不惑となりぬ
吹く風は目玉を削る火をつける無彩の街で月に吠えたる
十代の化石置き去りし北の街 目覚めずにあれ凍土の下で
輝きはある日、突然、虚無感を代わりに置き去り、価値を失う。
抱く膝がすり減るがごとく独りなり。坂道くだる夢をよくみる。
いくつかの誤解が重なり知らぬ間に優しい人と評されている
週末も早く目覚めど布団から出られずにおり出られずにおり
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